表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

349/375

エピローグ・カーテンコール

2/3



◇最期の進行◇


『虫』ダンジョンの通路は、じめっとした空気に満ちていた。

壁は粘膜のようにうねり、足元には黒い殻が散らばっている。

五人は、言葉少なに、ただ上へと進んでいた。


歩きながら、彼女たちは記憶の回廊をも歩いていた。

『あの時』、『あの言葉』、『あの選択』。


いろいろなことが思い出される。

『語る』べき事柄がいかに多いかに気づいて、足が鈍りそうになる。


それでも、歩いていた。


彼女たちのリーダーが『進む』と言っていたからだ。

止まったところで、意味はない。

進むことだけが、彼女たちを肯定する。


誰も口にしなかったが、出口が近いことを感じていた。

でも、それは『外』ではなく、『奥』だった。


先頭の子が、ふと足を止める。


「・・・床、変わった?」


見下ろすと、粘膜のような地面が、いつの間にか乾いた木の板に変わっていた。

踏むたびに、ギシギシと音が鳴る。

壁も、節のある木材に変わっている。

それは、まるで語りの場が彼女たちを迎える準備を始めたようだった。


「これ・・・校舎?」


誰かがつぶやく。

でも、見覚えのあるはずの廊下は、どこか歪んでいた。

天井が低く、窓は曇り、飾り付けは色褪せている。

それでも、確かに『懐かしい』と感じる空間だった。


その瞬間、後ろの子が小さく息を呑む。


「ねえ・・・手、冷たくない?」


彼女の指先は、白く、細く、まるで霧のように輪郭が曖昧になっていた。

他の子たちも、自分の体に違和感を覚え始める。


声が風に混じる。

影が遅れてついてくる。

問いが、胸の奥で形を持ち始める。


彼女たちは、迷宮で『灯』になりつつあった。


逆さ言葉の子は、足音が逆に響く。


沈黙の子は、誰かの声を背中で聞く。


冷静な子は、壁の痕跡を指でなぞる。


年少の子は、飾りの紙を拾って微笑む。


そして、最後の一人が言った。


「・・・ここ、知ってる。昔、来たことある」


その言葉に、誰も返さなかった。

でも、誰も否定しなかった。


廊下の先に、一つの扉が見えた。

その扉には、かすれた文字でこう書かれていた。


『受付』


誰かが、そっと言った。


「・・・行こう。もう、戻る意味はない」


青いリーダーが促す。

誰も、否定しなかった。


それは、迷宮の出口ではなかった。

記憶の奥にある、『始まりの場所』だった。


彼女たちの荷物の中、スマホが明かりをともしていた。



『選択権が行使されます。妖怪化プロセススタート』

『変化先を検索』

『適合する個体を確認』

『天邪鬼、二口女、油取り、座敷童、青行灯』

『肉体の再構成が開始されます』



システムチャットがロールしていく。

それは、彼女たち自身の脳内でもそうだった。

だけど、誰も確認はしなかった。


先頭を行くリーダーが青くなり、二番手の子は後ろ向きに歩き出していた。


前を見て、黙って歩く子は後頭部にできた口で歌を口ずさんでいる。


冷静な子は、自身から滲む油を少し煩わしそうに、でも丁寧に集めていた。


最後の子は、楽しそうに軽やかに歩く。

その手は、白い手に引かれていた。


優しく導く『白い手』。

その腕に、肩はなかったけれど・・・。



スマホの画面に最後の通知が流れた。


『原点の場に接続完了』


それを誰も見なかった。

もう、見る必要はなかった。


廊下の空気が静かに変わる。

木の壁が、彼女たちの問いを吸い込み、床が、彼女たちの足音を記憶する。


青くなったリーダーが、ゆっくりと扉の前に立つ。

『受付』と書かれたその扉は、もう何度も開かれてきたはずなのに、今は、まるで初めて開かれるかのように静かだった。


それは、かつて『誰も訪れなかった』ことの名残。

いま、再び『誰か』が通る場所として機能を取り戻す。


彼女たちは、扉の前で立ち止まる。

誰も手を伸ばさない。

それは、主を迎えるための『間』だった。


廊下の奥、風が吹く。

遠くで、足音がひとつ、近づいてくる。


カルマが、旧校舎の入り口に立っていた。



カルマは『人間バージョンの妖怪』たちを引き連れ、とある学校の旧校舎にいた。

彼にとっては『故郷』とも呼べる、『聖域』だ。

廊下の先、少し戸惑った様子の『妖怪』たちを見つけ、静かに頷いた。


「・・・来たんだね、君たちも」


わずかな動作で、一緒に来るように促す。

少し後ろで真梨華が何かした気配があった。

彼女たちも小さな会釈を返して、従った。


カルマは慣れた様子で入っていき、とある教室で足を止める。


「おかえり」

椅子に座ったまま、男のシルエットが迎えてくれた。

かすれた文字が『受付』と読める。

色褪せた飾り付けが、カサカサと音を立てた。


『?!』

妖怪たちが息を呑む。


「これからどうしようか?」

カルマと、たくさんの妖怪たち。

双方に手を差し伸べて迎えてくれたシルエット。


『戸脇駆馬』が愉しげに笑いかけた。




全員が椅子に座った。

誰も言葉を発さず、始まりの場に静寂が満ちる。


そのとき、扉がもう一度、ギィ・・・と音を立てて開いた。


「遅れてごめん。始まってる?」


制服姿の少女が、何食わぬ顔で入ってきた。

その目は、どこか懐かしく、でも深く澄んでいた。


駆馬が、ほんの少しだけ目を伏せる。

「・・・母さん」


誰も驚かなかった。

ただ、最初から空いていた椅子に、彼女は当然のように腰を下ろす。

その背中に、暗い羽根色の翼があったが、誰も驚かなかった。


制服姿の少女は、カルマを見て、駆馬を見た。

どちらも『息子』だった。

でも、今は『仲間』として、そこに座っていた。


カルマの目がわずかに開き、指先が、ほんの少しだけ震えた。

妖怪たちは『欠けていた何か』がはまるのを感じていた。

ずっと、存在していた『カルマから見た世界の不完全さ』が、彼女によって埋まったのだと気づいたのだ。


教室には、椅子のきしむ音すらない静寂が満ちていた。

誰もが座っている

誰もが、いまここに『いる』。




戸脇駆馬が、もう一度、問いかける。

「・・・で、これからどうしようか?」


その言葉に、誰もすぐには答えなかった。

でも、誰も目をそらさなかった。


迷宮の灯たちが、静かに顔を上げる。

『学園祭』は、ここから始まる。


『妖怪』が取り仕切る、人間を客とする『学園祭』。

『ダンジョン』で繰り広げられる『祭り』の始まりだ。



読了・評価。ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