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たからばこを開けたらどろぼう!  作者: KillYou_1729
第一章 死を乗り越えて
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第六話-13さい 腐敗した精神が過去へと遡る!

ハム(私)……この物語の主人公。生まれと頭と性格が悪く、顔は良い。

レオンハルト……ユウシャ。マ王はすでに討伐しており、ハーレムの女たちと暮らしている。

アクアマリン……ユウシャ・ハーレムの一員。有名な海賊であった。


私なりに色々努力はしてきたのです。


幼少期は母に連れられ柔道を習ってきました。少ない収入から月謝を出してくれたことには感謝していますが、上級生にいじめられるのが嫌で打ち込めませんでした。練習を休みたいというとすごい剣幕になるので、板挟みというやつです。


家でも外でもいっぱいいっぱいだったので、あまり他の選択肢を考える余裕がありませんでした。


それなりに金の自由が効くようになると、一人でもできる撮影や漫画を貪るようになりました。しかしそれにつけても長く熱量を保てません。ギャンブルといった高い刺激性を持つものに関してのみ、思考を集中させることができました。でも、そんなことを続けていても何の役にも立ちません。


気がつくと取り返しのつかない年頃で、今更仕事にも勉強にも打ち込む気にもなれませんでした。


さて、何が好きでもなく嫌いでもない。


黴のように辛気臭い私はいったい、誰だったのでしょう?



「右、左、右、左!」


右手と右足を同時に出す。


左手と左足を同時に出す。


ナンバ歩きというやつです。古来日本では武芸者が身につけていたと聞きます。これで前へ、前へ。徐々にスピードを高めていく。なれない動きに重心がぶれる、視界が揺れる、転びそうだと思ってしまう。でもゆっくりなら誰にだってやれる。重要なのはぐっと歯を食いしばり、足を緩めないこと。


右手と右足を___


左の手足を___


右手と右足を___


左手と手手足を___


右手と右足を___


みたらし団子___


左足と右足と左左左右視界が回る___


「あっ___」


手足がもつれた、と自覚した直後でした。強かに鼻から地面に打ちつけ、衝撃で視界が白くなる。数秒目を回して、アクアさんが上から覗き込んでいることに気がついた。海賊でもある彼女の教育方針はスパルタだ。


「もうこれくらいにしとくか?」


「い、いや!もう、ちょっと、続け、させて!」


暗殺者の才能がある___と聞いたあの日から一年ほど。私はアクアさんに師事してトレーニングをしていた。てっきりナイフ投げとか毒手とかそういうものをやるのだと思っていたが、始まったのは地味な基礎トレーニング。私でも存在は知っているナンバ歩き。


しかしやってみると意外に難しい。掛かり稽古をしたわけでもないのに、全身に青あざがついていた。


「ま、熱心なのはいいことだがよ……一つ一つの動きをおざなりにするなよ。ほら、ちょっと触ってみな?」


指を掴まれて、彼女のほっそりした腰に指先を触れさせる。柔らかく、強く掴めば崩れてしまいそうな肌。


「手足だけじゃない。左右の筋肉をそれぞれ一体化するんだ、締める、緩める。締める、緩める。締める、緩める。締める、緩める……。」


それが一瞬で膨張して、鉄の如き硬度を得る。また柔くなる。これが息を吸う/吐くたびに繰り返され、人体の神秘とはかくや、と思う。近くにこんな人がいたらマッスル志向に目覚めてしまいそうだ。


「すご、前鋸筋、こんな動き方、するですね。」


「そりゃ鍛えてるからな。お前は肉をつけるところからだな〜?」


覆い被さるように抱きつかれ、そのまま押し倒され、抵抗するふりをする。こういう『ごっこ』がすごく楽しい。幼稚な行為だと分かっていても、屈託なく笑える。


「……でも、暗殺術、この訓練で、身につくです?」


「なんだ、手本が欲しいのか?」


アクアさんが私に馬乗りになったまま、太もものスリットから鈍く光るダガーを取り出す。剥き身のまま手首のスナップでジャグリングを始め、思わず肩をすくめてしまう。


「目ぇ瞑るなよ?」


右手がダガーを回収すると同時に、アクアの全身が弾けたように飛び上がった。左半身を猛烈な勢いで地面に叩きつけたのだ。汗が滴り落ちるより、飛び散った土が落ちるより早く、左へ数m離れた樹木にダガーが突き立つ。目を開けてみていたが、感じられたのは猛烈な突風と、全身が『発射』された後だけだった。


右半身に強烈に加圧され、磨がれていない刃が樹木の深く深くへ突き刺さっていた。


「すっごい……。」

「左右の筋肉を統一し、自信をナイフの発射台と化す。最新の暗殺術カリ・シラット。達人には一度しか通じん、良くも悪くも初見殺しだな。一芸には十分だろう。」


すごい。まさしく絶技だ。私も真似てみようと思って、左半身に、青筋が浮くくらいに力を込め、地面を叩く。


「ぶあっ!」


ぐるんっ、と。その場で勢いよく一回転しただけに終わった。


「はっはっは!そう簡単にはできねえよ。私は父親を殺した時に始めて成功させたんだ。」


右の瞼を擦りむいた。小石で口の中を切った痛みも相まって、何気なく公開されるエグい過去にどんな対応をすればいいかわからない。こんな気軽にカミングアウトされるってことは当人の中で大した問題じゃないんだろうけど。

取り敢えず話を移そうか。


「どうすれば、できるようになりますか?」

「ひたすら練習。私が航海に行ってる間も練習をサボるなよ。」

「わかりました、」

「ハハっ、上達したらお前も船に連れてってやるよ。」


グシャっと頭を撫でられるのが、最近では抵抗を感じるようになっていた。嫌ではないはずなのだけれど、何故かむず痒さを感じる。逃げるように練習を続けようとしたが、襟をぐいっと掴んで引き止められた。


