27.恋愛相談
「んで、恋の相談をしにオレのとこに来たわけ?」
「はい、よろしくお願いいたします」
本が積み重ねられて山となっている一室で、ヴィオラとペイアーが向かい合う。
少し離れてトトララがヴィオラを見守っている。
「よし、百戦錬磨のこのオレが聞いちゃいましょう! トトララ君、そこにお茶あるから入れてきて」
トトララは当たり前のようにペイアーにお願いされて驚いたが大人しくしたがって、お茶の準備を始めた。
ペイアーとは骨折を治療してもらってから何度か往診で話していて、あの部屋に連れ込まれたときのことはもうヴィオラの中では終わったことなのだが、まだすこしだけ緊張する。
ペイアーが肘を机に着き、手を組み優し気に微笑んだ。
「さてさて、その様子だと殿下から告白はされたんだろう?」
「へ!? どうしてわかるんですか!?」
「そうじゃなきゃ君がわざわざオレの部屋に相談しになんてこなさそうだし、何よりシオ…殿下の態度があからさまじゃ~ん」
「あ……あぁ……」
ヴィオラは恥ずかし気に俯いて耳まで真っ赤にしている。
ペイアーは心の中で(こりゃ、可愛さでみんな落ちますわ)と思ったが今は口に出さないようにした。
「あの……でも、わたし、どう応えたらいいかわからなくなってしまって」
「んー、とりあえず付き合っちゃえば……といいたいところだけど、そうか、きっと君は自信がないんだね、自分に」
ペイアーがすらすらと自分の心の内に思っていたことを言葉にしていく。
自分ではないのに、不思議な気分だ。
「はい……わたし、誰かを好きになったこともないですし、それにこんな……」
ヴィオラの視線が落ちてお腹に向くと、ペイアーはわかったというように、手でヴィオラの言葉を遮った。
「ヴィオラちゃん、そんなに複雑に深く考えなくてもいいんだよ。そりゃ、相手は王族とか、種族の違いとか、君の今までの経験とかいろいろあるけれど、君は考えすぎちゃうのかも。殿下はヴィオラちゃんのことが好き、ヴィオラちゃんも殿下のことが好きなのなら、それでいいんだよ。むしろそれが一番大事」
「好き……ですか……」
「んじゃ、例えばさー、ヴィオラちゃん、オレにチューしてみてよ」
「嫌です」
「即答だ……かなしー……じゃあ、殿下には?」
ヴィオラは想像したのか顔を真っ赤にして、また顔を伏せた。
わかりやすいうぶな恋にペイアーは目じりを下げる。
「もうそれに答えはでているんだよ。不安なことがあれば直接殿下に話せばいい。君の話を聞かないような男じゃないだろう?」
「……はい」
「はは、じゃあ決まりだね。心配事はいろいろあっても、それでへこたれる君じゃないでしょ?」
「……はい!」
ヴィオラは決心がついたのか、こくりと深く頷いた。
ヴィオラがお礼を言ってさっそく王子に気持ちを伝えようとペイアーの部屋を後にした。
お茶の準備をしていたトトララは準備をしたお茶をペイアーに渡して、慌ててヴィオラを追いかけた。
「ははは、なんだか初心しくていいねぇ……まさか、鼻たれ小僧だったシオンにそういう人ができるなんて、にいちゃんは嬉しいですよ……」
ペイアーはゆったりとお茶をすすった。
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王子を探すが、どうやら王子は明日の準備のために出かけているらしい。
(やだ、わたしったら考えなしに飛び出して……少し冷静になろう。そうだ、あれを進めるなら殿下のいない今の内だわ)
自分の部屋に戻る途中で警備がトトララからロージーに変わった。
デルフィスの襲撃があった日から別の部屋に移ったのだが、以前の部屋よりも広く、豪華になっていることにヴィオラは恐縮するばかりだった。
寝室に入ると引き出しに隠しておいたものを取り出す。
ロージーがヴィオラの背中越しに、にこにこ顔で覗く。
「まぁ、素敵! にしても、たくさん作りましたね」
「まだ殿下がお好きな香りがわからないので、いろいろ試してみようかと」
「うふふ、なるほどですわ。お花の香りごとに袋の刺繍を変えているのですね。とても上手ですわ」
ヴィオラは、花の香りごとにそれぞれの花模様の刺繍を刺した布袋をいくつか作った。刺繍が終わったあとは、花を乾燥させたものを入れて、リボンで口を結べばサシェの完成だ。
ヴィオラは王子の誕生日が近いことを聞いてから、王子への誕生日の送りものを考えていた。
初めは刺繍を入れたハンカチにしようかと考えていたが、ロージーに相談すると庭園の花を分けてもらえることになり、サシェへと変更した。
(こっちは、ラベンダーみたいな花、バラみたいな花、カモミールみたいな花……どれも真っ黒の花だから、せめて刺繍は色を付けてみたけど、やっぱりよかった。魔法で季節関係なく花を咲かせることができるなんて、本当にすごいなぁ、おかげでこんなにたくさん作れた!)
