3-リッカ1
わらわら
「うーん、と?」
リッカはどうにも困っていた。
久しぶりに孤児院に戻ったら、年少組みが抱きついて離れない。
男の子も女の子も関係なく。
「ほら、エリーはちょっときついところあるし、クロエはアレだし?」
セーナさんがコップを口に運びながらそれっぽい理由を言うけど。
「わたしって、こんなに人気ありました?」
「みたいね。あとこんなに長く離れていたこともないじゃない?」
孤児院を出てからおよそ二週間。確かにそんなに離れていた記憶はないのだけれど。
カードで遊ぼう、いや人形で遊ぶんだ。外に出よう。気が早い子はもう雪合戦しようと言い出している。
殺る気があるのはいいけれど、さすがにまだ雪が十分積もっていない。というかまだうっすらと降り出したばかり。
そもそも、その雪合戦の予定を確認するためにここに来たというのに、この状態じゃたいした打ち合わせができない。
まあ、打ち合わせといっても大体誰が何をやるかは自然と決まっているために、当日までに参加の有無を取ればいいだけでもあるのだけど。
たとえばセーナさんは主審兼年長組みと炊き出し当番。年中組みは観覧エリアの用意。年少組みはトーナメントのくじ作り。といった感じで。
だから今日ここに来たのは、ほんの生き抜きもかねていたりする。むしろ、そっちのほうが主目的だったり。
「おい、おまえらリッカねえが困ってるだろ」
「なによええかっこしいが」
ケヴィンが下の子達を引き剥がしにかかってくれて、そこにイリアが文句をいっている。
さすがに年下相手とはいえ、五人もまとめてじゃれ付かれると大変なものがある。
「とりあえず、今回の雪はどうなの? リッカ」
「うーん……明日には一度やむかなー? そのあとちょっと日をおいてまた降りだしそう」
セーナさんに聞かれて、改めて空模様を『視て』大体の推測を述べる。
天気が『視れる』のはいいけど、結構情報がおおくて頭が痛くなるんだよねー。
「となると、朝から準備したほうがいいわね」
「だねー。一応帰り際に周辺の人には声掛けていくつもりだけど……」
「まあ、毎年恒例だから大体みんな承知しているわよ。それより、あなた達はどうなの?」
「うん? うーん……」
今の事務所の状況を考えてみる。
「ソラはちょっと無理そう。クロエもジャックさんがいるからねー……そのジャックさんは参加したがってたけど、エリーはちょっと分からないかなー?」
エリーが今朝事務所を出て行く時はまさか降るとは思っていなかったから、確認することもできなかった。参加するとは思うけど。
「場合によったら一人二人増えそうだけど……」
ジョイさんは顔を出すのだろうか。そういやカルラちゃんとなにか知りたい様子ではあったけど……
「リッカねーおそといこー」
「こー」
クルルとローラが痺れを切らして、二人で両腕を掴んで振り回し始めた。
ちょっと痛い。
「おい、おまえらいい加減にしろって!」
ケヴィンがまた注意するけど、放す様子はない。
「大丈夫だよー。おさんぽいこっか」
このままではなんともならないから、さっさと疲れさせたほうがいい。
外に連れ出して引っ張られるままに、適当にあたりをぶらつくことにした。
歩きついでに、雪合戦の話を顔見知りの人達に伝えていく。
セーナさんがいっていたように、結構みんな気にしていたようで喜んでいた。
あるひとは「去年スッた小遣いをとりもどすぞー!」なんていってたけど、おととしもスッっていなかったっけ? 大丈夫かな。
「なー、リッカねえはなんでソラが好きなんだ?」
歩き始めてちょっとしたところで、ケヴィンが声をかけてきた。
どこか真剣な顔で、わたしの顔を覗き込むようにみつめてくる。
「うん?」
「だってさー、たまにしかこないしほったらかしだし、無表情で何考えてんのかわかんねーしなんか好きだーっていうオーラがみえねえんだもん」
「うーん……」
考えたことが無かった。
あまりにも小さいころからそばにいすぎていて、兄弟というのか、家族というのか、そばにいるのが当たり前というのか……
「悩むってことは姉ちゃんもあんま好きじゃないとか? 本当は好きじゃないけど好きって思い込んでるとか?」
やけに突っかかってくる。さては……