「おいおい、そろそろ座学の時間じゃないのか?」

「そう、でした、行ってきま。ナンバ歩き、で!」

「待てよ、軟膏塗ってやる。女の子が傷残しちゃダメだぞ。」

「感謝、です。」


傷跡は顔はもちろん、全身がズキズキ痛む。練習着を脱ぐべく捲り上げたが、アクアに下げ戻された。


「だから、人前で脱ぐな。えっと……部屋行こうな。久しぶりに一緒の風呂浴びようぜ。」

「はい、です。」


私はまだ13歳、こんな身体に欲情するのなんてユウシャ様くらいだと思うのだが。手を繋がれてよたよたと、私は自室に向かって連行されていった。

部屋に入ると背中に手を回して、肩甲骨の上にある留め具を乱暴に外す。投げ捨てられたブラジャーは布地が子供っぽかったし、何より窮屈で、むかむかする。練習着も脱ぎ捨てると、両手を翼のように広げて走り回る。


「服は自分で持って行くんだぞ。」


釘を刺され、渋々と脱衣場まで服を抱えていった。

風呂が苦手になっていた。稽古でついた傷跡に水や薬液が滲みたりするのがストレス。桶から土砂降りのように溢れてくる水も嫌いだ。でも、アクアさんがほっそりした手で髪の間に入ったごみを取ってくれるのは、気持ちがいい。


安心して目を閉じられる。なんだがお姉さんみたいだ。体がぶるぶる震える。


「こら、風呂場でおしっこするな。」

「……。」


うすい黄色の液体がいつの間にか出ていた。わざとじゃないのに。謝るのも苦手になった。

12歳のあの日から、なんだか幼児退行が進んでいる気がする。



「では、この文章を読んでください。」

「人は、考える、葦である。ただし、くすぐれる葦である。」


家庭教師さんの授業も頑張って受けている。最初は気が重かったけれど、徐々に当たり前の事実に気がついた___私が笑えば、向こうも笑ってくれる。そんな当たり前のことが、知らない人とわたしの距離を縮めてくれるのです。


「うん、飲み込みがいいですね。これならすぐに遅れを取り戻せるし、お学校にも行けますよ。」


頑張ったご褒美にみたらし団子をもらいます。食べると甘いものが口の中に広がって、掛け値なしに満点の笑顔になってしまいます。しあわせな気持ちいっぱいで、今日も授業が終わりました。机の中にある答案は100点のものばっかりですが、また一枚増えました。厚みを増すごとに、誇りも大きくなっている気がします。



私の居るユウシャの別荘には、同じくらいの年齢のハーレムメンバーもやってきます。まだレオンが帰ってきていない時はお花屋さんにいったり、スポーツをして遊びます。


今日はみんなで缶蹴りをしました。一番印象深いのは、蟲人族の子が鬼になった時のことです。彼女は複眼と抜群の反射神経で、どんなに素早く缶を蹴ろうと飛び出しても必ずやられてしまいます。みんな次々に返り討ちにあい、残った攻め手は私だけになりました。


私はむしろノロマな方です。南方部族の子や、深海の狩猟民族だった子まであっさりアウトになってしまったので、失敗が怖くて降参してしまおうかと思いました。


しかし、そこで思い出したのがアクアさんと練習したカリ・シラットです。まずはできるだけ缶から離れる瞬間を狙いました。


茂みを飛び出すとほぼ同時に、蟲人少女は抜群の反射神経で缶へ舞い戻ります。しかし、私が全身を缶へ向かって射出する方が早かったので。缶は勢いよく宙を舞いました。そのあとはどうやったのかとか、アクアさんとの練習内容を話すのは楽しかったです。



夜遅くになって、ようやくレオンが帰ってきました。私たちは晩御飯も食べずに、待っていたのでカンカンです。ランジェリーの着せあいっこで盛り上がってましたが、そこはそれ。


さくら組のみんなで入ってきたところを一斉に飛びかかり、枯れ果てるまで絞りました。おかげでみんなお腹がぽっこりしています。

子供の口のナカは筋肉がほとんどないため柔らかく、そっちのほうが気持ちが良かったそうです。


そのままみんな一緒の布団で、体を引っ付けあいながら寝ると暖かくて。いつものことながら目を閉じた後の記憶はなく、すぐにスヤスヤすることができました。


寝る間際、私たちを置いてランプのついた廊下に出ていくレオンを見て忙しいのかな、と思いました。声をかけようかと思いましたが、迷っているうちに寝てしまいました。



次の日起きるとレオンからの言伝がありました。本格的な学校に通ってみないか、ということで。というか、入って欲しいみたいです。みんな入ってるみたいで。自由な風に触れれば新しい興味が出るかもとか、なんとか。


そんなの、色々とおかしくありませんか?


試着のためといって、いろいろなデザインの制服が届けられていたので姿見とじっくり格闘します。丈感を気にしたり、でももうすぐ成長期だからこんなものかと思ったり。いやそもそも学校でどんな場所なんだろう、怖い人がいるかもと思ったり新しい出会いがあるかもと思ったり。


服を脱いでいくと、体のラインに凹凸が少ないのが気になりました。少し食事を控えようか、とか思ってしまいます。


まるで、普通の女の子みたい。


異世界転生から13年と1ヶ月。勇者に拾われてから三年弱。


私は無事に幼児退行しつつありました。

風邪気味なのですが、体温計がないので風邪ではないです。

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