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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

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第97話 盾のありか ~盾が守るもの~

1/2

 


 足が、重い。

 盾の少女は、足を引きずりながら考えていた。

 歩くたびに、体の奥が冷えていく。

 まるで、心臓の音が遠ざかっていくみたいだった。

 仲間が、ちらちらと視線を向けているのにも気づかずに。


 自分は、何をしたいのだろうか。


 地上に向かって歩き始めたとき——それは、彼の死の責任を誰かに突きつけるためだった。 学校とか、制度とか、そういうものに。


 でも、違った。

 そんなことは、どうでもよかった。

 今は、そう思う。


 歩く理由が、欲しかっただけだ。

 何かを責めることで、前に進む理由を作ろうとしていただけ。


 なら——『私』の進む理由は、何?


 彼の盾を持っている。

 それは、彼の背中を継ぐためだった。

 でも、それだけじゃ足りない。


 彼の背中を見ていた自分が、今度は誰かの前に立つ。

 その意味を、まだ見つけられていない。


「・・・私が、守りたいものって・・・何?」


 通路の先は暗い。

 でも、彼女の瞳には、少しだけ光が宿っていた。


 それは、問いの先にある答えを探すための光。

 そして、盾を持つ者としての、最初の一歩だった。


「見つけた!」


 横道から、教師たちが姿を現す。

 その先頭に立つのは、杖を握った女教師。

 瞳は鋭く、口元には確信の笑み。


「呪術師の私に、その呪いは隠せないわ!」


 彼女は杖を掲げ、何かを詠唱し始める。

 盾の少女の足元に宿る『黒い染み』が、標的にされたようだった。


「ライト!」


 生徒側の魔法使いが、反射的に叫ぶ。

 杖が閃光を放ち、通路が白く染まる。


 瞬間的な目くらまし。

 教師たちの視界が奪われる。


「今よっ!」

「急いで!」


 別の生徒が叫び、盾の少女が前に出る。

 足は重い。

 でも、盾は動いた。


 閃光の中、彼女は教師の魔法を遮るように盾を構えた。

 呪術の詠唱が、途中で途切れる。


「くっ・・・!」


 女教師が後退する。

 だが、呪いはまだそこにある。

 黒い染みは、脈打ち続けていた。


「・・・見られた、か」


 盾の少女は、静かに呟いた。

 でも、もう逃げない。

 彼女は、盾を持って前に立った。


 それが、今の『私』の進む理由だった。


 その・・・はずだった。


「え?」


 盾の少女は、呆然と立ち尽くす。


 閃光が消えた通路には、もう誰もいなかった。

 仲間も、教師も——誰一人、そこにはいなかった。


「・・・どこ・・・行ったの・・・?」


 彼女の声は、誰にも届かない。

 ただ、石壁に吸い込まれていくだけだった。


 そして、気づく。

 自分が『置いていかれた』ことに。


 教師たちは、別の人物を追っていたのだ。

 呪いがかかっていたのは、実はその人物だった。


 思い返してみれば、呪術師の女教師は自分の所へ来たのではない。

 自分が『誰か』との間に割り込んだのだ。

 初めから、自分は目に入っていなかった。


 でも、生徒たちは——『盾の少女が呪われている』と思い込んでいた。

 少しでも異常な行動が見られたら離れる心づもりができていたのだろう。


 だから、教師に追いつかれたとたん彼女を置いて逃げた。

 そういうことだった。


 ◇置いて行かれた場所◇


「・・・そっか・・・」


 彼女は、足元の黒い染みを見下ろす。

 それは、確かに『呪いのように』見えた。

 でも、それはただの傷だった。


 誤解だった。

 でも、誰も確認しなかった。

 誰も、彼女に声をかけなかった。


「・・・私、守るために盾を持ったはずなのに・・・」


 その盾は、今、何も守っていなかった。

 誰も、彼女の後ろにはいなかった。


 それでも、盾は手放さなかった。

 それが、彼女の“進む理由”だった。


 そして、それで——十分だった。


 一人になって、わかった。

 誰もいないからこそ、気づけた。

 誰にも守られないからこそ、見えた。


 一人にしてもらえた「おかげ」で、気がついた。


「わたしは・・・」


 彼女は、盾を見下ろす。

 その表面には、戦いの傷が刻まれていた。

 彼の手の跡も、血の染みも、まだ残っていた。


「『痕跡』を置いておけなかっただけ」


 その声は、誰に向けたものでもなかった。

 ただ、自分の中にある『嘘』を、そっと剥がすような呟きだった。


「わたしは、『私』を守っていただけだ」


 誰かを守ろうなんて、思っていなかった。

 彼のようになりたいとも、思っていなかった。