「ケヴィンってわたしのこと好きだとか?」
「ちちちちちちげーよ!!」
図星だったようで怒って先にいってしまった。
どうしようもないよねーと少し後ろを歩いていたイリアを見ると、彼女は私をにらみつけてからケヴィンを追いかけていく。
幼い恋心は大変だよねー
「イリアはケヴィンがすきで、ケヴィンはリッカがすきで、リッカはソラがすきー」
「こーゆーのさんかくかんけーっていうんだぞ」
なにやら、そばにいるクルルとオルガがいっているけど、四人だから四角関係かなー……ちょっと年齢が若すぎる気がしないでもないけれど。
「そらにーはー」
「むくちで」
「ほんとうはいじわるで」
「ひとのことほったらかしにして」
「でもいろいろいっしょーけんめーにやってくれて」
「いろいろめんどーみがよくて」
「ときどきどきっとさせられて」
「「そんなところがすきなんだよねー」」
……………………誰だ漏らしたのは。
たぶん同年代からだからフェレ? ハルカ? 今はいないけどチトセということもある。今度あったらちょっとお話しないと。
とか思っている間に、みんなが笑いながら手を振り払って逃げていった。
「……あ、ちょっと……もう!!」
一人乗り遅れたダイアナと、少し前を歩いていたケヴィンとイリア。この場にいるのは四人。
逃げ出したのも四人。
「リッカねー顔まっかー」
ダイアナまで調子に乗り出した。
「もう! ケヴィン、イリア。ちょっとダイアナみてて。捕まえてくる」
言い置いて、走り出す。
一応近所だし顔見知りが多いあたりだから大丈夫だろうけれど、万が一ということもある。
「って、足はやっ!?」
いつのまにやら『視え』ないところまで逃げられていた。何せ壁が多いせいで『視』づらい。しかも、なんとなくではあったけど『左眼』を閉じっぱなしにしてたせいでピントがまだ合わない。
それに、すぐに息が上がる。
セーナさんからジュージュツだとかアイキだとかよくわからないものを護身術として教えてもらってはいたけれど、体力はそんなにないんだ。もともと体力のない人向けの武術らしいし。元気さえあればぶっ倒れるまで走り続けられるような年齢の子供相手に、満足に鬼ごっこなんてできるわけない。クロエがいればすぐに捕まえてくれるんだけど……いやあの子は一緒に逃げるか。
とりあえず、『奥』に向かっていきがちなクルルを先に見つけよう。
まるで手間のかかる弟だ。クルルも、ロムも、ローラも、オルガも。
まさかこんなことで苦労することになるとは思っていなかった当時のわたしに言ってやりたい。いろいろと頑張れと。
昔は、おにいちゃんと、ソラだけだったのに。お兄ちゃんがいなくなって替わりに弟妹や兄姉が増えた。
セーナさんという親もできた。本当の両親のことはいたというぐらいしか覚えていない。お兄ちゃんはろくでもない親だったって言ってるけど。
そういえば
「“お兄ちゃん”ってどんな顔だったっけ?」
ふと、足が止まる。
あれ、どうだったっけ。確か同じような髪の色で、でも少し灰色がかってて……ちがう、これはソラの色だ。
目は茶? 黒? えっと……
そのとき、誰かが走っていく足音が聞こえた。
『視る』と、ちょうどクルルが『奥』に向かっていっているところ。
「まちなさいって!」
走りながら、でも考えているのはお兄ちゃんのことだった。
優しかったというのは覚えている。いろいろ隠れてこそこそしていたのも覚えてる。気がついたらそばにいなくて、あわてて探したらソラに怒鳴っているところにでくわして、驚いたのはいい思い出だ。なんていってたのか、結局教えてくれなかったけれど。
守られてばかり。お兄ちゃんにも、ソラにも。
一度頭を振って、意識を切り替える。
終わったことをいちいち考えているとお化けに引っ張られるっていってたのは何よりお兄ちゃんだ。
よし。
「……また『視』失っているし」
意識を切り替えたのはいいけれど、クルルの姿は少なくとも『視え』なかった。
一度足を止めて、周りをちゃんと見回してみる。見覚えのあるようなところだった。
というよりも、一時期よく歩いていた道だった。
このまま先にいって一度右に曲がって、もう少しあるくと……
「やっぱり」
そこは昔と変わらない姿のままだった。
『グラウンド・ゼロ』
