第20話:門番ダレルと報告
都市ファーウェイの南門を守る巨漢の大槍兵、ダレルはその日もいつも通り門番としての役目を果たしていた。
夕闇が迫る街道を流れる人々を観察し、怪しい者がいれば声をかけ、問題がないことを確認しては通す。街の平和を守る、ごく平穏でいつもの日常であった。
しかし、日が完全に落ち切ろうとしていたその時、ダレルは街道の奥から小走りで向かってくる一人の少年の姿を捉えた。
「……ん? 坊主か?」
足早に門へと近づいてくるイムの様子は、いつもと明らかに違っていた。普段なら威勢よく不敵な笑みを浮かべて余裕を持って帰ってくるはずの少年が、今日はどこか険しい表情を浮かべ、息を荒らせている。
「おい、坊主! どうしたんだ小走りで来て。なんか急いでるのか?」
ダレルが声をかけると、イムは足を止め、荒い呼吸を整えながら話しかけてきた。
「ハァ……ハァ……ダレルのおっちゃん、ちょっと相談があるんだけど……」
「相談……?」
そう切り出したイムの表情があまりにも暗く、切迫しているのを見て、ダレルの眼光が鋭くなった。ただごとではない雰囲気を察し、槍を握り直して真剣に耳を傾ける。
「……銅級ダンジョンで、男五人に襲われた」
「――っ!? なに!? 本当か、坊主! 野盗か、盗賊か!? 怪我は!?」
ダレルの顔が一瞬で怒りと心配で引きつり、大声でイムの身体を上下に改めた。イムの言葉を聞いた瞬間に血が上った様子だったが、イムは少し困ったような苦笑いを浮かべて首を振った。
「落ち着いてくれよおっちゃん、怪我はねぇよ。……ただ、相手の足、ぶち抜いてきたんだ。もれなく全員な」
「あ、足を……ぶち抜いた……? 全員……?」
予期せぬ返答に、ダレルは思わず口をポカンと開けた。イムの身体に傷一つないのを確認して少し胸を撫で下ろしたものの、内容の凄まじさに頭が追いつかない。
「移動させようにも拘束しようにも、俺一人じゃどうしようもなくてさ……。だからそのままダンジョンの二階層に置いてきちまったんだけど、ダレルのおっちゃん、どうにかできないか?」
苦笑いのまま困ったように肩をすくめるイムに、ダレルは安堵と同時に腹を括ったような力強い表情を浮かべた。
「あぁ、分かった。ちょっと仲間を呼んでくるからここで待ってろ! ……ちなみに、相手はどこかの盗賊か何かだったか?」
「いや……一度探索者ギルドで俺に言いがかりをつけて絡んできた相手だから、おそらく探索者だと思う」
「……探索者で五人組、か」
ダレルの頭の中で、今日南門からダンジョンへ出て行った探索者たちの顔ぶれが瞬時に巡った。
「今日出て行った奴らで、この時間になってもまだ戻ってきてねぇ五人パーティ……あいつらか?」
心当たりがついたダレルは、イムにその場で待機するよう伝え、手際よく兵舎の方へと巨体を翻して走っていった。
それからしばらくして、日が完全に落ち、夜の静寂が街を包み始めた頃。
ダレルは松明と頑丈な縄、そして救護用の鞄を携えた六人の兵士仲間を連れて戻ってきた。
「おうイム、待たせたな! それじゃ、疲れてるところ悪いが現地まで案内してくれ!」
「おう、助かるよ!」
イムを先頭に、ダレルたち兵士六人を加えた計八名の大所帯で、夜の街道をダンジョンへと急いだ。
ダンジョンの二階層へと降り立ち、イムの案内で例の場所に辿り着くと――そこには、当人たちにとっては幸いと言うべきか、イムが立ち去った時とそう変わらない状態で件の男たちが転がっていた。
流れた血の匂いに誘われてゴブリンが集まってくることもなく、運良く無事だったようだが、彼らの精神はすでに限界を迎えていた。暗闇の中で絶えず恐怖に怯え、片足の激痛に身を悶えさせていた五人は、松明の明かりと兵士たちの足音を聞いた瞬間、ボロボロと涙をこぼした。
「た、助けてくれぇ……! 助かった……!」
「ひぃっ! 兵士さん、助けてくれぇ!」
泣きじゃくる男たちを見て、ダレルと兵士たちは冷ややかな視線を向けた。イムに襲いかかった自業自得の報いとはいえ、そのあまりに惨めな姿には呆れるしかなかった。
「手際よく縛り上げろ。ポーションを撒いて最低限歩けるようにしたら、すぐに引っ立てるぞ」
兵士たちは手慣れた動作で五人の手首を厳しく縛り上げ、最低品質のポーションを傷口に振りかけた。骨や肉が治癒するほどではないが、痛みを和らげ、なんとか歩行を可能にする程度の処置だ。自力で歩かされ、連行される男たちは、イムの姿を見ると悲鳴を上げて視線を逸らし、震え上がっていた。
街の南門まで戻ると、哀れな五人の男たちはそのまま兵士たちによって詰所へと連れて行かれた。
唯一現場に残り、イムの横に立ったダレルが、労うようにイムの肩をポンポンと叩いた。
「坊主、今日は大変だったな」
「……まぁ、一時はどうなるかと思ったけどな」
「あいつらは坊主の見立て通り探索者だった。ダンジョン内での他者への襲撃、殺人未遂……重罪だ。後日、ギルドからも正式に話があるだろうよ」
「分かった……ダレルのおっちゃん、今日は急に頼んじゃってありがとな」
深々と頭を下げるイムに対し、ダレルは二カッと豪快に笑ってみせた。
「ハハッ! これも街を守る兵士の仕事の内だ、気にすんな! それよりもうすっかり遅くなっちまったな。家族も心配しているだろうし、今日はもう早く家に帰れ!」
「……おう! そうする!」
イムも胸のつかえが降りたようなすっきりとした笑顔を浮かべ、ダレルに手を振った。
冷たい夜風が通りを吹き抜ける中、少年は温かい温もりと家族の笑顔が待つ孤児院パルテリへと、軽快な足取りで帰路に着くのだった。
おまけというか補足を。
この世界には様々な魔道具が存在していて、その中に嘘を見分ける物もあります。
そのため、イムはもちろん住人たちは無駄に嘘をつかないし、いざ犯罪者が”証拠”なしに”証言”のみで逮捕された場合、確実にその魔道具が使われるので冤罪はかなり起きにくい世界となっています。




