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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第6章
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第65話 キャラバンとの再会

 アークティク・ターン号は休むことを知らず、レールの上を()け抜けていく。

 そのスピードは衰えることを知らず、さながら陸上の覇者(はしや)ともいえる。


 オレはイスに腰掛け、窓の外の移りゆく景色を眺めながら、そんなことを考えていた。

 ベッドを見ると、ライラがショコラトルに舌鼓(したづつみ)を打っている。


「ショコラトル、美味(おい)しいよぉ~」


 ライラが幸せそうな表情で(つぶや)く。

 オレは目を細めて、再び窓の外へと目をやった。


 少し離れた所に、見覚えのある集団が見えた。

 馬車が、列車のように連なって進んでいる。


「キャラバンだ!」

「えっ、本当!?」


 オレが叫ぶと、ライラはショコラトルを置き、窓に駆け寄る。


「もしかしたら、あのキャラバン……?」

「それは分からないけど……」


 オレとライラは、森に入る前に列車強盗の警告をしてくれたキャラバンを、思い出した。

 あのキャラバンがいなかったら、どういう結果になっていたのか、見当もつかない。

 オレたちにとって、キャラバンは幸運の象徴(しようちよう)だ。


「もしかしたら、あの時のキャラバンかもしれないな」

「じゃあ、あのとき列車強盗のことを知らせてくれた若い商人さん、あの中に居るのかな?」

「それは分からないや」

「もしかしたら、いるかもしれない!」


 ライラはそう云うと、個室の窓を開けた。

 列車が作り出す強風が、ライラの長い髪の毛を左へとなびかせる。


「おーい!」


 ライラは窓から上半身を乗り出し、キャラバンに向かって手を振る。

 危ないと思ったが、レールの近くには障害物になりそうなものは無い。

 気をつければ、きっと大丈夫だろう。


(ライラなりの……キャラバンへの挨拶と、列車強盗の事を知らせてくれたことへの感謝なんだろうな)


 オレはそう思うと、そっとライラの隣に立つ。

 そして同じように身を乗り出し、オレもキャラバンに向かって手を振る。

 ライラの表情が明るくなり、ライラは尻尾も振り出した。


 すると、キャラバンの商人たちが気づいたらしく、手を振り返してくれた。


「ビートくん!!」

「キャラバンが、オレ達に気づいたのかもしれないな」

「すごい! あんなに離れているのに!」


 ライラは嬉しくなったらしく、より大きく手を振り出す。

 



 そのときだった。



「……あれ?」


 キャラバンから、1頭の馬が抜け出した。

 抜け出した馬は、列車に向かって近づいてくる。


「なんだろう?」

「……わたし、これと同じようなものを、前に見たような気がする」

「奇遇だな。オレもだ」


 オレとライラは顔を見合わせ、ある1つのことに気づいた。

 それと同時に、キャラバンから抜け出してきた馬が、オレ達の前までやってきた。


「よう! 久しぶりだな!」


 馬に乗っていた人が、声を掛けてきた。

 間違いなく、森に入る前に列車強盗の事を知らせてくれた、あの若い商人だった。


「お久しぶりです!」

「列車強盗に襲われたと聞いたぞ! 大丈夫だったか!?」

「オレたちで全員取り押さえました!」

「本当か!? それはすごい!!」


 若い商人は驚いた後、満面(まんめん)の笑みを見せる。


「君達、お手柄(てがら)だったな!」


 若い商人は親指をオレ達に向かって立てて、ウインクをした。

 オレたちがやったことを、心から喜んでいるようだ。

 それが伝わってきて、オレたちも嬉しくなる。


「あなたのおかげです。ありがとうございます!」

「いや、お礼を云いたいのはこっちだ。これからは安心して、あの森を抜けられるようになった!」


 若い商人はそう云うと、手綱を使って馬に指示を出した。

 馬は若い商人の指示に従い、列車へと近づいてくる。


 もう少しで触れ合えそうな距離にまで、若い商人は近づいてきた。


「これを受け取ってくれ!!」


 若い商人は叫ぶと、背負っていた袋を手にし、差し出してきた。

 オレは商人が伸ばした手に応えるように手を伸ばし、袋を受け取る。


「これは!?」

「俺達キャラバン全員からのお礼だ! 強盗を捕まえてくれて、本当にありがとう!!」

「あの!」


 オレは、どうしても聞きたいことがあった。


「どうしてオレたちが強盗を捕まえたと、知っているんですか!?」

「新聞で読んだ!!」


 若い商人はそう叫ぶと、親指を立てた。

 そして手綱(たづな)を操り、馬に指示を出す。馬は鳴き声を上げると、列車から遠ざかり始めた。


「元気でいろよーっ! ご縁があったら、また会おうぜーっ!!」


 若い商人はそう叫びながら、キャラバンへと戻って行った。

 若い商人が戻ると同時に、キャラバンは列車から遠ざかり始める。

 やがてキャラバンは地平線に溶けていくように、見えなくなっていった。




 キャラバンの姿が見えなくなると、オレたちは乗り出していた身体を引っ込め、窓を閉めた。


「あの若い商人さんの名前、聞けなかったね」

「それが、ちょっと残念だな。でも、なんだかまた会えるような気がする」

「わたしも!」


 オレとライラは、理由は分からないがあの若い商人に、再び会えるような気がしてならなかった。


 オレは若い商人から受け取った袋を、そっと机の上に置く。袋はずっしりと重く、オレたちはテンションが上がって行くのを感じた。

 きっと、高価なものが入っているに違いない。

 もしかしたら、大金貨かもしれない!!


