第22話 安全日ってのはただの幻想 ~魂の値段~ ①
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「うわぁぁぁ!」
混乱している。
63階層のセーフティエリア。
カルマに送り込まれた『全階層共通監視用トンボ』──その小さな複眼が捉えたのは、『ありえないはずの影』だった。
最深64階層のボス、『大百足』。
倒したのは昨日の夕方。
リポップは24時間ごと。
今は昼。
あと6時間は出現しないはずだった。
はずだった。
探索者たちは信じていた。
「ここは安全だ」と。
「ダンジョンにも慈悲がある」と。
だが、それは違った。
『レベルが上がって階層を増やした時、なにも設定しなかったか設定するのを忘れて放置していた空間ですね』
それが『システム』の説明。
セーフティエリアとは、『ただの空白』だった。
偶然、何もいなかっただけ。
偶然、襲われなかっただけ。
偶然が、慈悲に見えただけ。
であれば──今からモンスターを設置して、何が悪い?
カルマは、ただそれを『実行した』。
悲鳴が、トンボの複眼に反響する。
画面の端で、誰かの魂が、値をつけられていた。
「【フレアランス】!」
「【アースニードル】!」
「【アイスバレッド】!」
いくつもの魔法が飛ぶ。
悲鳴は上がったが、昨日一度倒している敵なのだ。
慌てたのは一瞬だった。
物理攻撃が効かない相手。
昨日倒した時も魔法の連打だった。
「おお。儲かるね」
魔法が撃ち込まれるたび、『マナポイント』のゲージが上がっていく。
その代償として消えているのは・・・『蠅』と『蜂』だ。
5階層の『ベルフライ』と6階層の『キラーヴィー』だ。
ダンジョンレベル5と6で作成可能なモンスターである。
レベルを上げておいてよかった!
群れで行動する彼らに、『大百足』のシルエットを作らせて攻撃を誘っているところだ。
体長30センチで、防御力や攻撃力の低い彼等のコストは『1000匹』を最小セットとして1セットにつき50ポイントだ。
大魔法一発で300ポイント手に入るうえに、予想外の戦闘で連携が乱れ魔法も乱雑に撃ち込まれている。
ガンガンと魔力が溜まっていた。
費用対効果が驚くほどいい。
被害も出ているが、減った分はすかさず補充している。
それでも魔力ゲージは増え続けだ。
なにしろ、1000匹で50しか使わないからな。
ちなみに、本物の『大百足』は一匹作るのに1000ポイント必要だそうだ。
とてもじゃないが手が出やしない。
しかも、作れたとして最悪何人か逃がしてしまうかもしれない。
確実に一人一人『終わらせてやる』ためには小技で切り崩すのが得策だ。
『ピンポーン!』 脳内で、注意喚起の音が鳴った。
「なんだ?」
『ソウルポイントが100入りました』
カルマは眉をひそめた。
まだ、何かあったのか。
「ソウルポイントってなに?」
『異物の恐怖や苦痛、刺激を受けての劇的な反応により、発生するポイントです』
異物──人間。
それが苦しみ、怯えるたびに、魂が削れる。
その欠片が、資源になる。
「魂か。まんまだな。」
カルマは、ふと笑った。
乾いた、音のない笑いだった。
「なにに使える?」
『Aランク以上の特殊個体の制作に使用できます』
『レア』モンスター用素材。
人間の『魂』も迷宮にかかればそんなもの。
命も感情も『資源』でしかない。
つまり——
「誰かの『痛み』が、オレの『資源』になるってことか」
それは、かつての自分が流した涙の、対価。
それは、かつての沈黙が、ようやく言葉になった証。
「簡単に潰しちゃダメってことだな。活かさず殺さず、ヘビの生殺しがよいと。ポイ活、大事!」
トンボの複眼が、探索者たちの混乱を映し出す。
魔法が乱れ飛び、悲鳴が響く。
だが、それはもう『戦い』ではなかった。
ただの、資源回収だった。
『レアモンスター』とやらについては保留だ。
レベル上げが最優先なんだし、まだ先の話だろうからな。
ちなみに、システムに確認してもらったところ、『ソウルポイント』100は入り口の見張りをしていた男どもに『ダニ』、『ノミ』、『シラミ』をけしかけたことに由来するものだったことがわかった。
全身から血を失っていく苦痛と、『ゆっくり』とした『終わり』の時間。
それがポイントに還元されていたのだ。
どうやらこの『ソウルポイント』は、実際の取得から確認されるまでに数時間のずれがあるらしい。
『マナポイント』は5分程度だし、『ダンジョンポイント』は即時なのに。
魂の欠片ということだから、取り込んだり数値化したりに手間がかかるのかもしれない。
それはともかく、魂の欠片がポイントになる。
つまり、誰かの『痛み』が、オレの『資源』になるってことだ。
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