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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第2章
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第23話 新たなる旅立ち

 オレとライラが起きたのは、昼前だった。

 目を覚ました時、ライラはまだ隣で眠っていた。ベッドのシーツには、所々にシミが残っている。中には、赤いシミもあった。

 昨夜(さくや)のことを思い出し、オレは赤面する。

 ライラは、喜んでくれただろうか。

 しかしすぐに、オレは顔を青くした。

 オレはライラの中で何度も絶頂した。


 ライラと(まじ)わっているときは、夢中で気にも留めなかったが、もしも子どもができてしまったら、どうしようか?

 もちろん、ライラとの子どもなら大歓迎だ。

 しかし、ライラが妊娠したら、両親を探す旅どころではない。

 不安になってきた……。


 すると、ライラが起き上がった。


「ビートくん……おはよう」

「おはよう……ライラ」

「……昨日、ビートくんすごかったよ」


 ライラが、顔を紅くして云う。


「わたし、もうおかしくなっちゃいそうなくらい……あれ? ビートくん、顔が真っ青だけど、気分でも悪いの?」

「いや、実は……」


 オレはライラに、子どもができてしまったらどうしようかと、胸の内を話す。

 ライラはオレの話を一通り聞いてから、答えた。


「それなら、大丈夫よ」


 ライラは枕元(まくらもと)に置いてあった、小瓶を手に取り、オレに見せてきた。

 小瓶の中には、ピンク色の液体が入っている。


「それは?」

「避妊薬よ。ビートくんがお風呂に入っている間に、飲んでおいたの。だから、心配しないで」

「そうか……ありがとう、ライラ」


 オレは気持ちが落ち着いていくのを感じ取る。


「それに……」


 ライラは再び、顔を紅くする。


「まだストックはあるから、もしビートくんが望むなら……」

「ライラ……」


 つまり、旅立つまでにあと何回かは……。

 オレも再び顔を紅くした。



 ライラは、3年務めたレストラン『ボンボヤージュ』を退職した。

 一応寿(ことぶき)退職ということになり、送別会を開いてもらえたらしい。

 ライラは「お父さんとお母さんが見つかって、またグレーザーに戻ってきたら、必ず『ボンボヤージュ』に顔を出したい」と感激の涙を流していた。


 一方、オレは鉄道貨物組合(トランスギルド)にしばらく鉄道で旅をするとだけ伝えた。

 鉄道貨物組合は、4つの大陸全てに存在している。

 他の場所に行っても、大きな駅なら必ずあるのだ。

 もし万が一、旅の途中で何かあってクエストをしなければならなくなったときは、その時にいる場所の鉄道貨物組合(トランスギルド)報告(ほうこく)すれば、クエストを受けられる。

 オレが鉄道貨物組合(トランスギルド)に登録して請け負いでクエストをするようになったのは、このシステムがあったからだ。


 そして、アパートの部屋を引き払い、オレたちの旅立ちの日がやってきた。



 オレとライラは、駅事務所で乗車券(じようしやけん)を受け取った。


「こちらが、本日正午発(しようごはつ)大陸横断(たいりくおうだん)鉄道(てつどう)、アークティク・ターン号の乗車券です。最終目的地となるサンタグラード駅まで有効ですので、くれぐれも無くさないようご注意ください」


 駅員の説明を受け、乗車券を受け取ったオレとライラは、改札(かいさつ)を抜けてアークティク・ターン号が停車中の1番ホームへと向かった。


「「うわぁ……」」


 オレとライラは、呆気(あつけ)にとられた。



 5年前、初めて大陸横断鉄道のアークティク・ターン号を見た。

 そしてそこには、5年前とよく似た光景が、待っていた。



 巨大な蒸気(じようき)機関車(きかんしや)が停まっていて、機関車の先端には「アークティク・ターン号」と書かれたプレートが取り付けられている。

 その機関車の後ろには、先が見えないほどつなげられた、長すぎる列車(れつしや)が。

 多くの人がいて、すでに列車に乗っている人や、ホームで(わか)れを()しんでいる人、商人から物を買っている人、荷物を積み込んでいる人、駅員と何かを話している人、乗客や商人を監視(かんし)する鉄道騎士団(てつどうきしだん)……様々な人が、列車のすぐ近くに居た。

 まるで、1つの街がそこにはあるようだった。

 本当にこれだけの人が、この列車に乗り込むのか。


 オレとライラが呆然と見つめていると、背後から肩を叩かれた。


「こらっ、今からそんなんで、お父さんとお母さんを探しに行けるの?」

「わっ!?」

「きゃっ!?」


 どこか懐かしい声に、オレたちは振り返る。

 そこにいたのは、ハズク先生だった。


「「ハズク先生!!」」


 オレとライラは、同時に叫ぶ。


「先生、どうしてここにいるんですか!?」

「もちろん、入場券を買って入ったの。可愛いあなたたちを見送るのは、当然(とうぜん)の事です」


 ハズク先生は微笑み、オレとライラの頭に手を置く。


「ライラちゃん、あなたが本当のお父さんとお母さんに再会できることを、私はグレーザー孤児院から祈っています」

「ハズク先生……ありがとうございます」


 ライラが涙声(なみだごえ)で、お礼を云う。


「そしてビートくん、どんなことがあっても、奥さんであるライラちゃんを、守ってあげてね」

「はい! ライラのことは、オレが必ず守ります!」


 オレは右手で(こぶし)を作り、ハズク先生に(ちか)う。


「さぁ2人とも、もうすぐ出発(しゆつぱつ)時刻(じこく)の12時になるわ。急いでアークティク・ターン号に乗りましょう」

「はいっ!」

「い、イエッサー!」


 ハズク先生が(うなが)し、ライラとオレは返事をして乗車券に(しる)された車両へと向かう。


「まもなく、1番線から大陸横断鉄道、アークティク・ターン号が発車いたします! 最終目的地(さいしゆうもくてきち)は、北大陸(きたたいりく)のサンタグラードです! ご乗車の方は、お急ぎください! お見送(みおく)りの方は、危険ですので列車から(はな)れて下さい!」


 駅員がメガホンを使い、ホームにいる人に呼び掛ける。


「2人とも、もう時間があまり無いわ。今からすぐ近くの乗降口(じようこうぐち)に急いで!」


 ハズク先生の言葉で、オレとライラはアークティク・ターン号の1番近い乗降口から列車に乗り込んだ。


「ハズク先生! ありがとうございました!」

「必ず、お父さんとお母さんを見つけます!」


 オレとライラが云うと、ハズク先生も返事をしてくれた。


「身体に気を付けて、頑張ってくださいね!」


 ハズク先生のその言葉が、涙声になっていたのを、オレは確かに聞き取った。



 先頭の機関車が、汽笛(きてき)()らした。

 とてつもなく大きな汽笛が出発の時刻を告げ、アークティク・ターン号はゆっくりと動き出した。

 少しずつスピードを上げて行き、ホームに残っていた見送りの人々は、列車に向かって手を振る。

 列車に乗っている人も、それに答えるように手を振り、中には窓から身を乗り出しながら手を振っている人もいた。

 客車の後に貨物車が続き、やがてアークティク・ターン号は1番ホームからグレーザー駅を飛び出していった。



 ハズク先生は、地平線(ちへいせん)彼方(かなた)へと消えていくアークティク・ターン号を見て、そっと呟いた。


「いつかまた、きっと会いましょう。私の子どもたちよ」



第2章 旅立ち編 完


第3章に続く

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は5月10日21時更新予定です!


次回からは、第3章へと移ります。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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