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-274点の理不尽な世界  作者: 朝倉神社
第二章 冒険者として
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「キールバーンの討伐を祝って、乾杯!!」

「「「カンパーイ!!」」」


 ジョッキがぶつかり合って、並々に注がれたエールが跳ねた。もう何回目になるか分からない乾杯の音頭。テーブルの上には肉に魚がいろんな調理方法で、いろいろな味付けで工夫された数多の料理が並べられ卓上を彩っている。それも、半分以上はすでに食べ散らかされている。


 キールバーンの討伐を終えたオルトヴィーナとキトリーたちは街に戻るなり大宴会を開いた。オルトヴィーナはキールバーン討伐で手に入るお金があるため、景気良く酒場にいた全員に酒と食べ物を振舞っている。そこには、キールバーン討伐に出遅れた冒険者一行もいた。


 大物の討伐とあって、場の盛り上がりも最高潮である。

 皆が酒をかっ喰らい、食べ物を片っ端から平らげ、過去の冒険譚に花を咲かせて、楽団の奏でる音楽に合わせて、歌い踊り狂う。


 キトリーは盛り上がる酒場の面々と異なり、端の方にひとつ静かな空間が形成されている所に視線を向けた。ルーとその弟アーバンである。


 待ち望んだ弟の再会は唐突だった。ククルのシュロ情報網によりもたらされていた情報によれば、キトリーたちのルート上をアーバンらしき人物が出入りしているらしかったけれども、王都での空振りの日々を思えば、希望を抱きつつもそんなに簡単にいくはずもないという相反する思いがあった。


「二人が気になるのかい?」


 口をもごもごさせたまま、オルトヴィーナが正面のテーブルに腰を下ろし聞いてくる。


「そりゃあね」

「だったら、話しかければ良いだろ」

「そういうわけにもいかないでしょ」

「そうか?」

「久しぶりの再会なんだからさ」

「そういうもんか」

「そういうものよ。ヴィーナには家族っていないの?」

「…いる。会いたくないのが二人も」

「ああ、そう」


 私と同じような関係なのかも、と思う。冒険者という仕事は割りとポピュラーな職業ではあるけども、危険に身を置く仕事であるのに、兵士などと違い国という守護はない。そのため、死ねばそれで終わりなのだ。普通の家族なら、冒険者になりたいという子や兄弟を必死に止めるのが普通だ。


 キールバーンの戦いのあと、弟と念願の再会を果たしたルーは、唐突過ぎる再会に戸惑いを見せていたものの街への帰り道で徐々に打ち解け、近況を話し合っていたようだ。キトリーも二人きりにしたほうが良いだろうと計らっていたので、二人でどんな話をしていたのかは分からない。


「で、これからどうするんだい?」

「どうもしないよ。イーナを連れてカバナ山脈を越える。だから、護衛は予定通りお願いするわ」

「そうじゃなくて、あっちの嬢ちゃんのほうさ」

「ルー?」

「キトリーは彼女が弟を探す旅に同行していたんだろ。目的は達したわけだ」

「…まあね」


 オルトヴィーナに言われて初めて気が付いた。言われてみれば、ルーの旅はこれで終わりになる。余りにも突然だったため、キトリー自身も考えが至らなかったのだ。


「私と組まないか?今回の稼ぎは途轍もなく大きい。つつましく生きれば、十年以上は安泰だろう。だが、私は冒険者だ。そんな生活を享受するはずもない」

「白地図に挑むの?」


 キトリーの言葉に答えるように、オルトヴィーナの口角がにやりとゆがむ。


「ああ。久しぶりにマライシンの森の深部に挑みたいと思ってる。再挑戦はもっと先になるかと思っていたが、今回のキールバーン戦は僥倖だった。これで準備が一気に進む。2年前はクツガの滝が限界だったが、白地図のエリアまで後一歩だったんだ」


 ドンとエールの入ったジョッキをテーブルに叩きつける。白地図に己の旗を立てる。冒険者の最終目標がそれだとしても、現実的に目指せる冒険者はほんの一握りだ。何しろ、白地図における脅威は計り知れない。詳細の判明しているエリアですら、マライシンの森のような場所の深部に至っては、並みの冒険者を拒んでしまう。相応の腕がなければ、行方不明者リストに名前を載せて終いである。


「相性も悪くないと思うぜ。キトリーの自己評価が低いことは先刻承知だけどな、白地図に挑めば否が応でも腕は上がるさ。それにな、自分の背中を預けようって貴重な相棒に無茶をさせる気はないさ」

