3-ユニ1
なんかこんな島リアルにあったよね
奇妙なもの、つまりは未知のものを前にして、ユニとトットをはじめとした地下都市の子供達は困惑していた。
目の前の黒いタマゴのようなもの。これが何か分からない。
あの地下から戻ってくる間に、いつのまにやらユニとトット達は仲良くなっていた。
まったく喋らないユニに対して、トットが興味を持ったからということもあるが……
いちど彼らの秘密基地についてから、ユニが壁に水を使って文字を書いたが、彼らは文字が読めなかった。なんとかクロエやエリーが通訳することで会話をすることができたのだが、しっかりと伝わっていたとはいいがたい。
ただ、それでも子供同士であるがゆえに伝わるものでも会ったのか、無事後日別の場所であう約束を取り付け、それがたまたま今日だったということだ。
ちなみに、トットがユニを呼び出した理由としては
「俺達の秘密の遊び場を教えたんだからおまえの遊び場も教えろ」
というもの。
だが、ユニとしては孤児院周り以外に秘密の場所などこれといってない。どこにするか悩んだ末に、かつて自分が『居た』ところに行くことにしたのだ。
それがここ、
スラムのはずれ、ゴミの島。
河口からわずかに西に行った海との境目、スラムの南端に位置するここは、いつのころからかスラム開発の際に放棄された資材や機材が寄せられるところとなっていた。
誰が捨て始めたのかは知らない。そもそもどうしてそこにたまり始めたのかも分からない。ただ、時折河に投げ入れられる資材がどういった流れかたまり、また直接投棄されていったことによって人工島が出来上がっていた。
その土台は木材、金属、壊れた機塊にいくつもの瓦礫。
ほんの弾みですぐに崩れてしまいそうなこの島は、それでも周辺の住民の収入源として利用されている。
破材を集めて、ときには壊れた機塊を直して、売って稼ぐのだ。あるいみ地下都市の人々と似た生活をしているともいえなくもないが……
そしてここは、かつてユニがいたところだった。
機塊の発現と共に両親と死に別れ、ふらりと流れ着いたのが自分の機塊に最も向いている土地だったとは皮肉といえるのか。それともソラと出会えたきっかけになったことを喜ぶべきなのか。
何はともあれ、ユニにとってこの島は遊び場でこそないもののよく知っている土地である。
トット達もいろんな機塊が拾えて楽しいだろうと思ってつれてきたところなのだが……
待ち合わせ場所で合流したトット達は、いつものゴーグルとマントをつけておらず、素顔を晒していた。
ユニの基準では結構かっこいい男の子だった。
それはともかく、大人達の目を盗み、ゴミの島にやってきたのである。
トット達は眼を輝かせ、それぞれがばらばらと『宝物』を探しに向かった。
ユニもかつてのように、その『角』をつかって、埋もれている機塊を探しているときだった。
ちょっとした応用、『角』で周囲に働きかけたときの感触の違いで場所を割り出すという、いわばソナーのような使い方をしていたときに、妙なものが引っかかった。
ユニの感覚でいえば、それは生体金属。
ソラにも、リッカにも、他の誰にも話していないことではあるけれど、『角』をつかって『触れて』見たときの感覚が、機塊か偽塊かただの生体金属かで実は違う。
機塊は暖かい。
偽塊は冷たい
生体金属は卵。
タマゴとは何なのかといわれても、そういう感覚なのだから仕方がないとしかいえないものではあるのだけど、ともかく『それ』は卵だった。
生体金属で作られたものなどそうそう見ないこともあって、少し驚いてもいた。
「なんだ、ユニ。なんかみつかったのか?」
ユニは、各々勝手に周囲の偽塊を探していたトット達に合図をして、掘り出す手伝いをお願いする。
その結果でてきたものが、『黒いタマゴ』
ひと抱えもあるその大きめなタマゴは、生体金属特有の光沢と、仄かな暖かさとやわらかさを持っていた。
ユニの隠し事その一。じつは『角』には名前をつけていた。ただ、黙っているだけで。
こっそり『忌み子の角』で探ってみる。やはり、生体金属だ。
「なんだろうな? これ」
そばにいる子供達も首をかしげて、べたべたと触っている。
捨てられた偽塊でないことは確か。誰かの体からえぐり落とされたり、分離型の機塊で作られたものでもない感じ。
見た目はただの、ちょっと大きな石だとか、金属のボールだとか、そんな風に言われたほうがまだ分かりやすかった。
高さにして四十センチほどのそれは、静かに動くことも無くそこにあった。
ユニの隠し事その二。じつは魔力切れの偽塊や人から抉り取られた機塊も動かすことができる。
だから、恐らくは天然の、自然発生した生体金属だとは思うのだけれど、そのことを伝える術がない。
