114.言えるわけがない
ファントムとの戦いを終えたシオン一行は、泊まる予定の宿にインプンドゥルのトルエノを連れて戻っていた。
ペイアーはロージーを休ませると言ってロージーが泊まる予定の部屋に連れて行き、女装をといたシオン、フランメとルコウが羽をもらうためにお願いをしようとトルエノは囲む。
しかし、ファントムとの戦いを目の前で見せられたからか、トルエノはシオンたちに怯えて身体を縮こまらせている。
「トルエノ殿、変死体の事件の犯人だと疑いをかけてすまなかった」
「ひっ、い、いえいえいえ! め、滅相もございません! えーっと羽ですね、いくらでもどうぞ」
「っ! 本当に助かる。ありがとう」
トルエノが翼から羽をぷつぷつととってシオンに渡そうとしたが、それをさっとフランメが横からさらう。
シオンが「何をする?」と睨むが、フランメは無表情でくいと眼鏡を上げた。
「自分だけでも次の材料を採りに行こう、などとお考えかもしれませんが、それは許しません……休めるときにお休みになって下さい」
「…………………べ、別にそんなことなど考えておらぬ」
「もしワタシたちと距離をとって入手した材料を紙に近づけても、あなた様だけではなく、ワタシたちも飛ばされる可能性が高いです。今は殿下もロージーさんも休息をとるべきです。ワタシも疲れました。皆、あれから一睡もしていないのですから」
「……それも、そうだな」
シオンはやっと折れてくれたようで、フランメを睨むのをやめた。
「トルエノ殿、協力感謝する。帰っていただいて結構だ」
「へ? 本当に羽だけ? じゃ、じゃあ、帰ります……(はぁ、今日は怖い女装男に捕まるし、綺麗な女の子はムキムキだし、変な怪物に襲われるし……さんざんすぎる。せめて、血が飲めたらなぁ……)」
力が抜けてしょんぼりと肩を落とすトルエノが扉からでようとしたとき、ばったりロージーと出くわした。ロージーの後ろに立つペイアーは実に不機嫌そうで、ロージーよりもそっちの方が怖い。
「ひぇっ! ロージーちゃん……」
「あ、トルエノさんよかった、まだいたのですね」
「は、羽はもう渡したから! オレ、他に何もないよ!」
「そんな怯えないで……っていうのも、無理ありますわよね。あの、騙してごめんなさい。それと疑っしまって、ごめんなさい」
「へ? あ…………そ、それはいいけど……」
「あなた、血を飲みますのよね? よければお詫びにあたしの血を差し上げます」
「えぇ!? いいの!?」
「おいっロージー! 体力はまだ戻ってないんだから、血をあげるとか簡単に言うなよ!」
「これはあたしなりのケジメだから、ペイアーは関係ない」
ロージーが腕まくりをして肌をあらわにするとトルエノは目を輝かせて口を開けていたが、ペイアーがロージーを押しのけてトルエノの口に自分の腕を押し込んだ。鋭い犬歯で腕が傷ついて、血がトルエノに流れていく。
「ちょっと! ペイアーなにするのよ!?」
「うるさいっ、オレので我慢しとけ!」
「ほ、ほいひくはい……(おいしくない)」
ぐいぐいと腕が押し込まれたせいで口を閉じられず、無理やり飲み込まされ、「あの、ごちそうさまでした……」と苦い顔をしてトルエノは帰った。
「ねぇ、なんで勝手なことするわけ?」
「勝手? 勝手だと? 勝手なのはお前の方だろ! ただでさえ治療したばかりなんだ。おとなしく医者の言うこと聞くべきだろう!」
「もう大丈夫って言っているでしょう! それに、トルエノさんに謝る機会は今しかないんだから」
「トルエノ、トルエノって……そんなあいつが大事かよ!?」
「なんでそうなるの!?」
「そこまで、ペイアーもロージーも落ち着け」
シオンが仲裁に入り二人の言い合いは止まったが、二人ともお互いにいろいろと言い足りなさそうだった。
「今日は二人とももう休め。僕も休む」
「お見苦しいところをお見せしました……お休みになるのでしたら準備いたします」
「いい、ロージーは休むことが今の仕事だ。自分でできる」
「ほ、本当ですか?」
「そ、それくらい僕だってできる…………」
心配そうにシオンを見つめるロージーをルコウが朗らかに「ワシがおるから大丈夫じゃよ」と言って安心させた。
ロージーはルコウが言うならとシオンに言われた通りに休むために自分の部屋に戻ることにしたが、背後に気配がする。それが誰なのかはわかっていて無視し続けたが、結局その気配はロージーの泊まる部屋の前まで来ても離れない。
振り向くと、ぶすっと不機嫌そうなペイアーがいる。
「なに? あんたの言う通りに大人しく寝るつもりなのだけど」
「……話がしたい。ちゃんと」
「あたしはない」
ロージーは素っ気なく冷たく言い放って、さっと自分の部屋に入ってしまった。
取り残されたペイアーはロージーの態度にムカッときて触覚がピンと伸びる。
「あぁそうかよ! ほんっとかわいく…………………………」
ペイアーが言葉を言い放とうとしたところで、言葉が詰まる。
結局最後まで言わずに自分も部屋に戻ろうかとしたところでロージーの部屋の扉が少しだけ開いた。
ペイアーは驚いて、少し思案したがロージーの部屋に入ることにした。