「あのね。悪いけど、前にも言ったけど、私は別に冒険者をやりたいわけじゃないんだって」


 ジョッキの中のエールを喉に流し込み、オルトヴィーナの誘いを一蹴する。ルーとの旅の終わりを迎えたときの、身の振り方を考えてなかったわけではない。ルーがとりあえず冒険者をやってみるのも一つの選択肢としてありだと言っていたが、あくまでもお金を稼ぐ手段としての冒険者だ。『白地図の冒険者』になるつもりはない。ルーが弟と暮らすというのなら、それをサポートしていくだろうし、旅を始めたころに彼女が口にした「卑人の差別を無くしたい」という夢を叶えるために行動するのなら、それも良いだろうと思っている。


 どんな未来があるにしても、キトリーはルーと共にいることを選ぶつもりだ。


「ったく。ノリが悪いねぇ。まあ、考えてみてよ。どうせ、もうしばらく一緒に行動するんだ」


 オルトヴィーナはそういうと、エイプルの串肉を握り締めて別のテーブルへと突入した。そこから、新たな乾杯の音頭が聞こえてくる。キトリーはどうしたものかと、ルーとアーバンの姉弟の方に視線を移した。ルーと目が合った。


「キトリー」


 喧騒で音は聞こえなかったが、ルーの口が自分の名を呼んだことが分かった。


「どうした?」


 キトリーはテーブルから立ち上がり、二人の元へと歩み寄る。時々、深刻そうな顔をしていた二人だけども、いまは柔和な笑みを貼り付けている。やさしい顔立ちのルーとは違って、成人前とはいえアーバンは鋭い目つきで、男らしく凛々しい印象さえあった。それでも、やっぱりパーツの一つ一つを見比べると、ああ姉弟なんだなと良く似ていた。


「和解したのかな?」

「べつに喧嘩してた訳じゃないですよぉ。ただ、色々とね」

「色々ねぇ」

「うん。それでね、えーと。いまさらだけど、紹介しますね。私の弟のアーバンです」


 アーバンは照れくさそうに頭を下げる。はにかんでいる顔を見ていると、確かに成人前の少年らしい幼い顔をしている。キトリーは自己紹介をして、アーバンと握手を交わした。手は大きくゴツゴツとしている。剣を振り続けていたのだろう。冒険者をやっていたというのも、それだけで大いに頷けた。


「姉がお世話になりました」

「ううん。こちらこそ。ルーのお陰でいろいろ経験できたから、お互い様だよ」

「キトリーはね。本当にすごいんだよ。知識も豊富だし、槍の腕もすごいんだから」


 ルーが自分のことのように胸をそらせて自慢する。キトリーとしては苦笑せざるを得ないけど。


「で、これからどうする?」

「うん。それで、キトリーを呼んだんです。アーブは、その、予想していたことではあるんですけど、人様の身分証をつかって冒険者をしていたんです。成人前だし、身分を考えれば、それしかなかったのは分かってるんです。それに、無理矢理奪ったものじゃなかったことはアーブが亡くなった母に誓うというので、私は信じようと思います。でも、許されることじゃないですよね。アーブは、あの人たちと冒険者を続けたいって言ってるけど、それを許すわけにはいかないので、私の方で引き取ろうと思うんです」

「うん。それで良いと思う」

「私達は運よく、平民に戻れましたけど、アーブはまだです。だから、まずはそれをどうにかしたいと思うんです。協力してくれませんか?」

「もちろん。何か考えはあるの?」

「正直わかりません。でも、少なくとも一人で生きていくのは難しいですけど、私達がいれば街で部屋を借りることも可能ですから、仕事さえ見つかれば何とでもなると思うんです」

「仕事について、数年問題を起こさなかったらだったっけ」

「はい。簡単にはいかないと思いますけど、当面はそれでいいかと」

「当面は?」

「できれば、差別からも守ってあげたいんです。たとえ仕事に就けたとしても、卑人がどういう扱いを受けるか、私も少しは理解しているつもりです。だから、私達で工房か何かを経営できればいいなって思ってるんです」

