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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
帰還-帝都の外へ
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4-16

 銃声のメロディーが周囲に響き渡る。

 四拍子から八拍子へ。時々七拍子に変わり、高く、低く、トリルを、アルペジオを、次々と奏で物騒な曲を作り上げていく。

「まるで戦車か、戦艦だねぇ」

 自ら三連譜をかなでながらも狙いは適当に。物陰に隠れジョイはつぶやいた。

 スラムの適当な荒地に連れ出されて早々、彼女が引っぺがした布の下から見えたのは六つの砲塔。

 手首、肘、片にあたるところから二門ずつ伸びるそれはまさしく大砲といって間違いないようなもので

「キャノピーとか名乗ってたけど、明らかに偽名だよねぇ……」

 六連弾で砲撃音と次々と鳴り響かせる。

「まあ幸いなのは……」

 一発当たりの威力重視ということ。

 砲撃音が鳴り響くのは、普通に聞いていればランダムだ。それぞれの砲門からどれだけの間隔で次弾が飛ぶのか、ともすると分からない。

 だが扱うのは結局は人間。どうしても癖というものや、無意識のうちにとってしまうリズムがある。

 ジョイ自身、種別は違っても銃器という武器をその身に宿しているのだ。相手にリズムと限界を知らせないようにするという術は熟知している。

 だから

「なに世あんた! とんだチキン野郎じゃないの」

「ああそうかい!」

 煽る言葉にも反応しない。応えはするけど。

 言葉とともに物陰から飛び出て、牽制を打ちながらつぎの障害物へと走る。

「……これ、ただの腕試しじゃなかったかねぇ!?」

 今まで隠れていた障害物が木っ端微塵になった様子をみて、ジョイは相対者へと叫び声を上げた。

「腕試しとは誰も言っ手ないわ。勝負とは言ったけれど」

「だからって当たったら大怪我だよ? これ」

「殺す気でやってるもの!」

 うわぁ……

 物陰の向こうから物騒な声が聞こえてきて、ジョイのやる気がますます逸れた。

 何が悲しくて、いきなり見ず知らずの人を相手に命のやり取りをしないといけないのか。

 再び飛び出し、次の障害物へ。転々としながらも、相手の位置の確認は忘れない。

 どっかに廃墟でもなかったかねぇ……

 一応廃墟といえなくもないような場所ではあるが、明らかに障害物がない。問答無用で吹き飛ばせる相手にはかなり分が悪い。

 このままこの空き地にいるのもジリ貧になってしまう。できるだけさっさと場所を移したい。

「戦場の確認は大事ですよっと……」

 左手だけを突き出し、大まかな位置を予測してまた数発だけ射撃する。アレだけばんばん撃ってきてるのだから、魔力量には自信があるのか。

 まったくソラじゃあるまいし……

 そういや、魔力をあらかじめストックできる機塊もあるとかなんとか……まあ物理タイプなら弾数制限あることだし不思議ではないけど。

 自分みたいにあるものを消費するのでなくて、ある程度機塊に溜めておけるとか。ソラの羽のように。

「いや、あれは栓だといってたよねぇ?」

 となるとまた質は違うものなのだろうけど。

 まあ敵は敵。自分は自分。

 なんとか今ある手で処理しないといけないのだが。

「普通に無力化したいよねぇ……」

 そうなると、あの骸骨剣士ことジャックさんが一番適任か。防ぐだけ防いであいての魔力切れを誘えるから。

「あの子もあのこで、しつこそうだしねぇ……」

 物陰から物陰へ。

 逃げ手ばっかりのような気がする。

「まあ、俺はそんなに持久力ないんだよねぇ」

 飛び出て転がり、余所見をしていたキャノピーに対して、手加減した溜め撃ちをお見舞いした。吹き飛ばされる姿を横目に、そのまま空き地から傍にあった細い路地へと駆け込む。

