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Delete不可、凍土を温泉へRewrite

 飛竜船が、悲鳴を上げながら白亜の巨塔──『北方の気候制御塔』へと不時着した。

 船から転がり出た俺たちは、そこが「文字通りの地獄(絶対零度)」であることを思い知らされた。

「ク、寒っ……! 結界を張ってても、一瞬で血液が凍りそうになるぞ……!」

 王女であるセレスティアが、魔剣の刃を震わせながら必死に立っている。エレナの極大保温魔法すらも、塔そのものが放つ「世界のバグ(気候システム異常)」の前では、ただのろうそくの火のように頼りなかった。

「アッシュ様……私の魔力が……環境に上書きされております……っ」

 エレナが雪原に膝をつき、吐く息が真っ白な粉雪となって落ちる。


 塔周辺は凄まじい大吹雪だった。空間の魔素濃度がシステムエラーによって【属性:超低温】に完全固定ロックされてしまっているのだ。


「ふははははっ! 無様だな、偽神アッシュよ!」

 突然、凍りつく雪原の中から、十数人の魔法使いたちが姿を現した。いや、「姿を現した」というよりは……。

「おや? こいつら……立ったまま凍りかけてないか?」

 彼らは黒いローブを着た『反神派』と『魔法至上主義の過激派貴族』の残党だったが、全身が薄っすらと蒼く凍りつき、ガチガチと歯を鳴らしながら震えていた。

 先回りして管理鍵を奪おうとしたはいいが、塔の『気象バグ(超絶猛吹雪)』のせいで身動きがとれなくなり、ここで全滅を待つだけの状態だったらしい。


「き、貴様がここに来るだろうと、待ち伏せ、して、いた、ぞ……! ガタガタガタガタ」

「鍵は、我ら真の魔法使いが、い、いただく! ガタガタ」

「いやお前ら、それどころじゃないだろ! 死にかかってるぞ!」

 俺は敵に同情を禁じ得ず叫んだ。


 だが、彼らは狂気じみた笑みを浮かべ、震える手で杖を頭上に掲げた。

「ここで、我らの命と全ての魔力を触媒にして、貴様に『氷柱地獄の極大魔法』を叩き込む!! 偽神と共に、我らは歴史に名を!!」

「この気温でお前らが魔法なんか使ったら、反動で一瞬で凍死するぞ!! やめろ!」


「覚悟ぉぉぉぉっ!!」

 反神派の連中が、自暴自棄の詠唱を開始する。

 終わった。彼らの捨て身の爆発魔法と、この塔の天候バグが相乗効果を生めば、俺たちを含めてこの一帯の山が『永久凍土の死の大地』と化す。


【System:警告。複数の敵対的魔力干渉を検知。ならびに環境の凍結が限界値を超過しました】

【System:強制終了(Delete)は容量オーバーのため不可能です】


「Deleteがダメなら、システム内部の『属性タグ』を書き換える!!」

 俺は視界のUIを猛烈な勢いでスワイプし、塔の天候システムの根幹パラメータ(ソースコード)を開いた。

 【エリア:004 / 属性指定:Frozen / 気温設定:-80度 / 気候:猛吹雪(エラー維持)】


 ここの数値を少しだけいじる。

 俺に今残された権限は、ほんの「数文字」だけ書き換える(Rewrite)こと。

 Frozen(氷結)を、Hot(温かい)に。

 -80を、+40に!


「Target:Climate_Node_Parameter(気候システム変数値)!」

「Action:Rewrite(上書き実行)!」

「Value:『Frozen』→『Hot(温泉属性)』! 気温は『+42度』の適温へ!!」


【System:属性の書き換え(Rewrite)パッチを適用します】

【実行確認。環境マクロの再配置を開始……】


 ピカァァァァァァンッ!!

 その瞬間、猛吹雪の暗雲に阻まれていた太陽が、一瞬にして空を切り裂いて顔を出した。

 直後、足元の凍りついていた永久凍土の雪原が、ボコボコと音を立てて熱湯と化し──。

 周囲数百メートルが一瞬にして、『極上の湯けむりが立ち込める、広大なポカポカの天然露天風呂フィールド』へと反転したのである。


「「「「……へ?」」」」


 決死の覚悟で氷結魔法を放とうとしていた反神派の過激貴族たちが、全員揃って「あったか〜い足湯(ひざ下までのお湯)」の中に立たされ、間抜けな声を上げた。


「なん……だ、この、圧倒的な、心地よいぬくもりは……?」

「魔力が……凍りついていた筋肉が……ほぐれていく……ああぁぁぁぁ……」

 殺意マックスだった反神派のおっさんたちが、一斉に杖を放り出し、温泉の湯船に肩まで浸かって「極楽じゃあ……」と溶けたような声を漏らし始めたのだった。


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