表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第5章
66/214

第64話 ライラの勘違い

 オレが目を覚ました時、ライラはまだ眠っていた。

 先に眠ったはずのライラよりも、オレのほうが早く目が覚めてしまった。


 きっと、もう少し眠れるはずだ。

 そう思って目を閉じたが、眠くならない。

 それどころか、イスで眠ったためか、身体が痛かった。

 これ以上、イスで眠るのは自分自身への拷問になりかねない。


 オレはイスから立ち上がると、大きく伸びをした。

 そして洗面台の前に立ち、歯を磨きはじめる。


「ん……ビートくん……?」


 オレが歯を磨いていると、ライラが目を覚ました。

 オレは口をすすぎ、タオルで口元を拭う。


「ライラ、おはよう」

「おはよう……いつ、戻って来たの?」

「夜遅くに。遅くなってゴメンね」


 オレは遅くなったことを謝る。

 すると、ライラがベッドを抜け出し、オレの服の匂いを嗅ぎ始める。

 また始まったな。ライラの匂いを嗅ぐクセが。

 これが終ったら、遅れた理由を話そう。


 しかし、ライラはオレの服の匂いを嗅いで、顔をひきつらせた。


「ビートくん、他の獣人女の匂いがする!!」


 ライラの叫びに似た指摘に、オレはビックリする。

 そしてその指摘は、当たっていた。

 鼻が()くライラは、すぐにオレがミャーコと会っていたことに気づいた。


「ビートくん! どこで浮気したの!?」

「いや、していないよ! 昨日――」

「じゃあ、どうして獣人女の匂いがするの!?」


 ライラに昨日の出来事を全てを説明しようとするが、その前にライラが口を開くため、説明しようにもできない。

 オレは完全に、ライラに会話の主導権を奪われていた。


「ビートくん、どうして!? どうしてなの!?」


 ライラは(なか)ばヒステリックに、オレの事を問い詰める。

 オレが何も云えずに困っていると、徐々(じよじよ)にライラはトーンダウンしていった。


 そしてライラの目から、一粒の涙が零れ落ちた。


「わたしじゃ、不満だったの……?」

「だからライラ、オレは――」

婚姻(こんいん)のネックレスを贈ってくれた時、すごく嬉しかったのに……」

「ちょっと待ってよ。実は昨日――」

「ビートくん、わたしを守ってくれるって、誓ってくれたのに……!」


 ライラはどんどん暗くなっていく。

 そしてオレが話そうとすると、すぐにライラは次の言葉を発する。


 なんとかして会話の主導権をこっちに持ってこないと、どんどん悪い方向に進んで行く!


「ライラ!!」


 オレは声を大きくして、呼びかける。

 怒鳴られたと思ったライラは、ビクンと身体を震わせた。


「全てを話すから! 聞いてくれ!!」




 オレは昨晩の出来事全てを、ライラに話した。

 ハッターの残業を手伝った後、3等車にいるネコ族の少女ミャーコから、銃の扱い方を教えてほしいと頼まれ、銃の扱い方を教えていた。

 最初はライラのいる個室に戻りたくて断ったが、強盗を撃退した人から直接教えてほしいというミャーコの強い希望と、ハッターからの言葉で、止む無く引き受けることになった。

 そして1時過ぎにやっと終わり、個室に戻って来た。

 それらを全て話した。


 感情的にならず、ただひたすらに客観的になるように、オレは話していった。

 最初は取り乱していた様子のライラも、オレのペースに引き込まれたらしく、少しずつ冷静になっていった。

 全てを話し終えると、ライラが口を開いた。


「じゃあ、ハッターさんとそのミャーコに確認してもいい?」

「ああ、確認しに行こう」


 オレはすぐに同意した。

 やましいことや隠すことなど、何ひとつとしてないのだから。


 そしてオレたちは、朝食を食べることもせず、2等車の個室を出た。




 最初にやってきたのは、商人車のハッターのところだった。

 ハッターはすでに起きていて、開店準備を進めていた。


「おはようございます、ハッターさん」

「おやライラちゃん。おはよう。昨日は手伝ってくれて、ありがとう」


 ハッターがお礼を云うと、ライラは軽く頭を下げた後、口を開く。


「あの、ちょっと聞きたいのですが、いいですか?」

「いいけど、どんなことだ?」

「昨日、私が帰った後、ビートくんはどうでした?」

「昨日のこと……ねぇ」


 ライラの問いに、ハッターは開店準備の手を止めて、目を閉じて腕を組む。

 少しして、ハッターは思い出したように目を開いた。


「あぁ、そうだ! 残業で片づけを手伝ってもらった後、突然、ミャーコという少女が現れて、3等車で騒ぎが起きているから来てほしいって、ビートくんに云ってきたんだ。ビートくんは乗り気じゃなかったけど『人助けだと思って、行ってやれよ』って、俺がビートくんにそう云って見送ったんだ」


 ビートの言葉と、辻褄が完全に合った。

 ライラは目を丸くしていた。


「それで、ビートくんはそのミャーコという女の子と、3等車に向かったんですか?」

「あぁ、そうだ。だけど、それがどうかしたのか?

