レベル21: おばさんじゃない!
黒煙が、もうもうと立ち上がっている。
「まともに喰らいやがった!」
ーー ミミーが、敵でなくて良かったと、心の底から思うぜ...。
リドルノートは、燃え盛る炎を肌で感じながら、勝利を確信した。
それもそのはずである。獅子王は、防御することもなく、大魔導士ミミーが放った強力な爆炎黒竜波の直撃を受けたのだ。
しかし、炎に包まれる獅子王を見てもなお、牛若丸の反応は冷ややかだった。
「その程度の攻撃で獅子王を倒せたら、誰も苦労はしないよ。」
リドルノートは、魔法を連続使用したことのよる疲労で、座り込んでいたが、大きく息を吸い込むと、自らを奮い立たせるように、地面を蹴って立ち上がった。そして、舞鬼を援護するために駆け寄ろうとした。
しかし、すぐにやめた。いや、やめざるを得なかった。
「そ、そんな...バカな...。」
リドルノートは、自分の目を疑った。
ドスン、ドスンという、地鳴りのような振動とともに、立ちこめる黒煙の中から、純白の立髪をなびかせる獅子王が、悠然と姿を現したのだ。
魔力計の反応も消えていない。いや、それどころか、表示される数値は、凄まじい勢いで上昇し続けている。
リドルノートの頬を一筋の汗が伝った。
「あれをまともに受けて...無傷だと?!あのヒュドラを倒した魔法なんだぞ!」
ヒュドラとは、巨大な胴体に九つの大蛇の首を持つ、全長が20メートルを超える巨大な怪物である。そして、爆炎黒竜波によって討伐したことで、大魔導士ミミーの名が、世に知れ渡るきっかけとなった魔獣でもある。
「ヒュドラなどという小物と、一緒にしないで欲しいのだ。」
獅子王が、鼻をフンと鳴らした。
「それに、無傷ではないのだ。自慢の立髪が、ほんの少しだが、焼けてしまったのだ。僅かとはいえ、俺様の魔法障壁を破壊するとは、なかなかやりおるのだ。」
リドルノートは、咄嗟に、獅子王たちから距離をとり、再び、マジックウォールを多重展開した。
「退くぞ、舞鬼!撤退だ!」
リドルノートは、これ以上の戦闘継続を危険だと判断した。
「しんがりは俺に任せろ!舞鬼はミミーとともに、この場から離脱しろ!」
獅子王は、バイファイアで数倍に底上げした爆炎黒竜波を受けても平然としているような化け物である。しかも、敵は獅子王だけではなく、牛若丸という、得体の知れないハイエルフもいる。
もはや、勝敗は決したと言っていい。
だが、舞鬼は、引こうとしなかった。
「舞鬼!」
リドルノートは叫んだ。そして、撤退するよう、繰り返し呼びかけたが、舞鬼は答えない。それどころか、攻めの構えを崩さず、剣先を牛若丸に向けて、にじり寄っている。
ドンという重い音とともに、二発目の爆炎黒竜波が、獅子王の目の前で炸裂した。
「舞鬼さん!僕たちだけじゃ無理だよ!」
「お前たちを逃がすわけがないのだ。」
獅子王が、リドルノートたちに、ゆっくりと近づいてくる。
「舞鬼さん!もう撤退するしかないって!」
ミミーは、絶叫した。
「私は...、もう二度と、逃げたりはしない!」
牛若丸は、大きく突き出された大天使之剣を半ばのけぞるようにして、かわした。
「構えや太刀筋が、僕と似てる...。おばさんは何者なの?」
舞鬼を見る牛若丸の目が、熱を帯びている。
「お...、おばさんだと?!こ、これでも私は、まだ30代だぞ!」
「十分、おばさんなんですけど。」
牛若丸が、くすりと笑うと、舞鬼は、怒りに任せて、大天使之剣を思いっきり突き出した。
鋭い刺突が、牛若丸の頬を僅かにかすめた。
「30代は...、私は...、おばさんじゃない!」
続いて魔王之剣を抜き放つと、残像すら残さず、横一閃に薙いだ。
かわしきれないと判断した牛若丸は、右腰の氷月にかけていた隠蔽魔法を解いて、素早く抜刀し、その刀身を喉元に迫る剣先に軽く当てて、受け流した。
不意に現れた氷月で攻撃をいなされた舞鬼は、少しだけバランスを崩しはしたが、やや後方に下がりながら、すぐに体勢を立て直した。
牛若丸も、これとタイミングを合わせるようにして、十分な間合いをとった。
「魔力だけではなく、武器も隠蔽していたか...。」
牛若丸は、舞鬼に切先を向けると、腰を落として姿勢を低くした。
「牛若丸君、君は、優れた戦士でもあるようだが、私には遠く及ばない。そこをどけ。」
舞鬼は、細身の少年を見下ろすように言った。
「もう一度だけ言う。ゲームとはいえ、君のような年端もいかない少年を殺めたくはない。だから、そこをどくんだ!」
「僕を子供扱いしないでください。」
そういうと、牛若丸は、左腰に差す炎陽の隠蔽も解いた。