トット達はかわらず文字が読めなかった。
ただ、ユニはその手触りが気に入った。
ソラの羽とまたちがった、それでも暖かい感触が感じられたからでもある。
これはもって帰ろう。リッカねえなら分かるかもしれない。
嬉しそうにしているユニを見て、トットもなぜか楽しそうだった。
さて、ということで少年達も再び宝探しに戻るわけではあるのだが、そこで気分がよくなっていたユニは、ちょっとしたいたずらを思いつく。
いたずらでもなんでもなく、人に見せたことのない自分の『角』の本来の使い方とも言えるかもしれないが。
そばにあった金属片や壊れた偽塊を、適当にまとめて積んでいく。
急に分からない行動を始めたユニに、再び地下都市の子供達は興味津々だった。
ユニは目を閉じて『角』に意識を集中する。
パリ、と、角がわずかに放電した。
それと同時に寄せ集められていた金属にも電気がはしり、磁石で吸い寄せられるように固まっていく。
ユニの隠し事その三。じつは限定的に偽塊や金属をくっつけて、一時的に巨大な偽塊として操れる。
さすがに、帝城にいたあの少女ほどのパワーはないけれど、それを補うほどの範囲をユニの『角』は持っている。
知っているのは、実際に見たことのあるソラだけ。事務所の誰も、孤児院の誰も、このことは知らない。
ブロックを寄せ集めるようにして、そこにあった金属を組み合わせてまずは一つのボールを作り上げた。そこから、支えるための足を生やし、作業用の腕を伸ばす。
久しぶりに組み立てはしたけれど、以前よりうまくいっている。
ユニは満足そうに、微笑みをこぼす。以前より力が余ってる。
一つにはやはり成長したからだろうか。わずかとはいえ三年。それでも、三年。
あのときは緊張と混乱もあって、無作為に『角』の能力を使っていたせいなのかもしれない。
大きさにして人より少し大きいぐらい。これぐらいなら無理なく動かせる。
自分の代わりに、適当な瓦礫をどかしてみて調子をみる。
「すげえなお前! こんなことできたのか」
コクリとうなづいて、発掘を始めた。
結構な山が出来上がっていた。
さすがに、長時間『角』を使いっぱなしでユニは疲れを感じていたけれど、それはトット達もおなじ。
ユニが掘り起こした偽塊や金属を並べなおして、次々と使えそうなもの、直せそうなもの、だめそうなものとところ狭しと動いていたためである。
その甲斐もあって、普段では到底掘り起こせないような量のものが見つかりはしたのだが。
これらを持っていけば日ごろもらっているお小遣いとは比べ物にならないほどのお金にはなるだろう。ただ、持ち帰る手段がない。
ユニの『角』をたよりに運ぼうにも、それなりのサイズになってしまい、邪魔である。そもそもユニ自体が疲れはじめていた。
「なんとかしてはこばねーとなー」
「どうするよ?」
「全部は無理だけど、もって帰れるだけもってくとか」
「おいてったら影で見てたやつらにまとめて持ってかれるよ?」
そうでなくても、作業中によからぬことを考えた大人が数人やってきたのだ。
ユニが組み立てた塊が出てきたとたん逃げ出したのだが。
ああでもないこうでもないと相談している子供たちの元へ、奇妙な人物がリヤカーを引っ張ってやってきた。
「やー、かわいらしい発掘人さんたちだあ」
顔のほぼ半分が金属になっている、ひょろっとしたおじさんだ。黄色いすきっ歯を見せながらにこやかに笑ってみせる。
リヤカーを引っ張るその左腕や、ズボンから見える左足も金属化している。ここまで大きく機塊化している人物を、ユニは見たことがない。
そっと『触れて』みると、もともと左手だけが機塊だったようだけれども……
「何だよおっさん」
みんな警戒して固まっている。
「やー、たいそうなお宝を探し当てたようだけど、運べないようだからね。おいちゃんが手伝いに来たんだよお」
信用しづらい。
「たまにね、坊主たちみたいに掘り当てたはいいけど困る人がいるんだよね。そういう人のために、かわりに運んでやってるのさあ。もちろん運賃はもらうけどねえ。」
しかもタイミングがよすぎる。
運んでくれるのなら、そのリヤカーを貸してほしいとトットがいうが、これはおいちゃんの仕事道具だからねえと貸してくれる様子はない。
「それに、坊主たちで運べたとしても今度は換金する場所がないだろお? 自分達でもってったとしても、疑われて買い叩かれておわりさあ。だからかわりに引き取ってもいるのさあ」
もっともな話ではある。
地下でモノをあさっているときだって、時折代理で運搬を代行している大人を見かけもしている。ただ、頼むにしても心配なことが一つ。
「引き取るって……いくらだよ?」
「半分だねえ」
「はん……」
かなりの暴利だ。
どうする?
