第60話 妖怪制作③ ~垢嘗め~ 前編
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「お! サブマス候補発見!」
テケテケを仲間に加えて歩いていると、なじみ深い『足』があったので拾った。
もちろん、足には腰も腹も胸も腕も首も頭もついている。
外見は奇麗なまま残っていた。
・・・少なくとも、遠目にはそう見えた。
近づいてみると、頭部の下に、何かが『溶けたように』広がっている。
固形とも液体ともつかないそれは、まるで振動で崩れたゼリーのようだった。
目は、妙に生々しく、こちらを見ているような錯覚を覚える。
まるで、まだ何かを訴えようとしているかのように。
だがそれだけのこと。
この程度なんとも―――
「おもわ・・・」
そこまで言って、カルマは口を押さえた。
「ゲボッ! ムリ・・・」
さすがに吐いた。
一度細胞レベルで吹き飛ばされた身とはいえ、これはキツい。
それはそうと、気を取り直して拾ったものを確認した。
水魔法の使い手、校内九大魔女が一人『八島薫』様だ。
9人いる大魔法使いの一人。
ただ、その能力はどちらかと言うと『回復系』。
状態異常回復などに強い半面、攻撃力は高くない。
回復力も専門のヒーラーには及ばない。
派閥外の女子からは「9人中一番弱い」と言われていたはずだ。
生まれついてのお嬢様。
とある大企業の創業者一族の直系。
現会長の孫で、現社長の姪というセレブだ。
根っからの女王様気質で、それはもう可愛がっていただいた。
◆往路・ダンジョン15階層での追憶◆
セーフティエリアでのこと。
突然、それまであまり接点のなかった人から呼び出しを受けた。
「いいこと? 薫様はとても素晴らしいお方なの。あなたなんて本来目にも入れてはいけない穢れ亡きお方。絶対に粗相しないよう、心しなさい!」
「はい」
案内役の女子に念を押された。
完全に上からだ。
駆馬のクラスメイトなのだが。
八島薫。
彼女がリーダーを務めるパーティのテントの前だ。
周囲は『薫様』に心酔しているらしい女性パーティのものらしい数個のテントが囲み。
それをさらに追っかけか下僕の男子パーティのテントが囲んでいる。
二、三十人規模の派閥を形成しているらしい。
テントの入り口で片膝をついた案内の女生徒が、静かに声をかける。
「薫様、連れてきました」
その姿は、まるで教団の儀式に仕える巫女のようだった。
『お姫様』と『騎士』では足りない。
むしろ、『教祖』と『信者』という構図が、空気にぴたりと馴染んでいた。
「入らせなさい。あなたは下がっていてね?」
「ですが!」
「あらあら。主に吠えかかる犬に用はなくてよ?」
言葉は柔らかいのに、空気が刃のように冷たい。
案内役の女生徒は、見られてもいないのに地面に額をつけるほど頭を下げた。
その姿は、服従の儀式そのものだった。
テントの前に座り込んだ彼女は、細剣の柄を撫でている。
その仕草は、沈黙の警告。
薫様が悲鳴を上げれば、空気が裂けるより早く、心臓を貫くのだろう。
「お邪魔します」
布をくぐる瞬間、空気が変わった。
視線が、肌に触れる前に心に触れてくるような感覚。
逃げられないことは、呼び出された時点でわかっていた。
「っく」
入った途端、息が止まりかけた。
薫の装いは、均衡の対極。
上半身は白い冬服で整えられているのに、その下は、『隠すことで見せる』構成だった。
薄いハンカチが掛けられている。
それは、布ではなく境界だった。
見せないことで、視線を誘導する。
まるで、祈りを捧げる祭壇の布のように、そこだけが異様に浮かび上がっていた。
薫は微笑む。
その微笑みは、反応を試す神の表情。
誘惑ではない。
支配の道具としての美しさ。
主人公の心の揺れを測るための、静かな儀式。
視線が吸い寄せられる。
それは、禁忌に触れる前の緊張。
空気が張り詰まり、沈黙が重くのしかかる。
カルマは、ただ立ち尽くす。
息を呑む。
それは、空気に触れたのではなく、空気に触れられた感覚だった。
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