4-23
「どうなるかねぇ?」
「なにが?」
「いや、あいつらの処遇。どうなるか気になってねぇ」
「あら、情でも沸いたのかしら?」
「よよよよくて極刑、もしくは監獄島行きでしょうね。さささささもなくば極地へ送られれれれて懲役か」
「ねえ、ユニ、まラ臭う?」
“うーん ……まだ ちょっと”
「うにゃぁ……」
「あんた達は何やってんのよ」
“クロねえが なんか 汚いもの浴びたって においが とれないの”
「そういやなんか臭うかと思ったら」
「クロエ師匠だったとは……」
「うー……」
半壊しかけた事務所のリビングで、とりあえずの応急処置を済ませたのは結局深夜になるかならないかというところ。
『悪魔』を名乗っていた彼らはまとめて憲兵に突き出した。
いや、その前に、彼らが住んでいた地域から迎えが来た。
どうにもディアデビルのメンバーは東のマフィア達から抜け出てきた一段だったようで、スチールイーターの一件から所在が割れ、今回の件で完全に連れ戻されることになったらしい。
彼らの掟に従って処罰を下したのち、しかるべき機関に突き出すとはいっていたが……
「ジャックさん、女の子に臭うとか言うものじゃないわよ?」
「え!? えええええエリーさんはいいのですかっ!?」
「女の子同士だし、ねえ?」
「えリー、ほっといて」
「え? ちょっとクロエ!?」
「まあ事務所の修理費とかみんなの治療費だとか慰謝料だとかもろもろ、払ってくれるっていうしそれでよかったとするしかねぇ?」
幸いなことに誰も死ななかったのだし。
“でも みんなを倒して 名を挙げるだなんて まるで 子供の理由”
「まあ、それが彼らといういいいい一団だったということで」
彼らディアデビルから事情を聞いた限りでは、ここいらで名の知れているハルフォード事務所を打ち負かせば、名も売れて以後やりやすくなると考えていたらしい。
どう考えてもマフィア達のいる港地区での考えであり、しかも事務所の名声というのは過去のものだというのに。
「それはそうと、ユニ。あなたのその『声』って結局なんなのよ?」
“これ?”
話題を変えようと、エリーがわかりやすいものにずらした。
実際、問題ないように話ができているせいで余計にその違和感が際立っていたところがあるのだが
“このこに 音をだすところがあるみたい で そこを 借りて 出してるの”
「……ががが楽器を弾いているみたいなことですか」
“たぶん?”
「わっかんないわね。機塊って」
“ほかにも できること あるみたい だけど 教えてくれない”
昼間の、襲撃があった時のような一体感を再び感じられることもなく、音を出す機関を貸してくれるようになっただけでもいいのかもしれない。
ユニは抱きかかえたタマゴ状の『蜘蛛』を見下ろして、軽く小突いてみたりしてみる。
「あの二人に合わせてクロエまでちょっとおかしいみたいだし?」
決してにおいのことだけじゃないだろうとエリーは推測を建てるが、それ以外どうしようもなく。
「ふふふ二人とも、大丈夫でししししょうかか?」
「ソラの羽、色も形も違っていたからね。進化したのかも?」
「前見たのともちがうっぽいからねぇ。『堕天使』の別形態だとか?」
「え?」
「え?」
ジョイの言葉に、ジャックとエリーが同時に反応する。
クロエは動きを止めて、ユニはやっぱりという顔をしていた。
そして、ジョイはそんな反応を見て逆に問い返す。
「あれ、知らなかった?」
「どどどどどどどういうことですかジョイさん!」
「なに? ちょっとまちなさい。えっと、ソラがなんだって?」
「ソラ……また言ってないってヤツかああああぁぁぁぁ!!!」
騒ぎ始める三人をよそに、ユニがクロエに声をかける。
“クロねえ だいじょうぶ?”
びくりと震えて、恐る恐るクロエはユニを見た。
「……ユニは知ってたの?」
“ソラにいの こと?”
頷く。
“なんとなく?”
