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怪物に愛されて、少女は幸せな日々をおくる【本編完結】【番外編投稿中】  作者: Nadi
怪物の章

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24.僕が見つけた『愛』

 庭園の騒ぎなどしらず、城の中では穏やかな時間が流れている。


 ヴィオラが骨折をし、それを治すための治癒魔法の反動で熱を出してから、王子とロージーが交代でヴィオラの身体を拭いたり、食事を食べさせたりとかいがいしく世話を焼いていた。


 「昼食を持ってきたぞ」


 王子がワゴンに食事を乗せて持ってきた。意識的に力加減の練習をしているらしく、ワゴンを押してくるのを成功するとどことなく自慢げな顔をしている。


 ヴィオラはペイアーがくれた解熱剤で熱が下がってきて、顔色も随分とよくなった。王子が慎重にコップに水を入れたりして、準備をする姿を感心しながら見つめる。


 (頑張って力加減を学んでいる……昨日も触れてくれてときも優しくて……あ、あれ、わたしまた失礼なこと……)


 今さら羞恥心がわいてきて体温が上がる。

ヴィオラの顔が赤くなっているのを王子が気づき「おい、顔が赤いぞ。熱があがったのか?」すぐに詰め寄ってくるものだから、慌てて首を横に振った。


 「あの、違くて、すみません、わたし、昨日は大胆なこと……」

 「そ、そうだな……だが、おかげでこうやって頑張ろうと思えた。その……君のおかげだ」


 あまりにも素直な王子の言葉にヴィオラはドキマギして、返す言葉を見つけられずにいる。

しばらく二人の間に沈黙が居座った。


 「た、食べられそうか?」

 「はい、ペイアー様の解熱剤のおかげで、だいぶ楽になりましたから」

 「よし……」


 王子がスプーンでおかゆをすくって、震える手で慎重にヴィオラの口元に運ぶ。

大きな手の王子がスプーンを持つと、まるでおもちゃのように小さく見える。

もう熱も下がっているし、自分でできると思うのだが、この王子の頑張りに応えてあげたい気持ちがわく。

ぱくりと食べると王子が得意げで満足そうな顔をする。


 (殿下、嬉しそう……)


 とてもゆっくりだし、手は震えているけれど、何よりも心がじわじわと温かくなる。

王子の瞳をヴィオラがちらりとみると、初めて会った時のような悲観的で怒りに満ちた瞳はすでになく、今は優しさに満ちているのがわかった。

王子が分けてくれた心の温かさがゆっくりとヴィオラの心の糧となる。


 「熱が下がって、元気になったら……その、連れていきたい場所があるのだ」

 「どこですか?」

 「秘密だ。楽しみにしておくといい」

 「ふふっ、わかりました。楽しみにしています」


 食事を何とか終えると顔や腕の汗を王子が優しく拭ってくれた。


 「ずいぶん汗をかいたな……ロージー彼女に着替えを準備してくれ」

 「かしこまりました」


ロージーが緩やかなデザインの寝間着を用意してくれて、お湯も用意してくれた。


 「あ、あの殿下、ロージー様……」

 「あ……と、隣の部屋にいるから、何かあれば呼んでくれ」


 王子とロージーが部屋から出て行き、ヴィオラは部屋に一人になる。


 (皆さまにこんなにしてもらって、どうやってお返しすればいいのかな。あのまま町にいたらきっとこんな気持ちにはならなかった……ずっと、暗く沈んだままだった。せめて、殿下の呪いを解くことができれば…………でも、わたし……)


 本当はずっと言い出せていないことがあった。

王子にずっといろんな『愛』を見つけてもらおうといろいろと試してきたが、ヴィオラはそのうちでずっと避けてきた『愛』があった。

王子と過ごす時間が増えていくうちにその避けてきた『愛』が心の中で大きく膨らんできて、時々外に飛び出してしまいそうなのを押さえつけている。


 服を脱ぎ、身体をお湯で濡らしたタオルで拭く。

お腹の部分に継母のハイドラと義姉のマデルによってつけられた醜い火傷が見える。十年以上の年月をかけてつけられ続けた傷は赤黒くなっていて、他の白い肌とは別の生き物の様に浮き出て見える。