 オレとライラは、思わずニヤニヤしてしまう。


「開けようか……!」

「うん……!」


 ライラが頷くと、オレは袋を開け、中身を見る。

 中身を見たオレは、目を丸くした。


「……あれ?」

「ビートくん……どうかしたの?」


 ライラが首をかしげる。

 オレは黙ったまま、袋の中のものを全て取り出していった。


 袋に入っていたものは、大金貨や高価なものではなかった。

 ビンに詰められた、各種の香辛料(スパイス)だった。

 香辛料は10種類ほどあり、全て違う色をしていて、全く同じ香辛料は1つとして入っていない。


 オレとライラは、顔を見合わせる。

 これが、キャラバン全員からのお礼なのか――?


「香辛料……?」

「どうして、香辛料が……?」


 お礼の気持ちとして受け取ったものだったが、オレには使い道が無かった。

 2等車の個室には、キッチンはない。

 当然、料理をすることができない。

 キッチンが備え付けられているのは、特等車か食堂車だけだ。


「なんで、あの若い商人さんは香辛料をわたしたちにくれたのかしら?」

「……そういえば、キャラバンは昔、主に香辛料の輸送をしていたって、聞いたことがある!」


 キャラバンが発生した理由の1つは、かつては入手困難だった高価な香辛料を大量に運ぶことだった。大量に運んで輸送コストを下げ、かつ複数人で運ぶことで強盗に奪われないようにするために、キャラバンが生まれたと本で読んだことがある。


 しかし、オレたちにとって香辛料は、持っていても荷物になるだけのものだ。

 キッチンのある家に暮らしているのなら嬉しいが、キッチンの無い2等車では全く役に立たない。


「でも、いくらお礼とはいっても……これは」

「……そうだ!」


 オレはあることを思いつき、ライラに話す。

 オレの思いつきを聞いたライラは、すぐに頷いた。


「それがいいと思うわ!」

「よし、すぐに行こう!」


 オレたちは、袋から出した各種香辛料を再び袋へと戻した。




 ライラと共に、オレは商人車へとやってくる。

 そしてそこで顔なじみになった行商人、ハッターに出会った。


「えっ、香辛料を買って欲しい?」


 ハッターがオレたちに問う。

 オレたちがハッターに差し出したのは、キャラバンの若い商人からプレゼントされた香辛料が入った袋だ。


「ハッターさんって、買い取りもやっていますよね?」

「そりゃあ、やっているけど、買い取るかどうかはモノを見てからしか判断してないぞ? 買い取れないと判断したら、絶対に買い取らないけど、いいか?」


 オレたちは、承諾した。

 買い取れないのなら、他の行商人に売ればいいだけのことだ。

 商人車に乗り組んで商売をしている行商人は、ハッターだけではない。


「よし、わかった。それじゃあ売ってくれるものを見せてくれ」


 オレたちは、香辛料が入った袋をハッターに手渡した。

 袋を開け、中に入っていた各種香辛料を取り出し、1つずつハッターは吟味していく。その目は商人として商品を見定めするときの、真剣そのものな表情だった。

 香辛料を見ていくうちに、ハッターの表情に驚きの色が濃く表れた。


「お、お前さんたち、こんなすごいものどうやって手に入れた!?」


 明らかに驚いた声で、ハッターがオレたちに訊く。


「えっ?」

「どれも最高級品だぞ!? 本当に全部売ってくれるのか!?」

「最高級品なんですか!?」

「あぁ、間違いない。王家や爵位(しやくい)を持った上級貴族に仕える料理人が扱うレベルのものだ! この俺でも、実際に手にしたのは初めてだぜ!」


 オレたちは顔を見合わせ、目を丸くする。


「高値で買い取るぞ! 売ってくれるか!?」


 ハッターからの問いに、オレたちは迷うことなく頷いた。


「もちろん!」

「売ります!」


 オレとライラが答えると、ハッターの表情は満面の笑みへと変化した。


「ありがとう! じゃあ、これにサインをしてくれ」


 ハッターはそう云って、1枚の紙切れを差し出した。それは「売買成立書(ばいばいせいりつしよ)」というものだった。

 オレとライラは渡されたペンを使い、売買成立書にサインをする。


「書けました」


 オレがサインをした売買成立書をハッターに手渡し、ハッターがそれを受け取る。

 すると、ハッターが大金貨をオレたちに手渡した。


「これが、香辛料の代金だ」


 渡された大金貨を、オレたちはすぐにポケットへとしまう。

 何枚の大金貨を手渡されたのか気になったが、今は確認している場合ではない。


「ありがとうよ。また何か手に入れたら、持って来てくれ」


 ハッターにお礼を云い、オレたちは商人車を後にした。




 個室に戻ると、オレたちは受け取った大金貨の枚数を数える。

 ハッターから受け取った大金貨は、予想を上回る4枚だった。

 オレはライラに2枚を手渡し、残った2枚はしまう。


「思わぬ臨時収入になったな」

「これで、また少し懐に余裕ができたね!」


 笑顔で懐に大金貨を入れていくライラ。

 しかし、オレは手持ちにはまだ余裕があった。


 せっかくの臨時収入だし、何かに使いたいな。

 そう思ったオレは、久しぶりに奮発することに決めた。


「よし、今夜はサーロインステーキにしようか」

「えっ、本当!?」

「オレの奢りということで、どう?」

「賛成!」


 ライラが笑顔で答えた。尻尾がブンブンと左右に振れる。

 サーロインステーキが食べられることが、かなり嬉しいようだ。


「ライラは本当に、肉料理が好きだな」

「もちろん肉料理は好きだけど、ビートくんと一緒に食べられるから、嬉しくなっちゃって……!」


 いつも一緒に食べてるじゃないか。

 オレは心の中でツッコミを入れる。



 そして夜になると、オレたちは食堂車へと向かった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月21日21時更新予定です!

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