「工房?」

「はい。そこで、キトリーに協力してほしいんです」

「え?」


 さっきから単語で返事ばかりして間抜けだなと思いながらも、ルーの思考についていけてなかった。キトリーには工房を経営するようなノウハウはないのだから。


「いつもいつもキトリーに頼って申し訳ないと思うんですけど、知識を貸してくれませんか?キトリーの持つおばあちゃんの知恵袋に」

「ああ」


 またしても、間の抜けた返事を返したところで、ようやく彼女の言いたいことを理解した。キトリーの中にある別の世界の知識でもって、商売を考えたいということだろう。キトリーのネイルアートの知識は貴族の世界にも通用したという実績もある。そのときは、大変な目にあったけどもキトリーの記憶の中にあるものは、利益を生み出す可能性を秘めている。今すぐに、運用できる何かは思いつかないけれども、時間をかければ一つや二つ思いつくかもしれない。


「だめですか」


 ルーが上目使いにキトリーをしたから覗き込む。うるうるとした可愛い青い瞳に見つめられたら、同姓とはいえあまりの可愛さに魅了されてしまう。


「ったく。その目は禁止って言ったでしょ」


 ルーは分かってやっているのだろう。キトリーは小さく笑みを浮かべると、


「分かったわよ」


 と鷹揚に頷いて見せた。ルーの顔がぱあっと明るくなる。キトリーはしょうがないなぁと彼女の頭をぽんぽんと撫でる。


「アーブの前で子ども扱いしないでくださいよぉ」 

「じゃあ、やめようか」

「だめです。もう、キトリーは本当に意地悪です」


 抗議の声を上げるも、その顔はうれしそうに笑っている。横で見ているアーバンが呆れたようにため息をついていた。


「なんか、不安になってきたんだけど…」

「ちょっと!」

「アーブはそれでいいの?」

「…すでに、後悔しはじめてますけど、まあ、しょうがない…かなって」

「ちょっと、どういう意味よ」


 まだ、割り切れてないのだろう、ぼそぼそと答えるアーブに、ルーが口を尖らせる。なんだかんだで仲のいい姉弟のようで安心する。


「あの、タル兄のところに行ってもいい?いろいろ説明したいから」

「うん。言っておいで。後でおねえちゃんも挨拶に行くから」

「いいよ。子供じゃないんだから」

「子供でしょうが」

「ふふふっ」


 二人にやり取りに思わず笑みが洩れる。アーバンは二人に軽く頭を下げると、彼が一緒に冒険者をしていた仲間の元に向かっていった。笑顔で迎えられている様子を見ると、彼の仲間内での立ち位置が良く分かる。きっと、一番年下ということもあり可愛がられていたのだろう。


「キトリー、これからもお願いしますね。私だけじゃなくて、弟もいるからいままで以上に大変だと思いますけど」

「問題ないよ。先のことは分からないけど、いままでも二人だったんだし」

「僕もいるのだ」


 人型で食べ物を両手に抱えたククルが間に入ってくる。


「ごめん、ごめん。忘れてたわけじゃないの。そうだね。ククルもいるし、きっと大丈夫だよ」

「ククルさんも改めて宜しくお願いします」

「任せるのだ。それより、この魚はものすごく美味しいのだ。二人も食べるのだ」

 

 ククルから川魚の香草揚げを受け取り一口。かりっとした食感に、鼻に抜けるすぅーっと爽やかな酸味が抜ける。ホクホクで淡白な味わいに、芳醇なソースが良く合う。

 これからもきっとこの空気は変わらない。

 ルーがいて、ククルがいて、ルーの弟という仲間が増えて、美味しいものを食べて笑顔こぼれる毎日が続くのだ。時々いろんな事件が起きて、大変な目に合うかもしれないけども彼女達と一緒ならずっとうまくやっていける。


 キトリーは森で一人で生きていたときのことをふっと思った。長い長い時間を一人で生きてきたはずなのに、もうほとんど思い出すことが出来なかった。何も起こらない単調な日々よりも、ルーと出会ってからの毎日のほうが波乱万丈で楽しかった。これから笑顔の絶えない生活が始まるのかと思うと楽しみで仕方がなかった。

 

-こんな日が来るとは思わなかったけど、人助けの呪いをくれた神に、ルーとの出会いを感謝しよう。


「ルー、ククル。これからも宜しくってことで乾杯しよう」

「はい」

「もちろんなのだ」


 それぞれの手に持ったグラスを大きく打ち鳴らす。


「カンパーイ!!」

ご愛読ありがとうございました。

拙作で読みにくい部分も多々あったと思いますが、

最期までお付き合いくださり、ありがとうございました。


キトリー達の冒険はまだ続きますが、本作は一応ここで区切りとします。

よければ、最後に感想とか頂けたら今後の参考と創作意欲に繋がると思いますので宜しくお願いします。


また、別の作品で出会える日を楽しみにしています。


新作公開しています。

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