第22話 ライラとの初夜
15歳の誕生日も終え、共に15歳になったライラに婚姻のネックレスを贈り、正式にオレとライラは夫婦となった。立会人には、グレーザー孤児院のハズク先生になってもらった。ハズク先生は、オレたちの結婚にとても喜んでくれた。
「婚約を知らせてくれた時、いつかは……と思っていました。ついに今日、その日が来たのですね。おめでとう、ビートくん、ライラちゃん。先生はとっても嬉しいです」
涙を流しながら喜ぶハズク先生を見たのは、これが初めてだったかもしれない。
これで、もういつ出発しても大丈夫だ。
ライラとは夫婦になったし、ライラの両親を探すための資金も十分すぎるほどに貯まった。ライラと共に一定額を貯金し、共に頑張ってきたかいがあった。貯金は15歳のオレたちにしてはかなりの額のため、これから減っていくことを思うと、やっぱり減らしたくないという気持ちが湧いて出る。
しかし、オレはその気持ちを追い払うように、首を振る。
これはライラの両親を探すために貯めてきたおカネだ。
目標となる金額が貯まるまで、一切手をつけないとライラと約束してきた。
これが当分の間、生命線になるんだ。
そしておカネとは別に、旅をするための道具も買い揃えた。
とはいっても、ナイフや寝袋、携帯コンロのようなものを揃えたわけじゃない。
サバイバルをしにいくわけじゃないからだ。
アークティク・ターン号での鉄道旅行になるから、着替えや身分証明書、少しの携帯食料などで十分だ。
鉄道とはいえ、アークティク・ターン号は大陸横断鉄道。
超長距離を走ることが前提で作られているのだから、長旅でも快適に過ごせるような作りになっているし、サービスも充実している。
「よし、あとやることはオレとライラが勤め先を退職して、アークティク・ターン号の乗車券を買って、このアパートを引き払うだけだな」
オレは確認するように、辺りを見回す。
退職するが、まだしばらくは働く予定だ。
アークティク・ターン号が出発するのは、あと2ヶ月も先である。
それまではここでゆっくり過ごしても、問題は無い。
しかし、オレは何かを忘れているような気がしてならなかった。
とても大切な、何かをだ。
「でも、何か忘れているような気が……あっ!」
オレは忘れていたことに気づき、顔を紅くする。
ライラとの、初夜だ!
ライラに告白し、婚約のネックレスを渡してから、もう3年が経過した。
その間、一緒のベッドで寝たことも何度もあったが、まだエッチなことはしていない。
ライラの夢である、両親を探すための資金を作るために、オレとライラは必死に仕事をしておカネを貯め続けていたからだ。
それに、まだ婚約の段階で、正式な結婚をしていなかったのも理由だ。
何度か一線を越えたいと思うことはあったが、オレは「まだ婚約中で結婚したわけではないから」と自分を抑えてきた。
しかし、今は違う。
ライラとは正式に婚姻のネックレスを交わし、結婚した。
それに、世間で一人前と認められる、15歳になった。
エッチなことをしても、誰からも文句を云われる筋合いはないはずだ。
それに明日は休日!
オレもライラも、仕事は無くフリーだ!
そう思うと、興奮してきた。
アークティク・ターン号に乗ったら、いくらなんでもそんなことをできる機会は、まずないだろう。
ライラだって、他の誰かが使ったベッドで初夜を迎えるのは嫌なはずだ。
だったら、今、オレたちのプライベート空間である、ここで――!
「ビートくん、どうしたの?」
背後で、ライラの声がする。
ライラが、買い物から帰ってきた。
「お、お帰り!」
「ただいま。……あれっ、ビートくん、顔が真っ赤よ?」
ライラはオレの顔を見て、首をかしげる。
「熱でもあるの?」
「無いといえば、ウソになるな」
「風邪でもひいちゃったの? こんな時期に」
「いや、そうじゃない。身体はいたって健康だ」
「じゃあ、どうして顔が紅いの?」
問いかけるライラに、オレはゆっくりと近づく。
そして正面から抱きついた。
「えっ、ビートくん!?」
驚いたライラは、買い物袋を危うく落としかける。
緊張するが、お願いしてみる価値はあるはずだ。
オレは自分にそう云い聞かせ、口を開く。
「ライラ、今夜、その……」
「ビートくん、落ち着いて」
えっ?
ライラの冷静な言葉に、オレの思考が停止すると、ライラはゆっくりとオレから離れる。
「これから夕食の支度しなくちゃいけないから、また後でね」
そう云うとライラは、キッチンに立った。
「……うそぉ」
ライラは、そういったことを望んでいないのか?
オレはそう考えたが、そんなことはないはずだと、思いたかった。
ライラと夕食を食べた後、オレがどうやってライラをベッドに誘おうか悩んでいると、ライラが先にお風呂に入った。
先にお風呂に入って行くのを見て、オレは『もしや!?』と考えを巡らせる。
先にシャワーを浴びて、待っているというライラからの無言のメッセージなのでは!?
あり得ないか?
いや、断じてそんなことはない!!
十分あり得ることだ!
もしこの後、ライラが下着姿だったりしたら、アリと見なしてもいい!
諦めるのはまだ早い!
早すぎるぞぉ!!
