表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

243/372

第103話 風雷の沈黙 ~えいゆうたち~ 後編

2/3

 


 ──風が、止まった。

 いや、違う。

 風が『引いた』のだ。

 まるで、何かを恐れて逃げるように。

 葉隠霞は、仲間たちの歓声の中でその異変を感じ取った。


 空気が重い。

 風がざわめかない。

 雷が息を潜めている。

 そして──空が、黒く染まり始めた。


「行こうぜ! 英雄たちの凱旋だ!」

 誰かが叫ぶ。

 その声に、霞は眉を寄せる。

 風が、肌を撫でるように囁いてくる。

『まだ終わっていない』と。


 その瞬間、空から何かが降ってきた。


 ──カマキリ。


 緑色の甲殻が鈍く光る。

 刃のような前脚が、空気を切り裂きながら振り下ろされる。


「っ! 柵が——!」


 拠点の鉄製の柵が、金属音を響かせてへし折れた。

 破片が飛び散り、近くにいた探索者の頬を裂く。


 続いて、カナブンの群れが唸りながら突進してくる。

 羽音は、まるでドリルのように耳を貫く。

 その数、十数体。

 一斉に突っ込んできた群れが、拠点の壁に激突する。


「うわっ! 来るな来るな来るなっ!」


 壁が揺れ、ひびが走る。

 一人の探索者がよろめき、足を取られて転倒する。

 その背中に、カナブンの一体が突っ込んだ。

 鈍い音とともに、彼の体が地面に叩きつけられる。


 そして最後に、巨大な蜂が現れる。

 体長は人間の胴ほどもある。

 腹部の毒針が、青白く光りながら雷のように閃いた。


「毒だ! 刺されたら終わりだぞ!」


 誰かが叫ぶ。

 だが、すでに一人が刺されていた。

 肩口に突き刺さった針が、肉を焼くように膨れ上がる。

 悲鳴が、空気を震わせる。


「なんだよこれ!」

「聞いてないぞ!」

 英雄のつもりだった彼らの顔が、恐怖に染まる。

 足がもつれ、武器を落とす者もいる。

 誰もが、逃げることしか考えていなかった。


 霞は、風を呼ぼうとする。

 だが、風はまだ怯えている。

 雷も、まだ沈黙している。


 彼女は、葉団扇を握りしめた。

 指先に力が入る。

 関節が軋むほどに。


「・・・そうはさせないってことか」


 霞の足元に、風が集まり始める。

 葉団扇が微かに震え、雷の粒が指先に集まる。


「英雄? 笑わせんな。本物の英雄は、ここで立つんだよ」


 風が、ようやく戻ってきた。

 雷が、指先に集まり始めた。

 霞の髪が揺れ、赤と金が閃く。


 ──風雷の乙女、葉隠霞。

 今、真の戦いが始まる。


 霞は、そっと目を閉じた。

 風が頬を撫でる。

 その感触は、かつて彼女が知っていた、あの優しい風だった。


(・・・戻ってきたんだな)


 霞は、胸の奥で呟いた。

 風が、彼女の心に応えるように、静かに渦を巻く。


 あのとき——彼を見殺しにしたあの日、風は彼女から離れていった。

 怒りでも、悲しみでもなく、ただ静かに、そっと。


 それは、風が彼女に失望したから。

『守るべきもの』を見失った彼女に、風は背を向けたのだ。


 でも今、霞は違う。

 逃げる仲間たちの背中を見ても、

 自分の過去を思い出しても、もう目を逸らさない。


「・・・あたしが、立つ」


 その言葉に、風が応えた。

 雷が、彼女の鼓動に呼応するように脈打つ。


 風は、彼女の『覚悟』を感じ取ったのだ。

 もう一度、隣に立つことを許してくれたのだ。


 霞は、団扇を構える。

 風が渦を巻き、雷が刃となる。


「行くよ、風。今度こそ、あたしが守る」


評価いただけると続編を書く意欲に直結します


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