ヴィオラが刺繍枠に張った布に淀みなく針を通して花をかたどっていく。
その手際の良さをロージーが感心する。
「ヴィオラ様は刺繍が得意なのですね。本当に見事ですわ」
「ほ、本当ですか? えへへ、ありがとうございます。刺繍の仕方は、亡くなった母から教わったんです。母の刺繍はまるで魔法の様で、見るのがとても好きでした」
ヴィオラはとても幸せそうに微笑んで、懐かしい思い出を遠く見つめる。
ロージーは亡くなった母の話をするのはヴィオラを悲しくさせてしまうかと思ったが、ヴィオラの表情は穏やかだった。
「ヴィオラ様はお母さまがお好きなのですね」
「はい、とても……わたしにとって母と過ごした日々はとても大切な思い出です。母の遺してくれたお料理のレシピを試すことも、母から聞いた草花の話も全部大切です……あ」
「どうしました?」
「そう、レシピ……家に置いたままでした」
「あら……」
「ほとんど覚えているので、大丈夫です。でも、あの家には、たくさん残してきてしまいました……もう、戻れませんけれど……」
ヴィオラがゆるゆると首を振る。
そういえば一度、屋敷の父に手紙をおくれないかと聞かれたことがあった。
ロージーは、もしかしたら霧が出ている時に魔法のハトを使えば手紙を送られるかもしれないと答えたが、結局ヴィオラは手紙を送るのはやめてしまった。
「ヴィオラ様、やはり手紙をお父さまに送りますか? また霧が出た時に試してみましょうか?」
「えっ!?……あ、すみません、お気遣いありがとうございます……いえ、もう父にはわたしはもう死んだものだと思われている方がいいのです。そうして、忘れてくだされば……それに義理の母や姉に見つかればどうなるか……」
「ヴィオラ様……」
ヴィオラがみせる暗い表情の理由がロージーは今ならわかる。
幸せに暮らしていたはずなのに、それが愛する母の死によって突然崩れた。
そして、継母や義理の姉による虐待をされ、家には居場所がなかっただろう。
(ヴィオラ様がここに初めて来たとき、ここにいたいと望んでくれたのは、自分の居場所を求めていたのかも……あぁ、どうしよう、あたしすごく悪いこと考えてるわ。ヴィオラ様にとって家への未練がなくてよかったって、もし帰りたいと言い出したらどうしようって……ヴィオラ様にとっての選択肢を狭めては駄目よね)
「ヴィオラ様、もし、元の家にお帰りになりたくなったらあたしや殿下に相談してくださいね。ヴィオラ様にはその選択肢もありますから」
「……ロージー様は本当にお優しいですね……ありがとうございます」
ヴィオラはロージーへの感謝の気持ちを込めて、微笑んだ。
ロージーは自分の心の悪い部分を隠すように力なく微笑み返した。




