第24話 往路から末路へ ◇とある四人パーティの話◇ ① 前編
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(回想シーン)
それは、深層へと向かう往路でのこと。
カルマは、低レベルパーティと行動を共にしていた。
そもそも戦闘力がほぼないカルマだ。
前線に出ることは最終決戦でもないとありえない。
今はモンスターを駆逐し終わった後の通路で、採取物を根こそぎ集める作業に従事させられている。
「あははは、いいカッコウね!」
パーティの紅一点。
プリーストの女が、喉の奥からくすぐるような笑い声を漏らす。
「……」
カルマは、声もなかった。
声を出すことすら、許されていないような空気。
落としたイアリングを探してと言われ、四つん這いで這い回っていた。
その背中に、無言で荷物が積まれた。
一つ、また一つ。
まるで、黙っていればいくらでも積めるとでも言うように。
重さで潰れそうになりながらも、腕に力を込めて持ち直す。
その瞬間、首元に何かが巻かれた。
キュッ、と音を立てて締まる感触。
「汚らしい使い魔みたいね」
プリーストの女子A——アイコが、わざとらしく鼻をつまみながら笑う。
その笑いは、楽しんでいる者のそれだった。
最近、魔職の女子たちの間で流行っている『遊び』。
不本意な接触を強いられた腹いせに、カルマを『おもちゃ』にすることでバランスを取っている。
「こんなのに『馬』をつけるなんて、センスのない母親ね!」
母親まで侮辱の対象にされる。
だが、カルマの心は動かない。
痛みを感じるには、『心』が必要だ。
「あ、でもあれかしら? 『駄馬』って書こうとして間違えて『駆馬』になったとか?」
「ありそう!」手を叩いて笑う。
その手のひらが、まるで鞭のように響いた。
「駆け出しそうにもありませんね。這うのがやっとだ」
男子A——アオキが調子を合わせる。
笑い声が、通路に反響する。
リードを引かれ、グルグルと歩かされる。
荷物の重さに腕が震え、膝が崩れそうになる。
だが、崩れ落ちる前に──
「【ヒール】」
アイコの魔法が飛ぶ。
絶妙なタイミング。
苦しみは消えるが、屈辱は残る。
「大丈夫かな? 頑張ってね。心から応援してるよ」
男子B——イケダが、わざとらしい声で囁く。
その声は、優しさの仮面をかぶった刃だった。
「はぁ~、面倒くさいなぁ」
アイコが、わざとらしくため息をつく。
そして、杖を軽く振る。
「【サンダーボルト】」
バチッ!
軽い雷撃が、カルマの足元を走る。
荷物には影響がないよう、完璧に調整されていた。
「燃えないなら、フレア系も試したいんだけどなぁ」
魔法の練習。
的は、カルマ。
魔法が撃ち込まれ、ダメージが蓄積される。
そして回復。
その繰り返しが、彼を『資源』に変えていく。
痛みは、もう感じない。
けれど、誰かの笑い声だけが、耳にこびりついて離れなかった。
「じゃあ、補充お願いね」
アイコが手を差し出す。
魔力が流れ出す。
カルマの中から、彼女の体へ。
空になっていく。
でも、完全には空にならない。
どこかに、まだ何かがいた。
声にならない声が、胸の奥で泡のように弾けていた。
それは、怒りでも悲しみでもなかった。
ただ、『自分』がまだいると伝える声だった。
それは、数日前のことだった。
迷宮がまだ、カルマのものではなかった頃。
カルマが、ただ『使われるだけの存在』だった頃。
今、カルマは誰かの痛みを数えている。
でも、かつては自分の痛みすら、誰にも数えてもらえなかった。
「汚らしい使い魔みたいね」「駆け出しそうにもありませんね。這うのがやっとだ」
その言葉は、もう耳に残っていない。
でも、笑い声だけは、まだ消えない。
それが、カルマの始まりだった。
『声なき者』としての、最初の記録。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