「ちょっ斗、逃げんの!?」

 背後から聞こえる叫び声には、少しもダメージが入ってるようには聞こえない。防がれたか、頑丈なのか……

「相手のフィールドで戦うってのはあんまりよろしいことじゃないんだよねぇ」

 一人ごちり、路地に顔をだしてきたキャノピーに、目潰し程度の銃弾を浴びせ傍にあった隙間に身をくぐらせる。

「……もうあったまき多! 真面目にやらない死逃げるし何様のつもりよ!」

 沸点が低くてよかったねぇ。

 結構苛立っているというのは、攻撃のリズムが単調になりだしたことからも分かった。

 あとはうまく時間を稼ぎながら自分に有利な場所を探すだけなのだけど。

死点撃ち(行動封印)も結構かわされてるし、さすがに無傷のままってのはむしが良すぎるかねぇ」

 人を殺したことがないわけじゃない。それでもやはりできるなら血は見たくないわけで。

 つまるところ、ジョイは自分のもつ優しさで窮地に立たされているようなものだった。



 □



「よほほほほほほほほほほほ」

 ジャックは笑いながら、次々と打ち込まれる『杭』をいなしていく。

 さてまずは様子見とばかりに、呪符剣で受け止めようとしたら最初の一撃で魔力結晶のほぼ半分が吹き飛んだ。

 まさかそこまで威力はあるとは思っておらず、出始めを潰されて結局防戦一方。

 もっとも最初のあの一撃以降、『杭』を使った攻撃は速さはあるもののそれほど攻撃力はないようだった。恐らく連続で使えるようなものではないのだろう。

 それでも攻勢に転じることができないのは最初の一合のこともあるし、そもそもジャック自身が防御に重きを置いた戦闘方法ばかりを磨いていたからということもある。

 そしてもうひとつ……

「おらよ!」

 ラグと名乗っていた男は、その名のとおり、拳と『杭』による攻撃を、まさしく時間差(ラグ)によって使い分けていた。

 こぶしが来ると思って守れば『杭』が突き出てくる。『杭』かと思えば拳だったり、そのまま『杭』によるものだったり。

 厄介ですね。

 いまもまた、なんとか『杭』を弾き返して切り返すものの、十分な威力の乗ってない剣はそのまま撥ね退けられ、今度は格闘技に持ち込まれ。

 なにより、右腕全体が機塊ということが厄介です。生身ならまだ筋肉の動きで多少の予測はつくのに、それが一切ないのだから……

「防いでばっかじゃ、勝てねえぜ? おい」

 もう何合目だろうか。

 拳を防いで一瞬、つばぜり合いとなったときにラグがジャックの顔を値踏みするように語り掛けてきた。

「わかってますよっ!」

 なんとか拳を弾き、距離をあけて両者見合う。反撃の糸口がない。完全に翻弄されてしまっている。

 これならソラ師匠を呼びたいところですよ。悔しいですけど。

 相手は完全なパワーファイタータイプ。それも、拳と『杭』による瞬時の攻撃手段の入れ替えをもった。

 普段から攻め手に欠けるという感触はあったものの、それがここまで実感させられる相手というのも初めてだった。

 これがソラなら、相手を上回るあの手数と翼による魔力弾の攻撃で十二分に渡り合ってくれるだろうに……

「ぱわーあっぷがほしししししいですね」

「ん? なんか言ったか?」

「いえ……」

 さて、どうしましょうか。

 彼はどうやら今度はワタシから切りかかって来いといわんばかりに構えていますが、あれ、カウンターで()()()()来ますよねぇ……

 次にあの『杭』による高威力の一撃を受けたら、さすがにジョセフィーぬがもたない。魔力結晶自体は時間で再生するとはいえ、すぐさまというわけではないのだ。

 困りました。本当に。

 そんなときだ。遠くでなにか乾いたものが破裂したような音が空に響き渡る。

「あれは……」

「……やってるなぁ。おい」

 ジャックのつぶやきに、男が応えた。

「ししし知ってるようですね」

「さあて、どうだかな?」

 不敵に笑う顔は、それでも知ってるぞと言っていた。

 ソラから聞いていた、『悪魔』の話がある。そしてこの目の前の男の右腕は、黒い。

「よよよ用事ができました。この手合わせはまた次回に……」

「と言って、素直に俺が行かせると思うのか? おい」

「ですよねえ」

 それでもジャックは構えを解いて、対面の男に目を向ける。

「ああああああなたの役目は足止めですか」

「素直に言うと思うか? おい」

「……みみみなさんの下にもそそそそれぞれの人が向かっているのですよね?」

「さあなぁ。俺はおめえと戦うってだけだ。それよりいいのか、構えていなくて。こっちから行くぜ? おい」

「……『悪魔』ですか」

「なんだ、知ってるじゃねえか」

 ポツリとつぶやいた言葉に、ラグは反応を示した。

 厄介ですね。

 先ほどとは別の意味で、ジャックは心の内で吐き出す。

 ソラ師匠の危惧がこうも速く的中するとは思いませんでしたが。理由はなんでしょうか。ユニさんの『蜘蛛』? それとも事務所の誰かが狙い? 今日のみなさんの行動はそれぞればらばらでしたし……最悪、ユニさんにも何者かが向かっていると考えたほうがよさそうです。まあ彼女よりはクロエさんのほうが危険に慣れていないという点で危険な感じはしますが……先ほどの銃声のようなものは誰に向けたものなのでしょうか。

 それに、リッカさんがまだ帰ってきていない。ということも気になります。ひょっとしたら彼らの手によって? それなりに彼女もお強い方だということは分かっていますが、それでも限度というものもありますし……判断材料がありませんね。

「はん、白けた顔してやがるなぁ。おい」

「あなたの、あなた達のせいだと思うのですけどね」

「まあだからといって、手加減してやるつもりはないんだけどなぁ」

 にやにやとラグは笑う。

 ここにきて、ジャックにとっての勝利条件が変わった。

 誰かとさっさと合流すること。

 ラグとの決着は惜しいが、いま優先するべきことは他にある。

 まあ、それでも彼を倒さないことには、それも難しいといえるのですけどね。

 決定打をもたないままにこの場を切り抜けられるかといわれると、やはり厳しい。結局のところ、相手の思う壺になっているということか。

 ちょっと、奥の手を使いますか。

 余裕の表情を見せる相手に、ジャックはさらに思考を重ねる。

 まあ、それでも……

 おもわず笑い声を上げてしまうぐらいに、面白い相手であるということは実感していた。


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