「お風呂、お先にいただいたよー」
ライラが、お風呂から出てきた!
オレは反射的に、ライラに顔を向ける。
「おっ、待ってた……あれ?」
きっと下着姿に違いない!
そう思っていたオレは、目を疑った。
ライラが来ていたのは、いつものパジャマだった。
このアパートに2人で引っ越してきたときから着ている、普通のパジャマだ。
下着姿などでは、断じてない。
「ビートくん、どうかした? 私の顔になんかついてる?」
テンプレすぎるセリフを、ライラは口に出す。
オレは首を横に振った。
「じゃあわたし、今日はちょっと疲れちゃったから、先に休んでいるね」
「あぁ、おやすみ……」
ライラはそのまま、寝室へと向かって行った。
オレは生気を失いかけたまま、お風呂へと向かった。
お風呂から出たオレは、意気消沈したまま寝室に向かう。
なかなか、思うようにことは進まないものだ。
しかし、冷静になって考えれば、オレも焦り過ぎたのかもしれない。
オレ自身、いつでもそういう気持ちで過ごしているわけじゃない。ライラだって、いつもそういう気持ちにはなっていないはずだ。
それにもしかしたら、ライラはそういうことは苦手かもしれない。
お願いしたところで、簡単にできることではないし、しつこく迫ってライラから嫌われるのはゴメンだ。
うん。今日は諦めよう。無理にお願いしても、疲れているライラを困らせるだけだ。
アークティク・ターン号で両親を探す旅に出る前に、1回くらいはあるだろう。
オレは先に眠っているであろうライラを起こさないように、静かに寝室のドアを開けた。
ベッドに、寝ているはずのライラが座っていた。
窓から降り注ぐ月の灯りの下で、髪を下ろしたライラはこちらを向くと、笑顔を見せる。
「待ってたよ、ビートくん」
「あれ? 先に寝たはずじゃあ……」
「ごめんね。あれはウソよ。ビートくんを待っていたの」
オレを待っていた?
どういうことか分からず、オレはライラの隣に腰掛ける。
すると、ライラがオレの耳元でささやいた。
「ビートくん、ちょっとだけ、向こうを向いてもらってもいい?」
「いいけど、いつまで?」
「私が『いいよ』って云うまで」
オレは云われた通り、ライラの言葉に従い、ライラとは反対の方向に顔を向ける。
その先に見えるのは、夜の闇だけだ。
すると、隣でシュルシュルと布をするような音が聞こえ始める。
その音で、オレの中で消えかけていた希望が、一気に膨れ上がる。
もしかして、この音は――。
「おまたせ。もう、いいよ」
その言葉で、オレはライラを見る。
そこには――女神がいた。
「ライラ……!」
オレは大胆な姿になったライラに、目を奪われる。
さきほどまでのパジャマではなく、ライラは白いネグリジェに身を包んでいた。
ネグリジェは透けていて、ライラの白い肌と曲線美を強調してくる。
孤児院にいた頃から大きいと思っていたライラの胸も、ネグリジェがこれでもかと強調してくる。デカい。かなりデカい。こんなに大きかったか?
どうやらまた成長したらしい。Fカップは絶対にありそうだ。
ガン見しても、ライラは恥ずかしがって顔を紅くしながらも隠したりはせず、下から腕で持ち上げて、むしろ強調してくる。
下は……ライラお気に入りの白い紐パンだった。
ライラがいないときに何度盗み見たか分からない、オレも気に入っているものだ。
そして首元で光るのは、オレの妻であることを証明する、婚姻のネックレス。
「わたしが、こういうことをしないとでも思ってた?」
ライラはそう云って、オレに密着してくる。
「実をいうと……ライラはこういうのは苦手じゃないかなと思ってた」
「ビートくんとなら、したいの。恥ずかしくても、ビートくんのことが、大好きだから……」
「そうか。早くお願いすれば良かったな」
「わたし、本当はずっと待ってたんだよ? ビートくんとこういうことをするの。でも、いきなり切りだして『結婚した幼馴染みが、淫乱な尻軽女だった』なんて思われたらどうしようかと思うと、ビートくんに求めるのが怖くなっちゃって……」
「ライラ……」
オレは、早くにライラを求めなかったことを、後悔した。
幼馴染みで妻のライラが、そんなことを思っていたなんて。
オレはなんてバカなんだ。
「ビートくん、わたしって、魅力的?」
「もう最高」
「本当?」
「ライラと結婚して、本当に良かった。他の男には、死んでも渡さない」
「もうっ、ビートくんってば!」
すると、ライラはベッドに身体を乗せ、オレの横で寝そべる。
「ビートくん、わたしの初めて……もらってください」
「ライラっ――!」
オレは理性と衣服を全て捨て、ライラに身体を重ねた。
その後、オレとライラは何度も身体を重ね合わせた。
ライラは幸せそうに声を上げ、首元で婚姻のネックレスが揺れる。
共に何度絶頂を迎えたか、分からないほどだ。
オレとライラが疲れ果て、やっと眠ったのは、朝を迎えてからだった。
こうして、オレはライラと幸せな初夜を終えた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、書いていてものすごく楽しかった回です。(ゲス顔
本当はもっと濃厚なシーンも書きたかったのですが、さすがにマズイと思ったのでここまでにしてあります。