みんなで輪になって相談を始める。
少し調子に乗りすぎたこともあって、予定より大量に集めてしまったのも確か。
全部持って帰りたいところだけどそれは難しい。
ただ半分という暴利は見過ごせない。
なんとか値下げを……
なかなか決まらないでいた姿を見かねたのか、相手から助け舟をだしてくれた。
「そんなに悩むならあ、それをおいちゃんにくれないかなあ?」
そういって指し示すのは、ユニが適当に組み立てた偽塊の集まり。
「コイツをくれるなら三割……いや二割でもいいよお?」
「え、でもおっさんそれ……」
つい口を開いてしまった一人の口をふさぎ、トットはその耳にこっそりいう。
「いいか? どうやら勘違いしているらしいし、そこはほっとけばいいんだ。ユニ、あれってお前がいなくてもしばらくの間はあのままなのか?」
こくりと、ユニはうなづく。でも動かすことはできないし、ある程度はなれるとすぐにばらばらになるのだけど……と伝えたいのに伝わらないもどかしさ。
「別に今の間だけくっついてればいいさ。いいか? ここにいる間はできるだけくっつけておく。もらうもんもらったら一気に走る。いいか?」
全員でうなづき、先ほどのおじさんをみた。彼はハリボテの偽塊を満足そうに見つめている。
その内心としては、コレさえあれば大もうけができるだろう。ということだろうか。
「いいぜ、おっさん。引き取ってくれよ。俺達も困ってたし、三割とソイツでたのむわ」
トットが代表して、交渉する。
金額についても当初から想像していた金額よりはだいぶ多めにもらうことができた。
ユニの中にはおじさんに対しては申し訳ない気持ちと、トットに対して文字は読めないのに計算はできるの。という二つの思いが浮かぶ。
かってに勘違いしていたあのおじさんが悪いといえば悪いことではあるのだが。
お金を受け取って、おじさんが見えなくなるところまでみんなでできる限りゆっくり歩いた。
もういいよね? いいよね?
そう顔を見合わせているうちに、だんだんと足が早くなってみんな笑いながら走り出す。
思いがけない収入と、やったという思いでいっぱいだった。
しばらくはしり、最初に待ち合わせしていたところにたどり着く。
全員息が上がっていた。
とりあえず、今日の冒険はこれで終わりだ。あのゴミ島にはそうそう行くこともないだろうから、あのおじさんに会うこともないだろう。
そういえば、普段のトット達生活とはどういうものなの?
ふとトットを見て、なんとなく思いついて聞いて見たかったのだけど、言葉が喋れないせいで聞けない。
考えてみれば、地下に暮らしているとしかしらない。
こうして地上に出てくることもあるようだけど、めったにないことらしい。
詳しいことは見ることもできず聞くこともできず、自分の持ってる意思疎通の手段は身振り手振りと文字だけ。
身振り手振りの場合だと、リッカやクロエのようにかなり親しくなっていれば細かいニュアンスまで通じるのではあるけれど、今のトット達との関係を考えるとそれも難しそう。
うんうんうなりだしたユニを見て、トットが
「どうした?」
ときいてくる。
なんとかしてまた会いたいことを伝えたら、なんとか理解してくれた。
「おう。また明日な」
首を横に振る。明日はたぶん雪合戦がある。
「明日はダメか……ならあさってか?」
今度は首を縦に振る、
そのまま彼らは地下にもぐっていった。
後に残ったのは、黒い大きなタマゴを抱えたユニだけ。
また彼らにあったら文字を教えてあげよう。そのまえに、リッカにこの『タマゴ』を『視て』もらわないと。
うきうきした気持ちのまま、ユニは強く振り出した雪の中、事務所に向かってかけていった。
たまごまご
さて、この人どんな人
→ユニ「……」
リッカ「かわいい妹分」
クロエ「大恩人。ぎゅってしたい」
エリー「無口なせいかおとなしいわよね」
ジャック「ずのうではなぜかかてません」




