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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第30話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③ 後編

7/7

 


 ◇観察者2(カルマ視点)◇


「お、起動確認。魔力生成、良好。反応速度、問題なし。うん、いいね。『一号』は優秀だ」

 機嫌よくモニターに頷いたカルマだが、ふと首を傾げた。


「作ってけしかけてはみたものの、人間に寄生させるって、精神的ダメージ以外に意味あるのかな?」


『異物の魔力を利用できるため、追加コストなしでモンスターを生成可能です。ステータスも高めになります』


「・・・なるほど」

 カルマは静かに頷いた。


「それなら、積極的に利用したくなるよね」


『コストパフォーマンス的には優秀です』


「よし、その方向で進めよう。あ、それとシステムの『異物』って呼び方、変えてくれる?」


『名称変更は可能です。どう呼びますか?』


「魔力をくれて、ポイントもくれて、モンスターまで育ててくれる――『お客様』が妥当じゃない?」


『了承。今後、『異物』は『お客様』と呼称します』


「そうして。では、『お客様』のためにもう少し演出に凝ってみようか。満足のいく舞台にしないとね。『観客』としても「役者」としても、そして・・・『小道具』としても。かな?」


 ◇数時間後◇男子B——イケダ視点◇


「【ヒール】」


 乾いた声が聞こえる。

 自分の声なのに、遠くから響いてくるようだった。


 手足は治っている。

 高級ポーションと回復魔法で、自分でくっつけた。


 目の前には、ウノとアイコ。

 二人とも、不要なものを処理され、巨大な虫に体を押さえられていた。


『蚊』と『ウスバカゲロウ』らしい。

 人間並みの大きさ。


 なにより――


「痒いっ、痒いっ、痒いんだよっ!」

「掻いて、掻いて、お願い!」


 ウノとアイコは、半狂乱で叫んでいた。

 体を押さえつける巨大な虫の脚が、皮膚を押しつぶすたびに、その下で『何か』が蠢く感覚が走る。


 皮膚の内側。

 筋肉のすぐ下。

 そこを這い回る、細くてぬるりとした感触。


「う、うごいてる・・・! 中で、動いてるの・・・!」


 意識と記憶の変化だけでは無視できない感覚的な刺激。

 掻こうとしても、届かない。

 掻けば掻くほど、奥へ逃げていく。

 まるで、わざと『痒み』を操っているかのように。


 魔力の乱れが、皮膚の下で波打っていた。

 その波は、一定のリズムで移動し、 神経を撫でるように刺激してくる。


「やめて・・・やめてよ・・・! もう、やだ・・・!」


 アイコの目は涙で濡れ、ウノは歯を食いしばっていた。

 だが、どちらも逃げられない。

『痒み』は、彼らの中にある。


 そして、それは成長していた。

 痒みが、熱に変わり、熱が、圧迫感に変わり、圧迫感が、やがて“何か『生まれる』予感に変わっていく。


 そんなわけで、ものすごく痒がっていた。

 そりゃそうだろうな。

 無感動に考える。


 最初は頼まれるまま、彼らの体を掻きむしった。

 爪が皮膚を裂き、赤く腫れた線が浮かび上がる。


 服の上からでは効果が薄く、仕方ないからほぼ全裸の状態だ。

 肌という肌に、蚯蚓腫れが縦横に走っていた。

 まるで、体の中から何かが這い出ようとしているようだった。


 それは、魔力の乱れによって生じた『痕跡』あるいは『呪い』。

 だが実際には、『何か』が皮膚の下を這い回っていた。


 暗く湿った場所で発生した魔力の塊が、体内を移動している。

 その動きが、神経を撫で、引っかき、耐えがたい痒みを引き起こしていた。


「掻いて、掻いて、お願い・・・! 動いてるの、わかるの・・・!」


 でも、大丈夫。 痒みはもうじき収まる。


 魔力が形を変え、外へと放出されるから。

 中にいた『何か』が、外に出るから。


 そこまでが役目だから。


『ふたりをいやせ』


 地面に、普通サイズのハエが並んだ。

 俺への指示だ。


「【ヒール】」


 俺の役目は、彼らの魔力の乱れをリセットすること。

『痒み』が収まるのは、魔力の塊が『成長しきって』体外に出た証拠。


 癒された体は、再び『利用可能な存在』として機能する。

 つまり、次の『痒み』を受け入れる準備が整ったということだ。


「お願い・・・もう、終わらせて・・・」

「ひと思いに・・・」


 二人の声は、涙と絶望に濡れていた。

 初めは、『道具』のように大人しかったのに。

 痒みで半狂乱になってからは、ずっとこの調子だ。


 でも、俺には選択肢がなかった。


 地面に並ぶ蠅が、文字のように並びを変える。

 まるで迷宮の筆記体。

 俺の運命は、そこに書かれていた。


『ふたりがいなくなれば、おまえも不要』


 俺は、リセットするためだけに存在していた。

 癒すだけ。整えるだけ。

 それが終われば、俺も『整えられる側』になる。


「は、ハハッ・・・『リセット』か。『リセット』って、なんだっけ?」


『癒す』なら、かろうじて覚えている。

 誰かの痒みを消す。

 誰かの魔力を整える。

 それが『癒し』なら、俺はそれをしてきた。


 でも、『リセット』って何だろう?


 元に戻す? 戻した先に、何かが変わるのか?


「戻ったって、同じ場所に立ってるだけじゃないか・・・」


 わからない。

 わからなくていい。

 知る意味なんてない。


 わかっているのは、この『仕事』をしていれば、俺は俺でいられる。


『俺』って、なんだっけ?


 まぁ、いいや。

 だって――


「俺は痒くなんてない」


 そう言い聞かせながら、目を逸らす。

 痒みがないのは、何も動いていない証。

 何も育っていない証。

 何も『生きていない』証。


 命を失えば、痒みもない。

 彼も、彼女も痒いのは、生きているからだ。

 俺は、そのためにいる。


「頑張れ。心の底から応援してる」


 平坦な声で、エールを送り続けた。

 それは、かつて誰かに言われた言葉だった。

 でも今は――誰のために言っているのかも、わからない。


 ただ、その言葉だけが、俺の中で生きていた。

 言葉だけが、俺の『痒み』だった。


 ◇観察者3(カルマ視点)◇


「いいね。『マナポイント』も『ソウルポイント』も、ガンガン溜まってるよ!」


 カルマは満足げに手を叩いた。

 その瞳は、冷たく澄んでいた。


 まるで、あの教室の窓から見た雨のように――静かで、濡れて、誰にも気づかれないまま流れていく。


 その横顔を、カエル座りでじっと見つめる女の子がいた。

 声は出さない。

 動きもしない。

 ただ、目だけが、カルマの『奥』を見ていた。


「・・・磨くべき? 濁らせるべき? どっちがいいんだろう?」


 その言葉は、誰にも届かなかった。

 でも、迷宮の空気が、わずかに揺れた気がした。



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