傷を見ていると「お前は醜い! 醜い!!」と吐き捨てられた言葉を思い出す。

自分自身そうなのだ、それが当たり前なのだと思い込むようになってしまった。


  (…………わたしに、そんな資格はない………こんな醜いわたし……)


 心に感じた寒気を拭うために、気持ちの良い温度のお湯にタオルをつけ再び身体をぬぐっていく。


 急に、冷たく感じられる風が背中をなでた。

窓を開いた覚えはないのに風で開いてしまったのかと振り返ったヴィオラは、恐怖で喉がつまり、身体が硬直した。


 「ヴィ~オラ、やっとみつけたぁ」


 開かれた窓からデルフィスが、欲望がにじみ出たいびつな笑みを浮かべて、部屋に入ってきた。

どうしてデルフィスがここにいるのかという疑問と、自分はいったいどこまでこの人に執着され続けるのかという絶望が頭と身体を凍らせてしまう。


 「フフフ、フフ、そんな姿で俺を待っていてくれたのかい? かなりそそるが、それは帰ってからにしよう。俺たちの屋敷に帰ったら、たくさん愛してあげるからね」


 デルフィスが下着姿のヴィオラをなめまわすように見て、ヴィオラの全身がぞわりとしたが、おかげで身体が動いた。

ベッドから降りて隣の部屋に続く扉に走ろうとしたがデルフィスに先回りされた。


 「ヴィオラ、そんなに恥ずかしがらないで、大丈夫、あの豚どもにつけられた傷は俺がゆっくり上書きしてあげる」

 「……っ」


 (逃げられない…助けを呼ばないといけないのに、どうしようっ、声が……でない)


 いままで、襲われそうになったことは何度かあった、デルフィスに裏路地で、屋敷に帰れば継母が呼んだ見知らぬ男に、どちらも助けを呼んでも誰も来てくれなかった。

逃げのびて、父や警備隊に助けを求めても、証拠がない、貴族のデルフィスに歯向かうわけにはいかない、と言って取り合ってもらえなかった。


 (でも……殿下は……殿下なら……)


 「さぁ、行こう」

 「………っ!」


 デルフィスに腕を乱暴に掴まれる。

恐怖が頂点に達して、涙がぼろぼろと流れ始めた。


 「……た、す……」

 「ん? なんだい? あぁ、俺に会えて嬉しいんだね。これからはずっと一緒だ。外に出る必要もない。君のための屋敷を用意してあるんだ」

 「……殿下っ! たすけてっ!!」


 ヴィオラは心の底から叫んだ。

そして、すぐに王子が部屋の扉が開いて現れた。

食事の時に見せていた優しい表情は跡形もなく消え去り、すぐに憤怒に塗り替えられた。


 「貴様がここの化け物の王か……っ!?」


 王子は一言も発することなく、デルフィスを片腕で胴を掴み軽々持ち上げる。

デルフィスが握っていた剣で王子の腕を切ろうとするが、獣の腕のはずなのに、剣がはじかれて刃がぱきりと割れてしまった。


 「なにっ!? うぐっ」


 王子がデルフィスを壁に投げつけて、デルフィスは背中を激しく打って苦しみの声が漏れた。


 王子がゆっくりとデルフィスに近寄る。

その赤い瞳には冷たい怒りが宿っている。

窓から見える空が一瞬にして厚く黒い雲に覆われ、激しい雷鳴と大雨が吹きすさぶ嵐となった。


 デルフィスは背中が痛むのか、苦痛の表情を浮かべながらも王子を睨む。


 「ハハッ、殺すか? いいぞ、殺すならヴィオラの目の前で頼む。そうすれば俺は彼女の中で永遠に生きるのだから!」

 「彼女の名前を気やすくを呼ぶな……彼女に何をした? 何故彼女は怯えて泣いている?」

 「彼女に何かしているのは貴様らだろう? こんな化け物の住まう屋敷に閉じ込めて、彼女を返せ……あぁ、わかったぞ、貴様、ヴィオラに恋をしているのだろう? 彼女のまわりに飛ぶ蠅どもと同じ目をしている。化け物のくせに、なんて汚らわしい!」


