第28話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ③ 前編
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首を振り続けるだけでは、終わらなかった。
彼女は、『価値がない』とはならなかった。
ヴヴヴヴヴヴヴ――。
背後で羽音が響いた。
「え・・・」
脅威を察知して、思わず身をすくめる。
体が浮き上がった。
・・・違う。
体が浮いたのは事実だが、『自分で』飛び上がったわけではなかった。
「え、や、やだ・・・!」
足をばたつかせるが、空中で揺れることはなかった。
両腕が後ろに引かれる。
誰かに掴まれている。
足も、同じように。
宙に浮いた身体は、意思に反して動かない。
そのとき――
「な、なに・・・なに?」
下からも、別の『何か』が近づいてきた。
背中に乗るような形で、彼女の体に重みが加わる。
「ぐ、ぐぎっ・・・」
下の『何か』が手を回し、頭を静かに押さえた。
上と下から、動きを封じられる。
身動きが取れない。
完全な拘束――けれど、痛みはなかった。
ただ、動けないという事実だけが、静かに彼女を包んでいた。
「え? ちょ、え? う、ウソっ! うそぉぉぉぉぉ!」
下にいた『何か』が、長く伸びた腹部を反らし、先端を上へ向けた。
それは、見た目にも不気味で、どこか本能的な恐怖を呼び起こす動きだった。
「な、なんで・・・」
体の内側と外側の境界で、何かが揺れた気がした。
「ひっ・・・」
嫌な予感がする。
だが――
痛みはなかった。
体の表面に、ひんやりとした感触が走っただけだった。
何かが当たり、そこから力が吸い取られていく。
「あ・・・なんだ。当ててるだけか」
刺すとかではない。
体を傷つけられるわけではないのだ。
少しだけ、安堵する。
ただ、先端は魔力の濃い部分。
『命』の近くに触れているようだった。
何かが絡みつき、固定されている。
だが、それ以上の動きはない。
ジェットコースターに乗るときの安全ベルトのような拘束感だ。
だけど、『何か』の狙いは『そこ』ではなく、もっと深い部分――お腹の奥の方。
体の中の『命』・・・魔力を弄られる感覚。
「で、でも・・・これなら、まだ・・・」
不快ではあるが、最悪ではない。
そう思いたかった。
だが——
「・・・っ、あれ・・・?」
体の奥で、何かが『ずれる』感覚。
内側の何かが、ゆっくりと動かされている。
痛みはない。
でも、『自分の中身』が、自分のものじゃなくなっていく感覚。
大切なはずの『何か』が失われていく。
「や、やめて・・・やめてよ・・・!」
声は出た。
でも、誰も止まらない。
誰も、聞いていない。
背中に乗る『何か』が、わずかに体重をかける。
その重みが、彼女の意識をじわじわと沈めていく。
「やだ・・・やだ、やだ・・・!」
叫びは、やがて囁きに変わる。
囁きは、やがて息に変わる。
「ぁ・・・ふぅ・・・」
そして、沈黙になった。
体の中で、何かが『根を張る』ような感覚。
魔力の流れが、別の意志に書き換えられていく。
「あ・・・あれ・・・?」
自分の手が、わずかに動いた。
意思とは無関係に。
目の奥が、じんわりと熱を帯びる。
視界が、少しずつ霞んでいく。
「これ・・・わたし・・・?」
自分の中に、別の『誰か』がいる。
その誰かが、ゆっくりと目を覚まそうとしている。
彼女の中で、何かが静かに入れ替わっていく。
痛みはない。
だからこそ、恐ろしかった。
「お願い・・・返して・・・」
その声は、もう自分のものではなかった。
「あ・・・なにこれ・・・」
意識が、霧の中に沈んでいく。
輪郭がぼやけていく。
自分の『重さ』が、どんどん失われていく。
体の奥から、何かが抜き取られていくような感覚。
それは、魔力だけじゃなかった。
「ま・・・まりょ、く・・・?」
そう、吸われているのは魔力だった。
けれど、それだけではない。
自分という存在そのものが、少しずつ薄れていくような――そんな感覚。
『エナジードレイン』。
相手の魔力を吸収する技が使われていた。
「ふ、ふざけんな・・・あれって、非接触技だろうが!」
本来は、離れた場所から魔力を吸収する遠距離系のスキル。
こんなに密着した状態で使うなんて、聞いたことがない。
だけど、その位置と雰囲気で気が付いた。
「した、ばら・・・? あ、アイツの逆・・・?」
それは、カルマの『魔力補充』を『逆再生』したような形だった。
かつて、自分たちがカルマにしたこと。
あの時、笑いながら吸い取った“無限の魔力”。
今、それが。
自分の中から、無限に引き出されていく。
「やめろ・・・やめろよ・・・!」
叫んでも、止まらない。
声が出るたびに、魔力が漏れていく気がした。
自分の中が、空っぽになっていく。
でも、空になる前に、『自分』が消えてしまいそうだった。
「これ・・・わたしの番って、こと・・・」
その言葉に、誰も答えない。
ただ、静かに、確実に、吸われていく。
カルマのように、無限ではない。
だから、終わりがある。
けれど、終わったとき、そこに『自分』が残っている保証はなかった。
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