 ただ——彼の痕跡と、その記憶を持つ『自分』が惜しかった。

 それを失ったら、自分が自分でなくなる気がした。


 だから、盾を持った。

 だから、歩き続けた。


「・・・それでも、いいよね」


 それは、偽善でも、正義でもない。

 ただの、わたしの理由。


 でも、それでいい。

 それでも、歩ける。


 彼女は、盾を握り直す。

 その手に、もう迷いはなかった。



 足の黒い歯型は、呪いではなかった。

 でも——毒だった。


 歩くうちに、毒は体を巡った。

 盾の少女の肉体は、少しずつ腐っていく。

 激痛に溺れながらも、彼女は歩き続けた。


 やがて——息をしなくなった。

 心臓も、止まった。


 それでも、彼女は歩き続けた。

 盾とともに。


 誰もいない通路を、誰にも見られないまま、誰にも気づかれずに。


 盾を持つ腕は、もう人のものではなかった。

 でも、その歩みは、確かに『彼女』だった。


 それは、守るためでも、戦うためでもない。

 ただ——進むための歩み。


 彼女は、もう何も語らない。

 でも、その歩みが、誰かの背中を押す。


 それが、彼女の『進む理由』だった。


 ◇カルマの嘆き◇


 舞台裏の管理部屋。

 モニタールーム内。


「って・・・また勝手に妖怪になってるのがいる――!」


 モニターを確認したカルマが、頭を抱えた。

『ダンジョンマスター』の自分に断りもなく、『システム』の補助もなしで妖怪化するとはどういうことか?!


 画面には、盾を持って歩き続ける少女の姿。

 もう息をしてない。

 でも、歩いてる。

 しかも、実体のない亡霊と来た。


「みんな人間やめるのに潔すぎないか?!」


 カルマの叫びに、周囲の妖怪たちがくすくす笑う。


「また一人、こっち側に来たねぇ」

「ようこそ、妖怪学園へ」

「って、また女か。やっぱ情念が深いってこと?」


 カルマは額を押さえながら、ため息をついた。


「いや、違うだろ・・・! せめて『未練』とか『呪い』とか、なんか理由つけてから来いよ!」


 でも、画面の中の彼女は、ただ静かに歩いていた。

 理由なんて、もう必要なかった。

『歩く』ことが、彼女の『進む理由』だったから。


 カルマは、肩をすくめて呟いた。


「・・・ま、いいけどさ」


 そして、彼は新たなウィンドウを開いた。

 そこには、こう記されていた。


 《新規登録:盾持ち妖怪『盾乃ありか』》 学園祭スタンプラリー:シークレットポイント

  報酬:幻の盾(※持ち帰り不可)


 カルマは、妖怪たちのざわめきを背に、ニヤリと笑った。


「見つけた奴には、ちょっとだけ『守る意味』を教えてやるよ」


 そして、彼はそっと画面を閉じた。

 その向こうで、盾の少女は歩いていた。


 その足元に、淡い光が灯る。

 それは、彼女の歩みが、ようやく『名を持つ存在』として認められた証だった。


「付喪神・・・『盾哭』とでも名付けるかな」

 既存の妖怪では思い当るのがいなかった。

 器物妖怪だから、付喪神系ということにしよう。


 ◇学園祭実行委員会への誘い◇


 足が、軽い。

『ダンマス』と会ってから——盾が、体も心も、軽くなった気がする。


 腐ったせいで通路に落としていた『肉体』も拾ってきてくれていて、私は『亡霊から妖怪』になった。

 初めてのケース・・・だそうだ。

 よくわからないけど。


 妖怪になったのに、「一緒に学園祭を盛りあげよう!」ってなに?

 周りにいる妖怪たちも、ノリが軽すぎる。

 踊るし、叫ぶし、屋台の準備までしてるし。


『人間』じゃなくなるって、気楽になるってこと?

 絶対違うよね?!

 そんな簡単に割り切れるわけないでしょ!


 ツッコミたいことは、山ほどある。

 でも——ツッコまないよ?


 私が持っているのは盾。

 槍じゃないんだから!


 盾は、守るもの。

 突くためじゃないの。

 だから、私は黙って見守る。


 でも、ちょっとだけ思う。


「・・・このノリ、嫌いじゃないかも」


 盾を持ったまま、彼女は学園祭の通路を歩いていく。

 気が付くと、どこかでなにかを支えている。

 それが、今の彼女の『進む理由』だった。



 退避と追跡行の脱落者=生徒6 教師9


 ◇


 それはそうと、一つだけ、謎が残った。


「結局、呪われていたのは誰?」

 ありかは首をひねり・・・屋台から流れるソースの匂いに意識を移した。


「透明な盾だと・・・隠せないよね」

 たこ焼きを・・・


「呪われてたの、もしかして——」

 ありかは言いかけて、たこ焼きを一つ口に放り込んだ。


「・・・ま、いっか。もう、関係ないし」



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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