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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第100話 最下層の討伐者たち⑥ 後編

2/3

 


 ◆リーダー視点◆


「ぐ、ぐは・・・」

 視界が傾いでいく。

 音が遠ざかる。

 でも、痛みだけは鮮明だった。


 胸の奥が焼けるように熱い。

 それは、傷のせいじゃない。

 自分が、真っ先に倒れたことへの悔しさだった。


「・・・俺が・・・一番に・・・」

 盾であるはずの自分が、最初に崩れた。


 仲間を守るはずだったのに。

 誰よりも慎重に、誰よりも冷静に、そうやって築いてきた連携が、今、音を立てて崩れていく。


「・・・ああ、やっぱ・・・俺がいないと、こうなるんだな・・・」


 魔職が叫ぶ。

 索敵が沈黙する。

 誰もが、動けなくなっていく。

 それは、彼がいなくなったから。

 それは、彼が『いなくなった時』のことを、考えていなかったから。


「・・・俺が・・・教えておくべきだった・・・」

 自分がいなくても、動けるように。

 自分がいなくても、守れるように。

 そうしておけば、こんなことにはならなかった。

 それが、今さらになって胸を締めつける。


 必要なことだとはわかっていた。

 だけど、いざ口にしようとするとなぜか言い出せなかった。

『俺が守ればいい』。結局はそう言い聞かせて、うやむやにしてきた。


 そのツケが来ている。

 最悪の形で。


「・・・ごめんな・・・・・・」

 誰に向けた言葉かは、わからなかった。

 でも、腕の中に感じる温もりが、彼の心を揺らした。


 サブリーダーが、震える手で彼を抱き寄せていた。

 血に染まりながら、声も出せずに。

 その腕は、弱くて、でも確かだった。


「・・・お前・・・泣いてるのか・・・・・・?」

 彼女の顔は見えなかった。

 でも、頬に触れる雫が、彼にすべてを伝えていた。


「・・・ありがとな・・・・・・」

 その言葉は、声にならなかった。

 でも、彼の心の中では、何度も繰り返された。


 ありがとう。

 最後に、俺を抱きしめてくれて。

 最後に、俺のことを見てくれて。

 最後に、俺の盾になろうとしてくれて。


「・・・お前なら・・・・・・きっと・・・・・・」

 その先の言葉は、もう出なかった。

 でも、彼の瞳には、サブリーダーの顔が映っていた。

 涙で濡れたその瞳が、彼の最後の希望だった。


 そして、彼の視界は、静かに閉じていった。


 ◇


「待望の『ラブロマンス』かな?」


 カルマが、ウィンドウから目を上げて問う。

 確か、それを望んだ奴がいたよな?

 誰だったかは、もう覚えていない。

 あるいは、最初から覚える気もなかったのかもしれない。


 答えは、ない。


「でもさ、彼らは幸せだよ」


『シデムシ』や『メガネウロ』を回収に向かわせながら、カルマは、背を向けたまま囁いた。 その声は、どこか遠く、どこか冷たい。


 周囲に待機していた妖怪たちが、その言葉に、わずかにざわめく。


「オレの死には、誰一人、涙をくれなかったからね」


「「「「「「?!」」」」」」


 ざわり、と空気が揺れた。

 誰も、言葉を返さなかった。

 ただ、沈黙が広がった。


 カルマは、振り返らない。

 の背中は、まるで『何か』を拒絶するように、まっすぐだった。


 彼の目には、まだウィンドウの映像が映っていた。

 サブリーダーが、崩れたまま笑っている。

 リーダーの血に染まりながら、誰にも届かない想いを抱えて。


 カルマは、ふっと笑った。

 それは、喜びでも、嘲りでもない。

 ただ、『知らなかった感情』に触れた者の笑みだった。


「・・・いいね。次は、もっと綺麗に壊してみようか」


 その声に、誰も返事をしなかった。


 ◇


 左翼も、状況は同じだった。


 リーダーは、よく言えば大胆。

 悪く言えば、無謀。

 その差は、結果で決まる。


 そして、結果は出た。

 右翼よりも、崩れるのが早かった。


 後詰に続いて、先駆けも壊滅したことになる。


 正確には、先駆けB班の5人がまだ活動中だ。

 露払いを続けている。

 だが、36人いた中の5人。

 残ったのは、わずか一割強。


 それを『壊滅』と呼ばずして、何と呼ぶ?


 誰も、答えない。

 誰も、問わない。

 ただ、数字だけが、静かに並んでいく。


 生存者:5名。

 戦闘不能:31名。

 戦死:不明。


 そのウィンドウを見つめる者の目に、感情はなかった。

 ただ、次の一手を考えるだけ。

 次の『演出』を整えるだけ。


 ◇


 空虚な笑いが木霊する通路。

 サブリーダーは、血に染まった盾をそっと拾い上げた。


 それは、涙の代わりだった。

 それは、彼の背中を継ぐためだった。


 盾は、重かった。

 ただの装備ではない。

 彼が守ってきたものすべてが、そこに詰まっていた。


 仲間の命。

 戦術の信頼。

 そして、彼女自身の憧れ。


 だからこそ、彼女は踏ん張れる。

 膝が震えても、足元が揺らいでも、この盾がある限り、彼女は倒れない。


 通路は静かだった。

 誰も声を出さない。

 誰も、彼女を止めない。


 それは、彼女の一歩を許すための静けさだった。


 そして、彼女は立った。

 盾を構え、前を向いた。


 それが、彼女に残された、最後の『背中』だった。



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