第13話 『付帯設備』
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野球部が全体を牽引するように先行する中、他の部も徐々に進んでいた。
◇ 美術部の場合 ◇
文化部は“ランニング”ではなく、単なる“移動指示”だった。
出題型だけでなく攻撃型とも接敵したが、そこは現役探索者。
テストより剣と魔法のほうが慣れている。
難なく突破し、第二チェックポイントへ進んだ。
11階層『中央公園』。
美術部ルートの第二チェックポイント。
与えられたクエストは――『スケッチ』。
公園内での写生大会だ。
剣や杖をしまい、
『スケッチブック』と『2B鉛筆』を召喚。
絵を描き始める。
「ねぇ」
鉛筆を握り、指で縮尺を測る女性に、別の女性が声をかけた。
「なに?」
軽く線を引きながら返事が来る。
「私たち、何をしてるのかしら?」
「写生よ」
「そ、そうだけど……」
もっと違う答えを期待していたらしい。
「考えても答えは出ないわよ」
薫は淡々と言う。
意味があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
だが“今”考えても答えは出ない。
ゴールすればわかるかもしれないが、保証はない。
クエストを放棄したとき何が起きるかも不明。
今はただ、出されたクエストをこなすしかない。
「私、水を描くの苦手なんだけど……教えてくれる?」
噴水が目の前で水を噴き上げている。
「いいわよ。私、水を描くの好きだから」
薫がにっこり笑う。
その舌が一瞬、顔の前で円を描いたように見えた。
水面の反射のせいで、紗理奈は気づかなかった。
「やった! 私、紗理奈よ。よろしくね」
「薫よ。よろしく」
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二時間後。
二人のスケッチブックには、優雅な噴水の絵が描き上がっていた。
スケッチ段階にしては完成度が高い。
【クエスト『スケッチ』達成。
報酬:水彩絵の具を獲得。
新たに『美術室』が解放されます】
「今度は美術室で水彩画ってこと?」
「でしょうね」
二人はスケッチブックを抱え、美術室へ向かった。
第三チェックポイント。
【『美術室で水彩画』。描いてきたスケッチをもとに水彩化を描く】
「あれ?」
紗理奈がスケッチブックを開いて首をひねる。
「私、噴水描いてたよね? なに、この人物画?」
覚えのない絵がある。
だがタッチは自分のもの。
見たことのない女の顔なのに、妙にリアル。
「ずいぶん力のこもった落書きね」
薫が絵も見ずに言う。
「落書き?」
「集中してるとき、無意識に端っこに変な絵描くことあるでしょ?」
「……あるけど、このレベルで?」
「だから力がこもってるって言ってるの。害はないでしょ」
「……まぁ、そうね」
紗理奈は噴水のページを開き、水彩の準備を始めた。
ふわり、とページがめくれる。
人物画の女が――ウィンクしたように見えた。
◇ 第二チェックポイント後の運動部 ◇
「汗かいたんだけど、シャワー室とかないのかしら?」
バスケ部の女性が言う。
「普通ならありそうだがな」
男性部員が近づこうとして押しのけられる。
「旧校舎っぽいし、望み薄かもね」
そう言った瞬間――
「って、あるし!」
廊下の先に金属扉。
札には『シャワールーム』。
「怪しくねぇか?」
男たちは警戒する。
だが女たちは聞いていなかった。
「使ってみればわかることよ!」
バレー部の女子が勢いよく言い切る。
とにかくシャワーを浴びたい。
それしか頭になかった。
「何かあったら叫べ! すぐ突入してやる!」
男たちが胸を張る。
「はいはい」
女たちは軽くあしらって中へ入った。
そして――
「ああ、そういうことね」
半目で息を吐く。
シャワーを出す間、魔力を吸われる。
ボディソープやシャンプーは“迷宮通貨”の自販機。
偶然でも親切でもない。
魔力と通貨を落としていけという商魂。
だが、狙いがわかれば逆に安心できる。
女たちは歓声を上げてシャワーに飛び込んだ。
その声を悲鳴と勘違いした男どもが突入し、
秒で叩き出されたのは言うまでもない。
自販機には服やコスメもあり、かなりの額が消えた。
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「予想はしてた!」
シャワー上がりの男が湯気を上げながら叫ぶ。
シャワーで魔力と通貨を消費したなら、
次に来るのは――“食事”。
うまそうな匂いが流れてくる。
『食堂』
簡素な木札の看板が、彼らには光り輝いて見えた。
「ここはどこだっけ?」
「素晴らしい学校さ!」
彼らは先を争って食堂へ向かった。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