ユニは、首をかしげ思い出しながら少しずつ言葉をつむいでいく。
“はじめてあったとき ソラにいの翼 なんか隠してるみたいで 変だったから でも 『堕天使』だとは おもってなかった”
「わかラなかったの?」
“わたしの 『角』は あやつったり 動かしたりするものだから リッカねえみたいに わかるものじゃないから”
悩む顔は、なんと説明したらいいかわからないようで、しきりに言葉を捜している。
「なんレ、隠していたのかなあ?」
ポツリとクロエがつぶやいた。
“たぶん クロねえと いっしょ?”
うーんとうなり、なんとなくユニが答える
「う?」
“わたしも 言いたくないこととか 知られたくないこととか あるもん クロねえも あるでしょ?”
言われてみて、クロエは考えてみる。
あるかな?
あったっけ?
あるような気がする。
自分の中でことばにできないもやもやしたもの。知られたらいけないような気がして、それがそうだと知ったらいけないような気がして、いつも気付かないふりをしているもの。
「あ……」
“だいじょうぶ?”
急に真っ赤になったクロエの顔をみて、心配そうにユニが声をかけた。
とたん
「みぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
いつかのように、クロエが叫び声を上げて夜の町に飛び出していった。
「……あんた、何言ったのよ?」
クロエが飛び出していった壁の穴をしばらく見つめた後、何か知っていそうなユニにエリーが聞くものの
“別に なにも?”
ユニとしては極普通のことをいったつもりしかなくて、なんとも答えようがなかった。
□
「なんか騒いでるねー」
クロエの叫び声が届き、答えないとはわかっていてもついリッカは口に出して言ってしまった。
目の前には、ベッドに横たわるソラ。
黄金の翼を、弱弱しく、小さく、力なく広げたままピクリとも動かない。
これで、心臓の鼓動が『視え』ていなかったら、ここまで冷静ではいられなかっただろう。半日たって尚眠ったままのソラを前に、それでもなんとか平常でいられるというのは、やはりというか、長年の付き合いというか、『ソラだから』ということで納得できてしまっている。
もっとも
昔の堕天使の時とは若干様子が違うのだけども。
見た目もそうではあるのだけど、まずはなにより浮かんでいない。
本来の、『堕天使の翼』として開放しているときは、例え無意識であっても一定の高さで浮かんでいたというのに。
そして力の流れがおかしい。
もともと、ソラの体を激しく出入りしていた魔力が停滞している。それも『明日をも知れえぬ翼』の時のように、内にとどめているような停滞ではなくて、抜け切ったかのような、自然と一体化してしまっているような、そんな停滞。
逆に、だからこそこうして影響を気にすることなく、無防備に近づいて寝顔を見ているということもできるのだけど。
「なーんか、向こうの人、理不尽なこといってたけど、そこはジョイさんがしっかり殴り飛ばしてくれていたよ? ジャックさんもノリノリで止めようとしてなかったし……」
実のところ、『悪魔』がどう関わっていたのかということはわからずじまいだった。リーダー格のディアは存在そのものがなくなってしまったし、痕跡のようなものもなかったし。
それに
捕らえたヒト達のなかにも『悪魔』とつながるような人物はいなかった。
メーフィスという、あの監視をしていた青年だけはどこへ行ったのか行方が知れないが
「あのヒトはノーマルだったしねー」
不気味だったというだけで特に危険性もなかったうえに、ディアデビルの彼らがコッチに着てからの仲間だったらしい。ということで見逃すような形になっていた。
「はやくおきて、よー?」
うつらうつらと瞼が落ちていき、リッカはそのまま突っ伏して寝てしまう。
明日起きれば体中が痛くなっているだろうに、そのようなことは少しも思い浮かばず、ただ、静かに。
□ □ □
「なあ、お前。こっちにこい」
男は言った。
「自分の世界に引き篭もって、まるでタマゴの殻だなこいつは」
男は言った。
「今日からここがお前のウチだ。おら、挨拶はどうした?」
男は言った。
「おう、ちょっと出てくるからな。後は頼んだぞ」
少年のガラスのような顔を見て、男はいった。
思えば、頭をなでられたのは後にも先にも、そのときだけだった。
第四章完
恒例のあとがきのようなものを活動報告に……
そしてちょっと投稿休止します。少なくとも今上げているほかシリーズを一本仕上げちゃう予定です。
プロットも考えないとネ