 デルフィスがにやりと笑い王子に指摘すると、王子は一瞬固まったが、すぐにまた冷たくデルフィスを見下ろした。


 「ロージー、こいつを牢へ」

 「かしこまりました」


 王子に続いて部屋に入ってきたロージーが茨のツタでデルフィスを拘束した。

デルフィスは立派な体格だというのにロージーは暴れるデルフィスをものともせず、茨のツタで引きずる。


 「ヴィオラ! 化け物どもに脅されているのだろう!? 俺と逃げよう! 君の穢された身体だって俺なら愛せる、いや、俺しか愛せないんだよ!?」

 「おしゃべりですわね。後であなたのおしゃべりにあたしが付き合ってあげる。聞きたいことはたくさんありましてよ」


 ロージーがデルフィスの口にも茨のツタをまわし、口を動かせば茨のとげが食い込むようにした。

それでも、デルフィスは「ヴぃほらー! ヴぃほらー!」と何度もヴィオラの名を叫び、口に茨が食い込んで血がにじみ出ても止まらず、ロージーもヴィオラもぞっとした。


 やっとデルフィスがいなくなって部屋に静けさが戻ってきた。

天気もまだ雷が雲の中で蠢いてごろごろとなっているが、雨が少しだけ和らいだ。


 ヴィオラはその場でへたれこんでしまって、動けないでいた。

王子がヴィオラに近づいて、ベッドの毛布をそっとヴィオラにかけてくれた。


 「ありがとうございます……助けてくださって本当にありが……」


 ヴィオラが涙を流し、頭を下げてお礼をいうと同時に王子が優しくだが逃げ出せないくらいの強さでヴィオラを抱き締めた。

王子の温かい身体と心臓の激しい鼓動を感じる。


 「何もされていないか?」

 「大丈夫です……すぐに殿下とロージー様が来てくださったので」

 「『大丈夫』か……怖い思いをさせてしまったな。泣いていたし、腕も赤くなっている」


 抱きしめたまま、そのまま抱き上げられて、ベッドに座らされた。

被っている毛布の隙間からヴィオラのお腹につけられた火傷の跡が見える。

王子の視線が火傷の痕に向かうと、ヴィオラは申し訳なさそうに毛布で慌てて隠す。


 「申し訳ございません、こんな醜いものをお見せしてしまって……」

 「その傷は誰かにつけられたのか?」

 「あ………………義理の母と姉に、でもわたしが悪いんです。ちゃんと姉のお世話ができなかったり、うまくお料理ができなかったり、へらへら笑ったり……」


 ヴィオラが困った笑顔になる。

まるで自分がどうしようもない人間なのだと言っているように。


 ヴィオラが虐待された理由を並べられるが、どれもこんなにひどい傷を与える理由になっていない。

ヴィオラの言葉を聞くたびに王子の表情が深い悲しみに沈んでいく。


 王子の表情が沈んでいるのを見て、ヴィオラの困った笑顔が消えていく。


 「すみません、こんなこと……こんなもの殿下にお見せするべきでも、お話するべきでもありませんでした。殿下にこんなに嫌な思いをさせてしまうなんて……」

 「あぁ、君をこんな目にあわせた奴らへの憎悪でどうにかなってしまいそうだ。それから、全然気づいていなかった自分にも!」

 「え……?」


 王子がまるで心臓が刺されたように苦しむ表情をしている原因が思わぬところに向いていて、ヴィオラが驚きで目を大きく見開く。


 「そいつらを八つ裂きにしてやる! あの男もそうか? あんな話が理解できないような奴に今まで何をされた? 報いを受けさせてやる…!」

 「え? ど、どうして?」

 「どうして? そりゃむかつくし、腹が立つからだ! 君が何をしたっていうんだ!? 君が今言った理由なんて、そんな傷をあたえられるに値しない! ただ君に対して悪意をぶつけているだけだ! そんなことに……そんなこと、許されていいわけがないじゃないか……あぁ、今さらになって、君が僕の周りの大人に怒った理由がわかったよ!」

