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『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』  作者: 葉月奈津・男
R15版。暴力・性的ニュアンスありバージョン

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第29話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③ 中編

6/7



   ◇観察者(カルマ視点)◇


「はい、魔力補充用容器第一号確保!」



カルマがパチパチと手を叩く。

その音は、祝福ではなく、起動音のようだった。


目の前にいるのは、もはや『人』ではなかった。

感情の抜けた目。反応のない顔。

ただ、魔力を生成し、供給するための『器』。


「うん、いい流れだね。これで、迷宮の燃料は安定供給っと」


カルマは満足げに画面を見つめる。

彼女の魔力は、一定のリズムで吸い上げられていた。


「あのとき、オレは『補充させられる側』だった。今は、補充させる側。それだけの違いさ」


人だった頃の彼女の名前は、もう必要ない。

今はただ、容器としての性能が求められている。


「どれくらい『魔力生成』してくれるか楽しみだな~!」


多ければ嬉しい。

少なければ、それなりの使い道を考えるだけ。

質も量も、すべては『資源』としての価値で決まる。


何にせよ、自動で『マナポイント』が増える仕組みが構築された。

彼女は、もう『供給装置』だった。


「補充してあげた分は返してもらったけど、利子はまだだからね」


カルマは笑う。

その笑みは、かつて自分が『奪われる側』だったことを思い出していた。


舞台演出的には、『余韻』と呼ぼうか?


そう言って、カルマが送り込んだのは――魔力を吸収する『ドレインモスキート』。


10階層のボス級モンスター。

蚊の姿をした、吸収特化型の搾取兵器。


彼女の体に群がり、魔力を吸い上げる。

皮膚の上に止まり、針を刺し、静かに、確実に、命を削っていく。


「あのとき、オレは『道具』だった。今は、彼女が『装置』になる番だ。」


カルマの中で、かつての記憶が沈んでいく。

誰にも見られなかった、あの旧校舎の隅で。

笑われ、吸われ、使い捨てられた日々。


今、彼女が『魔力の供給源』として扱われる姿は――その記憶への、静かな返礼だった。


かつては『名前』だった。

今は『数字』だった。


迷宮は、彼女の魔力を数えていた。

声ではなく、数値として。

悲鳴ではなく、出力として。


「いいね。ちゃんと『動いてる』。これなら、しばらくは使えるかな。」


カルマは、画面を閉じた。

舞台は次の幕へ。

彼女は、ただの『装置』として、そこに残された。

 

カルマはもう一顧だにしない。

別のことに意識を移していた。


   ◇魔力補充用容器一号視点◇


「こ、の! クソがぁぁぁぁ!」

無性に腹が立ち、アイコは全力で暴れようとした。


けれど、何も動かなかった。


「は?!」

体が震え、全身が強張る。


「な・・・!」

背後で羽音が響いた。


振り返ることもできず、ひんやりとした振動が背中に走る。


ソローッと視線を向けると、ずんぐりとした『黒バエ』から不穏な気配が、静かに彼女の背へと近づけられていた。

楽観しようとする心の防壁の隙間から、冷たい予感が侵入してくる。


「や、やだ・・・なに、それ・・・やめて、お願い・・・」

声は震え、目だけが必死に周囲を探す。


だが、何もできなかった。


「な、なによ・・・なんなの?」


不穏な気配は誰かの『希望』。

次に伝える『願い』。

だけど、彼女には『絶望』にもなりえる不穏さを伴っていた。


それは武器ではない。

美しく尊い。

命の核のようなものが、静かに揺れている。


それは、誰かの願いのかけらかもしれない。


「ま、まさか・・・」

アイコは震えながら、『現実』から目を背けて『真実』に目を凝らす。


「これは・・・妄想。そう! BLの妄想なの!」


自分に言い聞かせるように呟き、意識を守ろうとする。

 それ以外には『あり得ない』ことが行われようとしていた。



数分後。


彼女の呼吸は浅くなり、目は虚ろだった。

まるで、寄せては返す波を眺めるような平穏。

自然の営みを、自分も一部のように眺めるひと時だ。


自然の一部となった自分を、夢の中で思い描いていた。

夢の中では、誰もが笑っていた。

それが現実じゃなくても、彼女には十分だった。


体の奥で、何かが静かに満ちていく。

それは、彼女の記憶を少しずつ押し流していた。


「そうよ。これ、きっと『意味』があるの」


妄想の世界が、現実よりも優しく見え始めていた。


「私の中で、月が満ちて、波が動く。誰かの役に立つって、素敵でしょ?」


彼女はそう言って、そっと目を閉じた。

これから始まる『使命』に向けて、静かに休息を取るように。


その瞼の裏で、世界が静かに始まろうとしていた。

それは再起動のためのシャットダウン。


――――――――。


「・・・あれ?」


アイコの意識が、ゆっくりと浮上する。

けれど、そこにあるのは『自分』ではなかった。


思考はある。

記憶もある。

でも、感情がうまくついてこない。


「怒ってた・・・はず。怖かった・・・はず。でも、なんでだっけ・・・?」


感情の輪郭が、ぼやけていた。

まるで、誰かの夢を借りているような感覚。


体は動かない。

けれど、それが不自然だとは思わなかった。


「動かないのは当然。私は、動かされる側なんだから」


その思考が、自然に浮かんだ。

否定する気持ちは、もうなかった。


背中に感じる重み。

体の奥に満ちていく『何か』。

それらすべてが、『役割』として受け入れられていく。


「私は、補充用の容器。 魔力を生み出し、供給するための装置。それが、私の存在理由。」


そう思うと、不思議と心が落ち着いた。

誰かに必要とされている。

誰かの役に立っている。


「名前なんて、もういらない。数字でいい。私は、『一号』でいい。」


その瞬間、アイコの中で『自分』が再構築された。

人としての自我は、静かに解体され、装置としての認識が、その空白を埋めていく。


「私は、ここにいていい。私は、動かなくていい。私は、ただ、満たされていればいい」


彼女の瞳が、ゆっくりと閉じられる。

それは眠りではなく、再起動の合図だった。

次に目覚めたとき、彼女は『一号でいい』とも考えなくなっているだろう。


『器』に思考力は不要だから。



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