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第167話 生き残りたちの奮闘記

DAY3が終わって、数日後。


合格者だけが呼ばれた、顔合わせの日。


形式ばった挨拶と、簡単な説明のあと――

そこでマリ姐から、あらためて告げられた。


「このメンバーでDay Extra、つまり実地訓練に入ります」


選考は、終わった。

……そう思っていた全員の認識が、

その一言で、静かにひっくり返った。


解散の流れになっても、

誰もすぐには帰らなかった。


誰かがぽつりと、

「……このまま帰る?」と聞いて、

別の誰かが、

「いや、ちょっと話そう」と返す。


気づけば、

全員が駅前のファミレスに集まっていた。


夜の遅い時間帯。

ファミリー層もまばらで、

ドリンクバーの機械音だけが、

妙に大きく響いている。


楽器ケースは足元に寄せられ、

テーブルの上には、

頼みすぎたドリンクと、

ほとんど手をつけられていない料理。


誰も、笑っていない。


全員が、

同じ感覚を抱えていた。


——このままじゃ、やばい。


沈黙を破ったのは、DAY2で

“指示が来る前に、選択肢を用意しておくんです”

と、あっさり“正解”を言っていた人物だった。


「ねえ……たぶんだけど」


静かな声。


「今の私たち、

 全員“選択肢”が足りない状態だと思う」


視線が集まる。


「光くんは、

 ジャンルとか文脈とか、

 ほんとに関係なく横断してくる」


一拍。


「それを、

 ずっと“音楽”として成立させてたのが、

 遥さんでしょ。


 たぶん遥さんの基準も光くんとそう変わらないと思う。」


誰も否定しなかった。


「今のままの私たちじゃ、

 間違いなく、

 どこかで置いていかれる」


少し間を置いて、続ける。


「だからさ。

 それぞれ、

 自分の“メインの土俵”を

 持ち寄らない?」


苦笑し、冷や汗をかきながら続ける。


「教え合って、

 混ざり合って、

 最低でも“触れる”くらいには

 なっとかないと、

 話にならないと思う」


一瞬の沈黙。


次に、誰かが口を開く。


「……私は、

 ジャズとボサノバ。

 あとはスケールに沿った即興演奏がメイン」


「私はジャズとポップスかな」


「ハードロックが主戦場」


「民族音楽。

 拍子変わるやつが多い」


「シンフォニックメタルがメインです」


目立っていたドラマーが続く。


「あ、私もメタル」


一瞬、空気が止まる。


「……え?」


「ちょっと待って、メタラーが2人もいたのね」


誰かが、乾いた笑いを漏らす。


その2人が話す。


「でも、光くんの曲、

 めちゃめちゃメタル成分あるよね?

 メタルも幾つかあるし。」


「ある。

 しかも、

 なんでこの人ここまで分かってるの?

 ってレベル」


「正直……自信なくすわ」


別の誰かが、ぽつりと言った。


「じゃあさ。

 ある日突然、

 “これ、メタルアレンジね”

 とか言い出しても……」


全員が、顔を見合わせる。


「「「……全然、おかしくない」」」


その場に、静かな覚悟が落ちた。



それからの日々は、早かった。


それぞれの得意分野を持ち寄り、

フレーズを分解し、

ノリを言語化し、

「これはこういう身体の使い方」

「ここは理屈じゃなく感覚」

そんなやり取りが、当たり前のように交わされる。


ステージで試す。

失敗する。

持ち帰る。

また、教え合う。


時には、遥を呼び出した。


「さっきの、何考えてました?」


遥は少し驚きながらも、

その場で譜面を書き、

判断の基準を説明した。


「……ああ、そこは

 “どれが正解か”じゃなくて、

 “戻れるかどうか”を見てました」


全員が、無言でメモを取る。


そんなことを繰り返すうちに、

光バンドは、少しずつ変わっていった。


“必死についていく集団”から、

“無茶振りを待てる集団”へ。



ある日の、地方イベント。


簡易ステージ。

音響は最低限。


光が、軽い調子で言った。


「これさ。

 メタルアレンジ、

 いってみようか」


あの遥でさえ、一瞬だけ手が止まった。


——え?


だが。


光バンドの中から、

誰も動揺しなかった。


「来たね」


「あいよー」


「ツインギターだよね、私上行くわ」


「おっけー、私が下ね」


「拍、半分に割ろう」


音が、自然に組み替えられていく。


光は、一瞬だけ目を丸くしてから、

至極楽しそうに笑った。


「……いいね、それ!!!!」


そのまま、鍵盤を叩く。


ステージは、荒れない。

むしろ、未だかつてなく生きていた。



誰かが後で言った。


「あのとき、

 初めて思ったんだよね」


「“ああ、私たち、

 ちゃんと光くんのバンドになってきてるな”

 って」


光の無茶振りに、

笑って応えられるようになっていくこと。


これこそが、

DayExtraの意味だった。


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