 「殿下……」


 王子は怒りが抑えきれないようで、どんどんと声を荒げていく。

久しぶりに王子の怒声を聞いたが、怖いという気持ちよりも、何か別の感情がヴィオラに芽生え始めていた。


 王子ががっくりと肩を落とし、頭を抱える。

ヴィオラは感情の整理が追いつかずにどう声をかけてよいかわからず、沈黙が続く。


 王子が顔を上げてゆっくりと口を開いた。


 「僕は……呪いをかけられて……いや、かけられる前から周りに壁を作るようにしていた。その方が、僕自身が傷つかなくて済むし、僕が誰かを傷つけずに済むから……でも、ずっと心に埋められない穴が開いていて、その心の穴を僕自身が見ないようにしていた」


 王子がヴィオラを見つめると、彼女のスミレ色の瞳と王子の赤い瞳が交わる。


 「けれど、君が現れて……僕の壁などあっという間に壊してしまった。本当にあっけなく。でも、今ならわかる。君だったから、僕に歩み寄ってくれて、僕のことを真剣に考えてくれる、君だったからだ……君だからこそ、好きになった」

 「え、すき、って……」

 「言っておくが、僕の言う好きは君と僕で今まで探してきた好き……愛とは違うぞ。僕が新しく見つけた愛だ。君を大事にしたいという、僕だけの気持ちだ」

 「あ、え……」


 王子のまっすぐとした気持ちにヴィオラの体温が一気に高くなる。

顔どころか、肩まで真っ赤になってしまった。

しかし、王子と目をあわせていられずに、視線が下に向かうと自分の醜い部分が見える。

それがヴィオラの熱を冷ましてしまった。その表情の変化を王子は見逃していなかった。


 「本当は、自分でもこんな怪物の姿でこんなことを言うだなんて、なんて滑稽なんだろうと思う」

 「そんなことっ」

 「それでも、もう我慢がきかなかったんだ。あの男が君を連れて行こうとしたとき、自分でも驚くほど、怒りと嫉妬がわいてしまった。君を失いたくない、と強く願った。は、はは……それで自覚するなんてな」

 「……」


 王子の淀んでいるのに、酷く優しい声がヴィオラの心を揺らす。

ずっと避けてきた気持ちがまたヴィオラの心からあふれ出しそうになっているのに、今すぐに王子を抱き締めて嬉しい、と返事がしたいのに、ヴィオラの今までの経験が、思い出が、鎖のように巻き付いて邪魔をする。


 (応えていいの? こんなわたしが……こんなに優しい人に……わたしが……)


 それを察しているのか王子がヴィオラの頬をなでて、顔を上げさせた。


 「困らせてしまっているな。まだ答えをださなくてもいい。僕はどれだけでも待つし、君の返事がどうであれ、僕の君への気持ちは変わらない」

 「殿下……」

 「さぁ、身体が冷えてしまわないように、服を着て」

 「あ、はい……」

 「あとは、部屋を移動しよう。こんなことが起きないように、もっと安全な部屋に移ろう。2階だというのに窓から侵入してくるとは……人間は魔法を使えないと思っていたのに、どうやって……? 後でロージーと新しい部屋について検討するようにするよ。警備についてもね。君が安心して眠れるようする」

 「あ、ありがとうございます……あの、デルフィス……先ほど、侵入してきた男性はこれからどうなるのですか?」


 ヴィオラは不安げに王子を見上げる。

彼女から他の男の名前が出るだけで王子の心にとげが生まれてしまい、自分の心の変化に驚くばかりだ。


 「あいつにはいろいろと聞きたいことがあるからな、それを聞いてから決める」

 「殿下に刃を向けたことが重罪なのは重々承知しておりますが、せめて命だけは……」

 「それはあいつに対する同情なのか?」

 「彼は、酷い人ですが……でも、このお城の人に……命を奪うような行為はしてほしくなくて……血が流れるようなことは……してほしくなくて」

 「……わかった。だが、あいつの罪は僕に刃を向けたことよりも、君を傷つけたことに対してだ。あんな刃など、力を削がれたとはいえ僕にとっては虫に刺されるよりも軽い」

 「そう、なのですか? でも、あの、わたしなんて……」

 「君が思っているよりも僕の中で君という存在が大きいんだ。わかった?」

 「えぇ?」

 「返事は?」

 「え、あ……は、はい」

 「うむ!」


 王子が満足げに笑顔になると、ヴィオラの熱はまた高くなった。

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