二十一日後の港
共同観測室の窓は新しくなり、棚には鍵付きの記録箱が三つ置かれた。監察局、組合、住民代表。どれか一つでは開かない方式だ。
イオナは朝の巡回で掲示板を確認し、昨日分の潮位実測と予測差を赤鉛筆で修正する。誤差を隠すのではなく、誤差が出た理由を添えて残す。
高台市場では、避難訓練の案内が「年二回」から「月一回」へ変わった。面倒だと文句は出る。
それでも参加率は徐々に上がった。前回の夜を知っているからだ。
昼、メラが組合の新帳簿を持ってくる。
「様式統一した。監察局の番号と組合の番号を揃えたよ」
ガルムは復旧班の報告を机へ置いた。
「東端老朽家屋、移転完了。仮住居から恒久区画へ移す」
仕事は地味で、達成感は薄い。
だが港はこういう地味で持つ。
夕方、郵便鳥が降りた。
差出人欄は空白。慣れた封筒だ。
中身は薄い波形図、一枚。
北方沿岸ノードの負荷推移。デルガと同じ癖で跳ねる。
末尾に一行。
――会議体は次段階へ移行。現地合流は三日後。
イオナは紙を閉じ、窓の外を見た。
海の色は穏やかで、何も起きそうに見えない。
「三日後か」
ガルムが外套を取る。
「行く前に引き継ぎを終わらせる。今回の目的は?」
イオナは即答した。
「観測、公開、運用。デルガでやった三つを、そのまま持っていく」
メラが笑う。
「戻ってくる導線も忘れるなよ」
イオナは頷いた。
港を守る仕事に、終わりはない。
終わりがないからこそ、ひとつずつ終わらせる。
机上の新しい観測帳へ、彼女は見出しを書いた。
第二案件: 北方沿岸N-3。
外で夜の鐘が鳴る。
次の七日間が、静かに始まっていた。




