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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第47話 沢辺みどりの独白 ~制服と笑顔と、私の名前~

3/3

 


 本当に人間ではなくなってしまった。

 殺人の共謀に加担した罰なのかな?


 天罰ってやつ?

 復讐で殺されなかっただけ、ありがたいと思うべき?

 開きっぱなしのウィンドウには、いまも魔力を吸われ続けているみんながいる。


 そうだね。

 あれよりはマシなんだよね。


 幸運なんだよね。

 自分に言い聞かせて、マスターに付き従う。

 それが、これからの私。

 だって・・・。


「かなりイケてる。可愛いよ!」

 その言葉が、胸の奥に落ちた。


 人間じゃなくなった。

 妖怪になった。

 それでも——いや、だからこそ。


 今の私を、見てくれた。

 今の私を、褒めてくれた。


 制服の袖を、そっと握る。

 その手は、もう人間の温もりを持っていない。

 でも、冷たくもなかった。

 それは、どこか『生きている』とは違う、別の命の感触だった。


 これは、もう『人間の服』じゃない。

 妖怪になった私が、着ている『私の服』だ。


 それが、嬉しかった。

 こんな気持ち、忘れてた。


 だから、笑えた。

 だから、足踏みした。


 それは、妖怪になった私の、最初の喜びだった。

 制服を着るって嬉しいことだったんだ・・・。

 ただの『装備品』になってたなぁ。


「ん?」

 制服の袖を握ったまま、ふと、思い出す。


 ——あのとき。

 カルマを、爆弾として使い捨てる計画を聞いたとき。

 私は、何も言わなかった。


 でも、あの沈黙が、誰かの命を奪った。

 その重さが、今も制服の裾に絡みついている気がする。

 洗っても、落ちない染みのように。


 それが『正しい』と思ってた。

 それが『人間』として『探索者』としての判断だと思ってた。


 でも今、こうして妖怪になって。

  制服を着て。

「可愛いよ」って言われて。

 胸の奥が、あったかくなった。


 あれ?

 どちらが私?


 あのときの、黙って従った『人間の私』?

 それとも今、笑ってしまった『妖怪の私』?


 どちらが正しいの?

 わからない。


 でも、今の私は、少なくとも、カルマに「可愛い」って言ってもらえた。

 それだけは、確かだ。



「ああ、そうか」

 わかった。


 わたしが『可愛い』理由。

 答えは単純。

 すでに出てた。


 だって、『笑えてた』!

『探索者』として活動し始めてから、笑ったことなんてある?

『嗤った』ことはある。

 でも『笑った』ことはない。


 功績を上げて。

 儲かって。

 皆で騒いだあの日。


『笑って見せた』ことはある。

 でも、『笑えてた』ことはない。


 それが、さっきは自然に『笑えて』た。

 意識して作った『笑顔』じゃない。

 『笑った』からできた顔だった。


 だから、『可愛い』って言ってもらえる顔になってたんだ!

 私は『妖怪』の方が『見てもらえる』んだ。


 私は『妖怪』。

 私は『河童』。

 私は『沢辺みどり』。


 私はカルマの・・・なんだろ?

 仲間?

 友達?

 それとも・・・もっと特別な何か?


 わかんないけど、『可愛い』って言ってもらえる存在。

 『笑顔』の無かった『仁科悠』はもういらない。

 カルマを、『仲間』を、死地に向かわせることを認めてしまうような、そんな『人間』はいらない。


 わかっちゃった。

 『本当はわかっちゃダメ』なのかもしれないけど。

 カルマが『人間』を拒み否定するのは、この為なのだろう。


 『私』は一歩踏み出した。


「次は誰?」


『学園祭』をするのなら、もっと人——んーん『妖怪』を増やさなきゃ!

 その子もきっと、笑えるようになる!

 だって、私も、ずっと笑えなかったから。


 胸元で赤いリボンが揺れている。

 動いているのかよくわからないけど、心臓が高鳴っているような気がする。


 この制服が、誰かの涙を笑顔に変える日が来る。

 そう信じてる。


『制服』って所属する学校を示すもの。

 学友との連帯感の象徴。

 これから、この制服は私たち『妖怪』の『誇り』になるんだ!


 制服を着るって、嬉しいことだったんだ・・・。

 でも、今のこれは、ただの布じゃない。


 これは、私が『人間だった』ことを忘れないための、最後の証。

 そして、『妖怪として生きる』ことを選んだ、最初の証。


「この制服が、私たちの旗になる」

 そう思った瞬間、ふと気になった。


「でも、もう少しだけ・・・私らしさを入れてもいいのかな?」

 完全に、元の『学校指定制服』なのだ。


『仁科悠』なら、それでいいけど。

『沢辺みどり』には少しだけ、窮屈に思える。


 袖にワンポイントの刺繍とか、リボンの色を少し変えるとか。

 それだけで、もっと『私の制服』になる気がした。


 言ってもいいかな?

 怒られる?


 ちょっとためらった。

 だけど!


『可愛いよ』に勇気をもらう。


「あのね、制服のデザインって変えてもいい?」

 せっかく作ってくれた制服が、無駄になるって言われちゃう?


「でざいん?」

 不思議そうな顔をされた。

 拒否ではないことに、ほっとする。


「・・・あー、そうか」

 腕を組んで、悩まれてしまった。

 悩ませるつもりはなかったのだけど・・・。


「そういうのよくわからないから任せるよ。ただ・・・」

 私の胸元に視線が来た。

 ドキッとする。


「うん。校章のデザインは確かに変えないとだね」

「あ、ああ。うん」

 制服の刺繡を見ていたのか。


 でも、そうだ。

『あの』学校の校章が付いたままはおかしい。


 でも・・・。


「うー。校章の変更は、私もわかんない」

 リボンの色とかを変えるぐらいならできるけど、校章のデザインとかは無理だ。


「これから何体か『妖怪』を作ることになるだろうし、そいつと相談するといいよ」


 困っていると、そう言ってくれた。

 そうだ、これは私『たち』の制服なのだ。


 みんなで着られる。

 みんなが着たい。

 そんな制服でないと!


「うん。そうするね」

 だけど・・・。


「なにかないの? こういうのがいいって要望」

 スカートの丈は短くとか。

 胸元開けてとかありそうなんだけど。

 男の子って、そういうの好きだったりしない?

 偏見かな?


「・・・・・・」

 黙られた。

 あるんだ!


「どういうの? 教えて!」

 思いきって顔を近づけた。

 近すぎて自分まで赤面しそうだけど、耐える。


「・・・大正ロマン。女学生制服・・・」

「たいしょう?」

 首を傾げた。


 でも。

 わかった!


「袴女子だ!」

 確かに可愛いかも!


 妖怪女子っぽい!

 それ、すごくいい!


「考えてみるね!」

「あ、ああ。うん」


 視線を逸らして、指先で頬を搔いてる。

 なんだろ?

 すごく近くなったって感じがする!


 制服を作ろう。

 きっと素敵になれる。


 みんなで作る制服。

 みんなで着る制服。


 それが、迷宮の中で、私たちが『ここにいる』って証になる。

 その制服があれば、私はもう一度、誰かと並んで歩ける気がした。


 仁科悠は、笑えなかった。

 でも、あの子がいたから、今の私がいる。

 この制服を着て、私は『ずっと』笑える自分になる!


 ずっと『愛される』私でいる!

『私』のために!

 『カルマ』のために!


 その誓いが、迷宮の空気を、ほんの少しだけ、柔らかくした。


 それが、旧校舎の空気をまた、ほんの少し揺らしていた。



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