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少女龍と黒髪少女  作者: 久吉
日常話
12/26

十一話

風邪ひきました。頭痛が痛いです。

 

 この世界の北東に位置する山を超えたその先、そこには魔物の頂点に立つ四龍の一柱である、炎龍アグニの屋敷がある。


 そこの一部屋に集まる三人の人物。



「久しいな、シエル」


 凛と立つ一人の女性。その女性はお嬢様よりも背が高く、気品があるように感じる。


 決してお嬢様に気品がないという訳では無いけど。


 比べたらの話だ。



「お久しぶりです、エウロスさん」


 そう、屋敷にやってきていたのは風龍エウロスと呼ばれ、人間に恐れらている四龍の一柱だった。



「よく来たわね、大変だったでしょう?」


 勿論、今回やってくることはお嬢様も理解しての上のことだ。どこぞの水龍さんは連絡することもなく用のない時に突然やってくるのだけれどもその点、エウロスさんはちゃんとしている。


 こちらの邪魔にならない時に、それもきちんと事前に連絡をしてくれる。……まあ、それが当たり前といったらそれまで何だけれども。


 でも、エウロスさんはそれ以外のところも丁寧で真面目だ。四龍の中でも一番のしっかりものだと私は思ってる。




 そんなエウロスさんが今回ここに来た理由、それは私を借り受けたいというものだった。


 人手不足……というよりもどうしても人間としての私が必要だそうだ。エウロスさんによると危険はないそうだけれども、私としてはお嬢様のお側を離れるのに不満があったり。

 でも今回のことはお嬢様も了承している。


 お嬢様私と離れるのは嫌じゃないかと思うのは思い上がりだろうか。エウロスさんの話を聞き、ふたつ返事で返答を返したお嬢様に、正直内心少し、いや大分ショックを受けていたりする。



「じゃあ、シエルを頼むわね」

「ああ、風龍の名にかけて無事に送り返すと誓おう」

「シエル、そんな長い間でもないけれども向こうでも元気でね」

「はい、お嬢様こそ」


 本当は寂しくて仕方ないのだけれどもそのことを顔に出すわけにはいかない。余計な心配をお嬢様にはさせたくない。


 その為には毅然にふるまわなければ。何ともないように振る舞い、エウロスさんの後をついていく。


 外でお嬢様様やグラウディアさん、その他の屋敷にいる魔物達の見送りを受けて私とエウロスさんは屋敷を離れた。



『シエル、速さは加減するが落ちないようにしっかり掴まっていてくれ』

「ひ、ひゃいっ!!」


 速さは加減する、と言ってもそれはエウロスさんからしたらであって人間である私、いや、他の魔物からしても随分と速いものだった。言われるまでもなく落ちないように必死に背中を掴む。



『大丈夫なようだな。ではもう少し速くするとしよう』

「え……ちょっ」


 ひゃああああああああああっ!! 加速するエウロスさん。私は声にならない悲鳴を上げる。果たして私は無事にエウロスさんの住む場所へとたどりつけるのだろうか……






 目の前で、エウロスが飛び去って行く。


 背には勿論、シエルが乗っている。そのことに私は不安を覚える。私がエウロスのところに行くことを許可した時も何も不満を言わなかった。


 今もそうだ、シエルは何事もないように私に笑いかけ、背を向けエウロスの背へと登っていった。ひょっとしていつの間にか、私の気づかないうちに愛想を尽かされでもしたのだろうか。ひょっとしてこのままエウロスの所に行ったまま帰ってこなかったり……先程の毅然とした態度はそういう事だったのでは……



「お嬢様、仕事を始めましょう」


 そう戸惑っているアグニの思考を遮るようにグラウディアが言う。そのまま不安に駆られて飛び出していかんばかりのアグニを宥めて屋敷の中へと引っ張っていく。


 ただ、屋敷の中に入ったからと言ってアグニの悩みが消えるはずもなく、度々グラウディアはそんなアグニを宥めるのだった。







 エウロスさんの背に乗る事数時間、私は必死に意識が飛ばないように堪えていた。そうしてついた場所、そこはお嬢様の屋敷のような場所とは違い、里であった。見慣れない魔物達がエウロスさんと私を迎える。

