表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
マイルド(全年齢)版

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/354

第56話 崩れる戦場(鈴谷涼香視点)

2/2

 


 涼香は、叫んでいた。

 喉が裂けるほどに。

 腕が千切れるほどに、大剣を振っていた。


「立て! まだやれる! お前ら、死ぬなよ!!」


『扇動者』のスキルが発動していた。

 仲間たちは、怒りに燃え、恐怖を忘れ、ただ前へと突き進んでいた。

 それが、彼女の『願い』だった。


 諦めるな!

 立ち尽くすな!

 運命に、死に、抗え!


 ──でも、どこかでわかっていた。

 これは、限界を超えた『延命』だと。

 勝ち目なんて、もうない。

 それでも、誰か一人でも生き延びてくれたら、それでいい。


 キアゲハが現れたとき、涼香は一瞬、息を呑んだ。

 あれは、勝てない。

 そう思った。

 でも、止まれなかった。


 魔法が飛ぶ。

 敵の能力など考えてもいない。

 当然だ。

 思考力を奪った。


 恐れることなく飛び掛かっている。

 下から石を投げている者までいた。

 戦う以外の死も感情も奪われているからだ。


 誰に?

 私に。

 鈴谷涼香に!


「アレって、物理攻撃しないよな?」 

 キアゲハを見て、勝てないと感じた理由に思い至り、呟いた。


「マズい!」

 叫んでも止まらない。


 魔職たちによる、体中の魔力をかき集めての最後の最大火力。

 敵を見れば全力で立ち向かうしかない者たちの、当然の行動。


 魔法の光が空を覆ったとき、涼香は叫んだ。

「下がれ──っ!!」

 でも、誰も聞いていなかった。

 いや、聞こえていなかった。

 彼女が『扇動』したからだ。


 自分たちの『最大火力』が返された。

 逃げ場はない。

 抵抗も意味をなさない。

 涼香は脱力した。


 自分の力で、仲間を殺した。

 その事実が、胸を貫いた。

 焼き尽くされる光の中で、涼香の意識は光に呑まれていった。



 焼けた空気が、肺を焼く。

 視界は、赤と黒のまだら模様。

 耳鳴りの中で、誰かの断末魔が遠くに聞こえた気がした。



 熱と光。

 魔力と物質。

 ぶつかり合った力の残滓がたゆっている。


 涼香は、立ち上がった。

 身体が勝手に動いた。

 もう、何も守れない。

 誰も残っていない。

 それでも──


「まだ、終われるかよ・・・」


 声は、かすれていた。

 叫びというには弱すぎて、呟きというには、あまりに痛々しかった。


『終わり』を認めたくなかった。

『自分の力が、仲間の命を奪った』。

 その事実が、胸を貫いた。


 筋肉は、まだ熱を持っていた。

 でも、心はもう、どこにも向かっていなかった。


 棒立ちのまま、涼香は空を見上げた。

 そこに、影が差す。


『メガネウロ』。

 あの、奇妙な飛行モンスターが、彼女を回収しに来た。


 逃げることも、抗うこともできなかった。

 いや──する理由が、もうなかった。


 涼香は、ただ運ばれていく。

 焼け焦げた戦場を、仲間たちの亡骸を、何もかもを見下ろしながら。


「・・・ごめん」


 誰に向けた言葉かも、わからなかった。

 カルマかもしれない。

 仲間たちかもしれない。

 あるいは、自分自身かもしれない。


 その一言を最後に、涼香の意識は、静かに、深く、沈んでいった。


 ◆再生◆


 暗い。

 でも、怖くはない。

 音もない。

 でも、静かすぎるわけでもない。


 涼香は、浮かんでいた。

 何かに縛られている気がした。

 でも、それが何かはわからない。


 身体は、もうない。

 痛みも、重さも、熱もない。

 ・・・でも、『感情』だけが、まだそこにあった。


「・・・終わったんじゃなかったの?」

 誰に聞くでもなく、呟いた。


 戦場は焼けた。

 仲間は死んだ。

 自分も、死んだはずだった。


 なのに、まだ『ここ』にいる。

 夢なのか。

 現実なのか。

 それすら、もうわからない。


 でも、確かに『自分』はここにいる。

 何もできないまま、ただ、存在している。


「・・・あたし、何してたんだっけ」

 問いかけは、誰にも届かない。

 でも、自分自身には、刺さった。


 守るために、強くなった。

 怒られるために、前に出た。

 誰かの盾になることが、あたしの役割だった。


 でも── 最後は、誰も守れなかった。

「・・・ごめん」

 また、その言葉が浮かぶ。

 でも、今度は少し違った。


『生き返るかもしれない』という可能性が、どこかにある。

 それが、涼香の魂を『ここ』に縛っている。


 彼女はそれを知らない。

 でも、『終わりを許されない感覚』だけが、確かにそこにあった。


「・・・まだ、終わらせてもらえないのか」

 その言葉に、誰かが答えることはない。


 でも、涼香の魂は、ダンジョンの深層に『留め置かれていた』。

 それは、蘇生魔術やアイテムによる『保険』のようなもの。

 誰かが彼女を呼び戻す可能性がある限り、魂は完全には消えない。


 涼香自身はその仕組みを知らない。

 ただ、『終われない感覚』だけが、静かに、深く、染み渡っていた。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