小さな石や、崩れた壁の破片が漂っている。
この土地には雪が降らないのか、ドーム状に雪が逸れて地面に落ちていた。
何も知らないヒトからしたら、堕天使がかつていた名残として忌み嫌うか、純粋に不思議な場所として名所にしたがるかもしれない。
昔は、ソラに会えないかわりにことあるごとにここへきてしばらくぼうっとしていたのだけど、再開してからはくる頻度もめっきり減って、すでに一年たつのか二年たつのか。ここにこなくなったきっかけは確かソラが……
そもそも孤児院の手伝いで忙しくてくることすら難しかったというのもあるのだけど。
「で、わたしをここに連れてきてどういうつもりだったの? クルル、トム、ローラ、オルガ」
「すげー! リッカねえちゃん後ろにも目がついてんのか?」
「残念でしたー。オルガはケヴィン兄ちゃんたちのところでーす」
憎たらしい。
「まったく……」
「だってさー、リッカねえちゃん元気ないときここにきてるっていってたからー」
「「ねー」」
「“だてんし”のいるところだからあんまり近寄っちゃいけないよってみんないってるけど……」
「元気になるならねー」
「ねー」
ああ、そうか。ソラがその『堕天使』だっていうことを、もともとはここにいたっていうことを、みんな知らないのだっけ。
知ってるのはたぶんソラをつれていったあの筋肉ダルマぐらいで、セーナさんも聞いていなければ知らないはず。
「まあ、ソラもわたしも、昔はこのあたりにいたからねー」
「うそだー」
「うそよー」
だから、彼らにも曖昧なことしか教えない。そもそも、ソラがまだここにいたころは彼らはまだ生まれていないわけだし、おとぎ話の一つにしてごまかしておいたほうがいいような気がする。
「こんなところにいたら、“だてんし”にみつかって『つぶされ』ちゃうよー?」
「ねー?」
ほら。たぶん意味も分からずいっている。本当に物理的に『潰されて』いたとはたぶんこの子達は思っていない。
にしても。
考えてみれば、ソラって本当に無感情だったわけか。わたしの場合はたまたまあの『翼』の能力の『隙間』を『視る』ことができたから近づけられたわけで、他のちょっかい出したヒトには問答無用だったわけだし。
あれ? ひょっとして実はかなり危険な状態にいた?
あのときのソラは本当にただの置物みたいで、反応といえない反応が返ってきてるだけだったしなーあはははは……
まあ、それはおいといて。
「で、『ここ』のことはダレに聞いたのかなー? フェレ? ハルカ? それとも今は孤児院にいない誰か?」
「げ、リッカねえが怒ったぞ!」
「にげろー!」
「ろー!」
「あ! まちなさい!」
再び逃げ出した彼らを追っていく。
そんなに、彼らにわかるほど、孤児院について数分じゃれついただけでわかるほど、わたしは気落ちしていたのか。
かえって幼いほうが敏感だっていうし。うーん……
確かに、今回はちゃんとした理由が説明されるでもなく、ソラのいつもの彷徨癖というわけでもなく、追い出されるように引き離されて、少しきてたかもしれない。
それでも、なんとかうまくやれていたとは思うんだけど。
「なんだかなー」
昔は、こういうときはお兄ちゃんが意味も無く頭を撫でてくれてたんだけど……
「あれ?」
いつのころからかそれはソラの役目になっていた。
おかしい。
お兄ちゃんがソラの目の前で、わたしの頭をなでたことは無かったはず。
ソラが初めて頭を撫でてくれたのは再開してからだから、それ以前はおにいちゃんだったはずで。
「うーん……ただの記憶違いだよね?」
何せ七つだか八つになったぐらいの古い話だ。記憶違いがあってもおかしくない。
よし、あのいたずらっ子達をさっさと追いかけよう。
途中でケヴィン達も見つけないといけないし……どうせ孤児院に向かっているだろうけど。
「まったく、弟や妹って大変だねー? お兄ちゃん」
振り向いて、そっとつぶやいて、わたしは孤児院へと帰ることにした。
かわいくない弟妹だと余計に大変
さてこの人どんな人?
→リッカ「……へ?」
エリー「モノ探しに便利よね」
クロエ「みんなの頼レルお姉さん?」
ユニ“ソラにいと他の人と嫌いな人で態度違うよね”
ジャック「一度手合わせしてみたいものです」




