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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第31話 蛙飛びする愉快な女の子◇仁科悠視点

7話投稿します。1/7

 


 カルマが上機嫌に笑っている。

 63階層にいくつかの『巣』を作り、さらに『育成施設』まで建設中だという。


 捕らえた人々を一カ所に集め、モンスターの成長に利用するための空間。

 卵を産みつけ、成虫になるまで育てる──主に『餌』として。


 私は、今やその一部。

 かつて『再生虫』の実験体として放置されていたが、今では『ペット』のように扱われている。


 すでに生まれた虫は第一陣が巣立っていた。

 何もないところから作るよりも、一割増でステータスが高くなると大喜びだった。

 『エナジードレイン』を使えるモンスターが増えたとかで、『マナポイント』も儲かっているようだ。


 だからなんだね?

 私にかまうようになったのは。


 『再生虫』の実験をしてからは、放置されていたのに。

 今では、ちょこちょこ弄られる。


 モンシロチョウを飛ばして、追いかけさせられるのだ。

 もう、ペット扱いだ。


 ふざけるなと言って拒否したい。

 だけど、ムリ。

 追いかけてしまう。


 ピョン、ピョン。


 なんとかならないものかしら、これ?

 移動しようとすると、なぜか蛙飛びになる。


 自分では歩いているつもりなのだ。

 それなのに、実際は跳ねている。


 でも、きっと跳ねるのは、私が軽いから。

 そう思えば、少しだけ自由になれる気がする。


 でも――


 その姿勢が、誰かに見られていると思うだけで、心がざわつく。


「ペット扱い・・・蛙飛び・・・なんなの、これ・・・」


 羞恥心が、じわじわと胸を締めつける。

 自分の意思で動いていないことが、『見られる』ことで、演出に変わってしまう。


 私は、もう『演じる存在』になってしまった。


 服も、まともとは言えない。

 布の面積より、強調する意図のほうが多い気がする。


 演出として整えられた格好が、余計に意識を集中させてしまう。

 でも、それが今の『普通』になってしまっている。


 これが、どんな状態かはわかるだろう。

 ちょっと『女』っぽさが過ぎる姿なのだ。


 誰かに見られている気がする。

 でも、誰かに見てほしい気もする。

 見られて、恥ずかしくて、苦しくて──それでも、感情が動く。


 それが、私がまだ『私』である証になる気がして。


 もし、何も感じなくなったら。

 もし、羞恥も痛みもなくなったら。

 そのときこそ、本当に『私』は消えてしまう。


 だから、今はまだ大丈夫。

 恥ずかしい。

 苦しい。

 それが、私の最後の『灯り』。


『私』でいるから、苦しい。

 でも、『私』を捨てたら、もう戻れない。

 どっちが正しいのかなんて、もうわからない。

 ただ、今はまだ──揺れていたい。

 沈む前に、もう一度だけ、自分の名前を思い出したい。


 そんなことを思う間も、顔は正面を向いたまま。

 動かすこともできない。

 口元は笑顔を保ち、目線は少し上向き。


 視線の先に誰がいるのか、わからない。

 でも、誰かが見ている気がする。

 その気配だけが、私を『私』に引き戻してくれる。


 呼ばれれば、跳ねるように近づくしかない。

 歩こうとしても、なぜか体が勝手に跳ねてしまう。


 私は、私の意思では動けない。

 涙すら出ない。

 それでも、心の奥では何かが叫んでいる気がする。


「ご飯だよー」

 優しげな声が響く。

 喉の奥がざわつき、体が勝手に反応する。


 目の前には、小さなモンスター。

 餌として設計された存在だった。


 拒否したい。

 でも、本能から口が開き、舌が動く。


 その感触に、かつての記憶が不快感を訴える。

 それでも、体は命令通りに動き、摂取を終える。


「もっとほしい」

 そう言っていた。

 空腹だった。


 あの夜──仲間を犠牲にして得た勝利。

 その宴の食事が、私の『人』としての最後の記憶だった。


 ああ、そうか。

 仲間を殺して笑っていた私は、もう『人間』じゃないのかもしれない。

 とっくに、『人間』ではなくなっていたのだ。


 なら、なんなのか?

 わからない。


 わからないけど、『わたし』は『私』を覚えている。

 きっと『人』ではいられている。


 蛙飛びは、私自身のせい。

 どこかで、『人間』を名乗るのがおこがましいと思っている。


 カエルぐらいが、丁度いいのかも、と。

 仲間を見捨て、仲間に殺された存在には。


 もう『人間』じゃない。

 でも、『何か』ではある。


 跳ねる。

 笑う。

 食べる。

 それが私の『役割』なら、そうしていればいい。


 だけど、心の奥で誰かが叫んでいる。

「それでも、わたしは私だ」って。


 その声が、いつか届くなら。

 私は、まだ沈みきっていないのかもしれない。


 カルマは『わたし』をどうしたいんだろう?

『ソウルポイント』を稼ぐモノ?

 暇つぶしに使えるペット?


 カルマは、何かを笑っていた。

 モンスターの成長。

 ポイントの増加。

 それが、彼の『呼吸』だった。

 何もしていないときには、私以上に生きているのを疑う顔をする。


 私は、少し離れた場所で跳ねていた。

 呼ばれていない。

 でも、見える位置にいる。


 服は、演出されたまま。

『女の子』として見られているのか、ただの『演出素材』なのかは、わからない。


 でも、側にいられる。

 それだけで、少しだけ心が温かくなる。


「名前を呼ばれなくても、目が合えば、それだけで『私』になれる気がした。」


 せめて、誰かの記憶に残る『何か』でいたい。

 それが、私の最後の支柱。

 たとえ、カルマが私を見ていなくても。

 たとえ、私の存在が彼の記録にすら残らなくても。

 でも、その支柱は、まだ消えていなかった。


 誰かが、私の名前を思い出してくれるなら。

 たとえそれが、『人間』としてではなかったとしても。




 ウィンドゥを見つめ、何事か悩むカルマの背中。

 そこに、『何か』が見える気がした。

 それは——


 たぶん。


 希望。



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