「わかりました。ありがとうございます」


 ライラはハッターにお礼を云うと、ビートを連れて3等車に向かって行く。

 ハッターはその後ろ姿を見て、微笑んだ。


「モテる男は、辛いな……」



 オレとライラは、3等車に足を踏み入れた。

 朝早い時間だというのに、3等車は賑わいを見せていた。

 その中を、ライラは男たちからの視線を受けながら進んで行く。


 そして、オレはそこでミャーコと再会した。

 オレたちがミャーコを見つけるのとほぼ同時に、向こうもオレたちに気づいた。


「あっ、ビートさん! 昨日はありがとうございました!」


 ミャーコはお礼を云う。

 ライラは敵意を醸し出しながら、ミャーコに近づいた。


「あなたが、ミャーコちゃん?」

「婚姻のネックレス……あなたが、ビートさんの結婚相手のライラさんですね」


 ミャーコの口から自分の名前が出て、ライラは驚いた。

 確かに、初対面の相手からいきなり自分の名前が出たら、誰だって驚くだろう。

 その強烈な一撃に、ライラの敵意はすっ飛んだようだった。


「どっ、どうしてわたしの名前を!?」


 驚くライラに、ミャーコは微笑みながら答える。

 ミャーコがなぜライラの名前を知っているのか。

 それはオレが昨夜、ライラのことを話したからだ。


「昨日の晩、ビートさんに銃の扱い方を教えてもらっているときに、ライラさんのことを色々と話してくれたんです。ビートさん、ライラさんといっしょに居られて毎日幸せだと云ってましたよ。孤児院からの幼馴染みで、先日の列車強盗も、ライラさんと一緒に撃退したと云ってました。ビートさん、ライラさんのことになると話が止まらなくて、ちょっと困っちゃうほどでしたよ」

「えと……それ以外には?」


 ライラは落ち着かない様子で、さらにミャーコに尋ねる。

 どうやら、まだ完全にオレの浮気の疑いが晴れたわけではないらしい。


「銃の扱い方を、教えてもらっただけですよ? 実戦を経験した人から学びたかったので。……もしかして、ライラさんはビートさんが浮気したと思ったんですか?」


 ミャーコの図星すぎる指摘に、ライラは慌てふためく。

 あまりにも分かりやすい反応で、オレは吹き出しそうになってしまう。


「大丈夫ですよ。私はビートさんがライラさんを一途(いちず)に愛していることを、昨日の言葉でよく知りましたから。ビートさんはライラさんのことを『かけがえのない、最愛の女性だ』と、おっしゃっていました」

「そ、そう……ありがとう」

「ライラさん、本当にいい旦那さんと出会えたんですね。うらやましくなっちゃいます」

「あ……あうう……」


 ミャーコが最後に発したその言葉で、ライラの思考は完全に停止した。

 これで、ライラも勘違いだと分かったはずだ。

 オレはミャーコに別れを告げると、ライラを連れて3等車を離れた。


 こうして、オレに掛けられた浮気の疑いは、きれいさっぱり晴れた。




 オレとライラは、個室に戻って来た。

 個室に戻って来ると、ライラは土下座をして何度もオレに謝罪した。


「ごめんね! ごめんね! 浮気したと疑ってごめんね!!」

「ライラ、オレは責めているわけじゃないよ」


 オレは何度も「自分の潔白が証明されたなら、それでいい」と云うが、ライラはそれだけでは治まらない。

 目に涙を浮かべながら、ライラは謝罪を繰り返す。


「ずっとビートくんのことを信じてきたのに、初めて疑っちゃった! 許してもらえないかもしれないけど、わたしのことを許して!!」

「もういいんだよ、ライラ。誤解を招くような行動をした、オレも悪かった」

「耳と尻尾、好きなだけ触っていいから! それに、今夜はわたしをいつでも抱いて――」

「ライラ、落ち着いて」


 ライラが自分の服に手を掛けるが、オレはそれを制止する。

 まだそんな時間じゃないし、今はそれを望んでいない。


「ありがとう、ライラ」

「えっ……?」

「オレは怒っていないよ。それに、ライラがオレのことが大好きなことを、再確認できた。だから、もうこれでおしまいだ」


 オレがそう云うと、ライラはそっと涙を拭う。


「ありがとう」

「そうそう、ライラに涙は似合わない。笑顔が一番だ」

「ビートくん、疑って本当にゴメンね」

「ライラ、もう十分だから」


 手を伸ばして、ライラの頭を撫でる。

 ライラは尻尾を振りながら、オレに笑顔を向けてくれる。


「耳と尻尾は、今夜思いっきり楽しませてもらおうかな」

「うん……わかった」


 ライラは頷いて、頬を赤く染めた。

 



 オレは深夜、ライラの耳と尻尾を何度も触り、そしてライラの身体も心行くまで楽しんだ。

 ライラも満足してくれたらしく、何度も絶頂を迎えたらしい。

 遠吠えをするときのような声を、ライラは幾度となく発して体を震わせていた。

 そして終わりが近づいてきたときには、オレもライラも汗と体液で身体が湿っていた。



 ライラが疲れ果てて横になった後、オレも横になって目を閉じる。

 今回の騒動は、ライラの勘違いだったが、ライラがそう勘違いしてしまうような原因を作ってしまったのは、オレだ。

 ミャーコのお願いを受け入れなければ、こんなことにはならなかったのか?

 いや、それは断じて違う。


 オレがその場は何か理由をつけて断り、ライラと一緒にミャーコのお願いを聞いて受け入れていれば、良かったんだ。

 ライラも一緒に教えていれば、よりいろんなことをミャーコに教えることもできたかもしれない。

 1人よりも2人のほうがいい。


 今となっては結果論だが、これで対策を立てることができた。

 もし次に似たようなことがあったら、このやり方で行こう。



 オレがそう考えていると、ライラが抱き着いてきた。

 眠っているように見えたが、どうも寝ていなかったらしい。


「ビートくん……私は幸せ……大好き」

「ライラ……」


 オレも、ライラを抱きしめた。

 ライラとの絆は、より強くなっただろう。

 この先、何があったとしても、オレはライラと一緒に居たい。



 その夜、オレとライラは抱き合ったまま眠った。




 第5章 西大陸での出会い編~完~



 第6章へ続く

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月20日21時更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