第15話 末路① ~音の消えた闇~
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64階層を進む主力の様子を確認し終えたカルマは、すかさず63階層に居座る者たちの排除に動いた。
排除とはいうが、命を奪ってしまえばいいともいかない。
『ダンジョンレベル』を上げなくてはならないのだ。
まずは、騒ぎを起こして『マナポイント』を貯めたい。
魔力を存分に使っていただく必要があった。
そのためには工夫が必要となる。
◇
「退屈ね」
女性戦士が、頬杖をついて呟いた。
だだっ広い空間である63階層。
安全地帯にありながら、しっかりと組まれた野営陣地の片隅だ。
手近の石に座り、上へと向かって伸びる穴を見ている。
肘は膝にあり、とてもお行儀がいいとは言えない。
「必要なことでしょ」
女性剣士が、長剣の刀身を拭う傍ら、面倒そうに答えた。
彼女たちは『見張り』だった。
63階層の入り口に拠点を構え、万一にも上の階層からモンスターが下りてこないか警戒するのが役目である。
『入口の』見張りは全員で18。
4人パーティが2組、5人パーティが2組だ。
彼女たちは女性ばかり四人でパーティを組んでいる。
残りのメンバーは回復役と魔法使いだ。
その二人は、後方で瞑想中。
他の見張りは仮眠中だった。
6時間ごとのローテーションで役目に従事している。
この見張りが、カルマのしようとしていることには邪魔だった。
62階層からのモンスターの出入りを監視されるわけにはいかないのだ。
さて、ここで確認をしよう。
この『ダンジョン』は『蟲』系統を表題としている。
『蟲』すなわち『虫』の持つ『コワさ』とは何か?
むろん、これにはいろいろとある。
固い外骨格だったり、強靭な筋組織だったり。
空を飛び、地を這い、水の中でも生息する環境適応力もしかりだ。
しかし、ここでいう『コワさ』で言えば、それらはすべて的外れである。
『虫』の本来あるべき『コワさ』とは・・・。
その小ささと、なによりも『数の暴虐』である。
わかりやすい例を挙げればスズメバチの大群だろう。
数百、数千の群れが一斉に周囲を取り囲んできたとき、人間になにができる?
なにかに隠れるか?
わずか数センチの隙間でもあれば入ってこられるのに?
車に逃げ込んだとしても、エンジン部の下から入り込まれればエアコンの吹き出し口から顔を出すぞ?
家の部屋まで逃げ切るか?
あんなに早く飛べるものを振り払って走る脚力があるとでも?
逃げ込めたとしてもエアコンや換気扇の隙間から必ず侵入してくるぞ?
戦う?
相手からは一刺しされれば終わりで、こちらは全部倒さない限り安全ではないのに?
『虫』の『コワさ』それは、『小ささと数』。
ここでも、それはいかんなく発揮されることとなる。
『虫』の本当の恐怖とは──見えないこと。
止まらないこと。
どこにでもいること。
一匹なら、ただの異物。
百匹なら、ただの不快。
だが、千匹を超えたとき、それは『災厄』に変わる。
「ねぇ、なんか変じゃない?」
疑問を呈したのは、瞑想から戻った回復役だった。
視線が『見張り』の男性陣用テントに向けられている。
「どこがよ? 静かでいいじゃない?」
不思議そうに魔法使いが首を傾げた。
「え?」
「あら?」
途端に、戦士と剣士が顔を見合わせた。
「確かに」
「変ね」
頷き合う。
「な、何がよ?」
自分だけが『変』と思っていないと知り、魔法使いがおどおどとする。
「いびきが」
「はぎしりが」
「聞こえてこないのよ」
3人の視線が、同時にテントへと向かう。
そこは、いつもならうるさいほどの『生活音』が漏れているはずの場所。
今は──何も聞こえない。
風の音すら、遠ざかっていた。
「ああ」
そういえば、と頬に手を当てる魔法使い。
見張り18人中12人が男子だ。
12人も仮眠をとっているにしては静かすぎる。
とはいえ・・・。
「男子が寝てるテントを覗く?」
回復役が、困ったように問いを投げる。
気になるのは確かだ。
解決法も簡単。
だけど、それをやるのには抵抗がある。
「・・・あの子ら、にやらせましょう」
少し考えた戦士が、親指で反対側、女子用のテントを示した。
ああ。
全員が、声を合わせて頷いた。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




