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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第209話 校長、そして祖父 ~孫との邂逅~

1/3

 


 校長は、中継拠点の一角に身を潜めていた。

 かつては指示を飛ばし、全体を統括していた場所。

 だが今は、誰も彼を探さず、誰も彼に従わない。


 その仄暗い通路に、校長は腰を下ろしていた。

 呼吸は浅く、目は虚ろ。

 彼の世界は、静かに沈み始めていた。


 彼の手は震えていた。

 薬の切れた体か、責任の重みに潰された心か。

 それを知る者は、もういなかった。


 そこへ、カルマが現れた。

 目は澄んでいた。

 まるで、誰よりも深く潜って、誰よりも遠くを見てきた者の目だった。


 校長は、その姿を見て、何も言わなかった。

 言えなかった。

 言葉は、もう彼の中に残っていなかった。


 ただ、震える指でカルマを指し、かすれた声で言った。


「・・・弁護士に・・・・・・伝えろ」

 それだけだった。


 カルマは、眉をひそめた。

 何かを言いかけたが、校長はもう目を閉じていた。


 その言葉が何を意味するか、カルマにはわからなかった。

 だが、彼は頷いた。

 それが、唯一の『孫への言葉』だったから。


 校長の死は、静かだった。

 誰にも看取られず、誰にも惜しまれず。

 カルマだけがその場にいた。

 妖怪たちは遠ざけられていた。


 ◇旧校舎にたたずむ女性◇


 同時刻、旧校舎では女性が佇んでいた。

 その手は『ナニカ』をしっかりと捕まえている。

 もう二度と、離しはしない。

 そんな決意を示すような力強さがある。


「そう・・・亡くなったのね」


 呟く声が静かに風に溶けた。

 あまり、感情の乗っていない声だった。

 まるで、『知らない人』について話しているような冷たさがあった。


「『わたしの知らない世間』の一番の人なのよね」


 顎を指先でつまんで、首を傾げる。

『大人』の女性だというのに、仕草は幼く見えた。


「でも、『私』は知ってる。『お義父様』が何を残したかを」


 そう言って、女性は目を上げた。

『最近』まで『彼氏』と会っていた旧校舎がある。

 学生時代の思い出の場所。

『駆馬』の『父親』との思い出の場所。

 それは、校長にとっても『息子』と、そして『孫』ともつながる大切な場所。


「息子との思い出もある『ここ』をそのまま保存するために、買い取った・・・いえ、先祖伝来の土地と交換した話を聞いていたもの」


 旧校舎の通路。

 その先に、『校長室』がある。

 そっと手を触れさせて、寂しそうに笑った。


「そんな気持ちがあるのなら『私』にもう少しだけ、手を差し伸べてくれればよかったのに。そうしていれば・・・というのは意味ないわね」


 呟きに答えるように、『カチリ』と音がした。

 閉じられていた扉が、開いていく。


 木の軋む音。

 長く閉じ込められていた空気の匂い。

 そんなものが、通路へと染み出した。


 校長室へと女性は足を踏み入れた。

『ナニカ』も一緒だ。

 そして、見つける。


 大量の写真を。

 学校行事の度、どこかで写された生徒たちの写真。

 よくある写真の数々だ。

 だけど・・・。


「素直になれないって罪よね」


 哀しそうな呟き。

 写真には『必ず』、特定の人物か入っていた。


 中心にはいない。

『誰か』または『何か』を写した時に、端にいた。

 そんな写真ばかりだ。


『ナニカ』が身じろぎをする。

 慄くような気配。

 そして、足元が震えた。

 乾いた木の床が、湿り気を帯びる。


 そんな中、写真立てが目に入る。

 校長が何かの行事で挨拶をしている。

 その後ろ、なにかを片付けようとしている生徒の背中。


「・・・珍しいわね。お義父様が、誰かと一緒に写っているなんて」


『ナニカ』は気が付いた。

 それが『誰の』背中かを。

 写真の中の背中が、今の自分と同じ角度で首を傾けていた。


 震える手が写真を出す。

 そして、そっとノートに挟み込んだ。


「出ましょう。『彼』が戻ったら、弁護士を呼ばないとね」


 それまでは、正式には手を出せないのだから。

 女性は、毅然とした態度をとろうとして失敗した。


「メイク、まだ慣れてないのに」


『大人』になったばかりの少女は息を吐いた。

 メイク直しが大変だと、嘆く声は震えて、湿っていた。


 ◇


 こうして、山形県内にある某高校は全校生266名のうち、『レイドに参加させてもらえなかった1名』を除いて全滅という史上最悪の結果を残した。

 歴史に名を残すという野望は果たせたが、そのことを喜んだ者は誰一人いない。



 後日、『カルマ』の到着を待って、『駆馬』から弁護士に連絡が入る。

 遺言書の存在が確認され、手続きが始まる。


 その筆頭には、確かに——『駆馬』の名が記されていた。


 それは、校長が忘れたふりをしていた過去。

 切り捨てたはずの血の記憶。

 そして、最後に残した『唯一の手紙』だった。



『駆馬』は、遺言書を受け取った。

 何も言わず、何も問わず。

 ただ、静かにそれを胸にしまった。



 迷宮の奥で交わされた、たった一言の再会。

 それが、すべてだ。

 彼は、『レイドに参加させてもらえなかった1名』だった。

 公式には、そう説明されている。


 ◆


 レアアイテム=『空蝉』。

 蝉の殻、その背に鏡が隠されている。

 使用すると『使用者がもう一人生み出される』。


『蝉』と『鏡』。

 それぞれに意味はあったのだ。

『殻』ではなく『蝉』ではあったけれど。


 鏡に触れたとき、空気が裂けた。

 鏡の中で、オレは笑っていた。

 笑わなくなったオレの顔で。


「オレが代わろう」

 誰も来ない教室で、『カルマ』が言った。


「オレは『感情』が薄いから耐えられる」


『駆馬』は黙ってうなずいた。

『駆馬』はそれからずっと、旧校舎で暮らしていた。


 今にして思えば、校長が『ここ』を守ったことが『駆馬』の居場所を守ったことになる。



評価いただけると続編を書く意欲に直結します


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