 代表して出てくる大きな蛇の魔物。



「お帰りなさいませ、我が主よ」

「うむ、私がいない間、問題はなかったか?」

「それは勿論。そちらの方が噂に聞く……?」

「ああ、シエルだ。少しの間頼む。ではシエル、後でまた会おう」

「ふぇっ!? は、はい!」


 私を置いてあっという間に会話は進み、気付いた時にはエウロスさんの姿は小さくなっていた。


 その場に取り残されるシエルとその他大勢の魔物。先程と同じ蛇が呆然としているシエルへと声をかける。



「本日からシエル様の周りの世話を務めますエポピスと申します。以後お見知りおきを」

「は、はい! シエルです、こちらこそよろしくお願いします!」

「では、まずシエル様が滞在する間にお使いになられる部屋へと案内しますね」


 そう言いきり、先陣をきるエポピスの後をこけそうになりながらもついて行く。


 落ち着いた様子のエポピスとは裏腹に、終始慌てているシエルだった。







 前で進む大蛇、エポピスさんを見ながらシエルは思う。それとなくグラウディアさんのような方だなと。


 落ち着いていてそしてどことなく気品を感じる姿、きっと立場的に同じような所にいるのだろう。



「そう言えば私はここで何をすればいいのですか?」


 最も重要な事だ。お嬢様にも教えられていないし、ここに着くまでエウロスさんは何も言わなかった、と言うよりもそんな余裕はなかった。


 今からすることぐらいは知っておきたい。



「さあ、私は聞いておりません。主が話していないというのであればそういう事なのでしょう」


 意味深げにそれだけしか言ってくれなかった。


 ぽつんと一人きり、部屋の中で座る。外はもう日も暮れ、段々と暗闇へと染まっていく。


 魔物達が集まる中にぽつんと一つだけある小屋、そこまで案内されて出された指示はエウロスさんから何かあるまでここで待機というものだった。



「暇です……」


 それからずっと音沙汰なしだ。これと言って何かがある訳でもないこの部屋、私にできるようなことは何もない。かと言って勝手に外に出るのも迷惑だろう。

 結局、私はこの小さな小屋で暇を持て余すしかないのだった。



「エウロスさんはまだこないのかなぁ?」

「呼んだかい?」

「ふぇっ!?」


 驚き、後ろを振り返るとそこには既に部屋の中へと入り立つエウロスさんの姿だった。



「えっと……いつから?」

「今来たばかりさ、すまないね、思ったよりも時間がかかってしまってね。本来であれば今日中には案内する予定だったんだが」

「いえいえ。でも、私は何をすればいいのですか?」

「あー、それなんだが……まあ、詳しい事は明日説明する。今日はそのまま休んでくれ」


 申し訳なさそうに頭に手を添えながらそんな事を言う。どうやらここまで待っていて今日は何もないようだ。


 その事実に少しムッとする。ならば、今日くる必要はなかったのでは? そうすればお嬢様とこう長く離れなくてもよかった。そう思ってすぐにその考えを消す。エウロスさんだって忙しいのだ。いくら私が招かれたものだと言っても立場も身分も違う。


 私がそんな事を言うのは筋違いであるし、身の程知らずだ。


 けれど残る不満を心の中に押し込み、諦める。



「分かりました」

「すまないな、明日こそは案内する」


 大人しく今日はエウロスさんの言う通りに寝るとしよう。


 でもその前に……



「すいません、お湯をお借りしていいですか?」

「お湯を……?」


 不思議そうな顔を表に出し、首を傾げる。ん、別に変なことを言ったつもりではないのだけれども。どうしたというのだろうか。私が不思議そうな顔を浮かべるのを見てエウロスさん納得したかのように一人頷く。



「ああ、そうだったな。アグニの所では毎日のように湯につかるのか。悪いが残念ながら私達の所ではそういった風習は無いのだ。湯を用意することはできない」


 その言葉に私は固まる。


 理由? そんなのは言うまでもない。


 毎日のようにつかり、その身を洗っていたという湯がないのだ。どうせ一日ぐらい、といった言葉で住むものでもなかった。それ程までに大切な毎日の大事なものなのだ。先ほどの不思議そうな顔を浮かべたままで固まる様子がおかしかったのかエウロスさんはくすりと上品に笑う。その笑みで私は一つの事に気付く。


 なら、どうやってエウロスさん達は体を洗っているのだろう。


 何かあるはずだ。



「ああ、勿論シエルの察する通り私達は体を洗わない訳ではない。と言っても主なのは同族同士で汚れを舐めあうものだが。雨でも降っていれば水浴びでもするのだがな。どうする? 私とでもするか?」


 可笑しそうに笑いながら尋ねる。いくら洗う事が出来ないとはいえエウロスさんとそのようなことをするのは私の尺遠慮願いたいものだった。でも汚れを舐めあう……ぜひ屋敷に戻ったらお嬢様とやってみたいものだ。と言っても湯がある限りそのような機会が訪れるとも思わなかったけれども。



 しかし、どうしたものだろう。こうなればもう今日は諦めるべきか。


「ふふ、大切な客人のためだ。水浴びをできるところに案内しようではないか」


 ん、水浴びできる場所が存在する? 本来、洗えるところがないから先ほどのようなことを言っていたんじゃあ……私が頭に疑問を浮かべている様子をこらえきれないと言った様子で笑いを抑えながら見ているエウロスさん。その様子にやっと私は気付く。


 つまり、最初からからかわれていたのだと。



「え、エウロスさんッ!!」


 少し怒りをあらわにしながら声を荒げる。



「はははっ、すまないすまない。あまりにも真剣に悩んでいるのでな、つい」


 全く悪く思っていないようなエウロスさんに憤慨しながらも、水浴び場へと案内されるのだった。



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