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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
学園祭編

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第30話 『文化祭』

3/3

 


 生徒会は30階層へと到達した。

 予想通り、クエストが出た。


『文化祭を盛りあげろ!』


 展示物を揃え、文化祭を賑やかすのだ。

 だが――――


「なんか、人が少ない気がするっす」

「…明らかに減ってるだろ」

 静かに訂正する陽翔。


 生徒会が30階層にきて四日経つ。

 なのに、集まっているのは野球部と美術部、二つの同好会。

 全員集めても、生徒会を入れても、80名。

 半分以下になっている。


「奉仕活動組はまだ畑耕しているのかもしれませんよ?」

 魔法使いが言う。

 確かに、その可能性はある。


「…‥あの写真ね?」

 文化祭の展示ブース。

 ありもしない『写真部』のパネル展示がある。


 探索者たちの、ダンジョン内でのスナップ写真だ。


 入学式。


 運動会。


 球技大会。


 各テスト。


 部活の練習風景などが並んでいた。


 その中には、奉仕活動組が広々とした畑を黙々と耕す写真もあった。

 輪郭がぶれ、一人一人が三人くらいになって見えるような写真だ。


 入学式の写真では、600人くらいが出席している白黒のものがあった。

 古臭い詰襟の学生服、足首まである裾の長いスカートの『在校生』。

 いなかったはずの者たちが『いる』写真だ。


「こんなので、クエストは――――」

 文化祭を盛りあげられそうにない。


 失敗か?

 不安になるが、そうはならない。


『文化祭が無事開かれました。

 報酬:31階層への扉と1階層へのベルトコンベア』


「は?」

「ベルト…なに?」


 戸惑う声が続いた。

 意味は簡単なことだった。


 30階層から1階層へとモノを運べる仕組みが解禁されたのだ。

 双方向ではなく片道。


「ここで買った物を、私たち自身が戻らなくても『外』へ送れるわけですね!?」

 30階層にも購買部はあった。

 しかも、ランクが上がってもいる。


 これを、外へ送れるなら――


 千歳の目が据わっていた。

 政府から受けた密命が声高に告げている。

 これを探していた、と。


 このダンジョンの有用性が、際立ち始めていた。


 彼らは気付かない。

 ベルトコンベアの左右で、黒い影が蠢いていることに。

 見えない何かを載せていることに。


 ベルトコンベアは、『必要なモノだけ』を運ぶとは限らない。

 乗せられれば『いらないもの』も運ばれてしまう。

 令和の『選別機能付き』とは違うのだ。


 ◇カルマ◇


「昭和に戻す。何が狙いなの?」

 文化祭の様子を覗き見ながら、悠が問う。


「この時代が、オレには合わない気がしててね」


 裏切られ、捨てられた経験が、カルマの中に“人と人を結ぶ絆”への渇望を生んだ。

 彼が求める昭和は、現実の歴史ではない。


 映画やドラマ、漫画の中で描かれた、暴力もあったが情も深く、ガキ大将がクラスをまとめ、いじめも“殴って終わる”ような曖昧な温かさを持つ世界。

 それに比べて令和は、味方か敵かが一瞬で線引きされ、一度切り捨てられれば戻る場所もない――


 そんな冷たさに満ちているように、カルマには見えていた。

 だからこそ彼は、“献身”と“共同体”が当たり前だったと信じられていた昭和の学校へ、この迷宮を戻そうとしている。


『現代』の効率に殺された。

『現代』の無関心に。

『現代』の利己主義に。


 だから——


 カルマは戻す。


『古い時代』に。

『映画や漫画の中の曖昧な昭和』に。


「焼きそば、うまいな」

 真剣な顔で話し合う生徒会を見やる。


 木のベンチが、いい感じに硬い。

 ささくれはないが、削りが荒いゴツゴツ感がある。


 幼児や高齢者が不用意に触れても傷つかない、気づかいされた現代のベンチにはない感触だった。

 よそよそしい優しさのない、気づかいがない暖かさ。


「器がタッパーじゃなく、『お皿』なのがびっくりです」

 プラスチック容器ではない。

 紛れもない陶器だ。


 無駄に重いし、使ったら返さないといけないわずらわしさもある。

 でも、だからこそ、店主とのつながりが感じられる。

 渡されたら終わり、あとはゴミ箱へ、そんな素っ気なさはない。

 なんなら、洗って返そうか、そんな自由がある。


 実際、そこかしこで『奥ゆかしすぎる生徒たち』が、『影が濃い生徒たち』が自己判断で手伝い始めている。

 無償で。


 1と0の時代にあって、このダンジョンでは2も7もある。

 小数も、分数もある。


 緩い価値観。

 中途半端な正義。

 答えを作らない文化。


「ここでなら、息を吸えそうだ」

 カルマは背もたれに寄りかかり、空を見上げた。


 気持ちよさそうに深呼吸をする。


 彼を囲む者たちが、頬を緩めていた。


 カルマが空を見上げ、深く息を吸い込んだ、そのときだった。


 ――カラン……カラン……。


 どこか遠くで、鉄琴の音がした。

 文化祭のBGMとして流しているのだろう。


 だが、その音は途中でひび割れ、

 金属が欠けたように、ところどころ途切れていた。


 カラン……カ、……ラン……。


 放送室のスピーカーが震えている。

 昭和の校舎にあった、あの丸いスピーカーだ。


 誰も触っていないはずなのに。

 音は、ゆっくりと近づいてくる。

 廊下の奥から、階段の下から、まるで“誰かが鉄琴を持って歩いている”かのように。


 カラン……カラン……カ……ラン。


 生徒会の誰も、その音に反応しなかった。

 気づかないのではない。

 気づく必要がなくなりつつあるのだ。


 カルマは目を閉じた。

 そのひび割れた鉄琴の音を、懐かしいものを聞くように、静かに受け止めていた。

 迷宮は、昭和へ戻り続けている。



  第31話(終幕)

 

 文化祭当日。

 昭和の生徒たちの笑い声。

 展示室に“新しい名札”。

 誰の名前かは読めない。

 生徒会は出口へ向かう。

 背後で、影の教室の扉が“ガラッ”と開く。

 終わり。




読了・評価。ありがとうございます。


これにて、完結とさせていただきます。

お読みいただき、ありがとうございました。

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