2-19
そして月日は流れ……
思い通りに体が動いた。
まるで羽の様に剣がふれて、魔法を撃つことができて、目の前のモンスターをばったばったと倒していった。
「さすがアツヤだな」
ジョイさんが声を掛けてくる。
「もうアツヤに任せておけばいいね」
エリーちゃんが声を掛けてくる。
俺は片手を上げて彼らに答えて、彼らに言った。
「さあ、帰ろうか」
剣を背負って、三人で住み慣れた事務所に戻ると、クロエちゃんが抱きついてきた。
「おかえり!」
少し遅れて、ユニちゃんもぼそぼそと声をかけてくれる。
まだ、しっかりとは聞こえないけど、少しは喋れるようになってみんなしてお祝いしたんだ。
「またこんな無茶な使い方をして」
リッカちゃんがやってきて、俺から剣を奪い取った。いつもああだこうだ言いながら、完璧に調整してくれる。
「そういえば、アイツはまだ帰ってこないのか?」
俺が、今ここにいないやつのことを聞くと、みんな一様に口をつぐんだ。
みんなうつむいている。
仕方がない。アイツは、ソラは、あのままやつらに捕らわれてしまったのだから。
あのときの俺は、まだ覚醒した力に振り回されるばかりで、ソラを助けることができなかった。もっと早く覚醒していれば助けることができたのに。
「ま、そのうちかえってくるさ」
皆を元気付けるようにいうと、それぞれが顔をあげてまた動き出した。
「そうだ、アツヤ。いいことと悪いことがあるのだけど、どっちを聞きたい?」
エリーちゃんが、どこか悲しい顔をして言う。
「え、えと、いいことってのは?」
「……帰る方法が見つかったわ」
なん……だと……!?
「結構いろいろ探したらね、古い、誰も覚えていないような文献にあったのよ。なんとか解読して、見つけることができたわ」
すばらしいことじゃないのか。
思わず飛び上がり、くるくる踊ってしまったけれど……
あれ? なんでみんな暗いんだ? いつもならクロエちゃんが乗ってくるのに。
「え、えっとじゃあ悪いことってのは?」
「……私達、さよならしないといけないの」
どういうことだろう。なんで、いきなり。わけがわからない。
「だって、あなたは帰るのでしょう?」
そうだ。帰ってしまったら、みんなとはもう、会えない。
「い、いや、それならみんなも一緒にこればさ、そうすればいいじゃないか!」
「それも考えたんだけどね、あなたと、誰か一人しか一緒に送れないの」
どうする? 誰を選ぶ?
みんなの目が訴えてくる。
ユニちゃんは面倒を見ていきたい。
リッカちゃんは実は優しいお姉さんだった。
エリーちゃんはかいがいしく世話を焼いてくれる。
クロエちゃんは一緒にいると楽しい。
だれを、選ぶ?
「今すぐじゃなくても、いいのだけどね」
すぐに選べず、時間の猶予だけがもらえた。
そして、優柔不断な俺をあざ笑うかのように、事務所のドアが吹き飛ばされる。
「なにが!?」
煙の向こうにいたのは、悪魔のような羽を生やした、ソラだった。
「よう。遊びに来たぜ」
その言葉と同時に、ソラは紫色の槍のようなものを生み出して、俺の体に乱射してきた。
全身に突き刺さる。
意識が、途切れていく。ああ、これはきっと、最後の……
目が覚めた。
体中が痛くて、節々が悲鳴をあげていた。
「そうだ! あいつをたおさないと!!」
思わず飛び起きようとして、その痛さに倒れこむ。
とくに胸の痛みが酷くて、服の隙間からのぞいてみると裂傷が中心から広がっていた。背中もどこかひりひりする。服はぼろぼろだ。
なんだこれ……
「おきましたか? アツヤ君」
どこかで聴いた、優しい声。顔を向ければ、酒場であった黒ずくめの人がいた。
「あ、あんた!? え、ここはどこだ? みんなは……」
見回すと、どこかの部屋のようではあるが見覚えはない。ゲームで見る宿屋とでも言えばいいのか。
ベッドが二つ、ランプのおかれたサイドボードが一つ、窓が一つ。あとはなにもない。窓の外をみても、夕方なのか朝方なのか……
あれ、さっきまでのは夢?
「ここは、あそこから離れた町の宿屋です。だいじょうぶですか? 何が起こったか覚えてますか?」
ああ、そうだ。手足が機械になってる女の子と戦ってて……
たしかソラが割り込んできて二人を同時に相手にしていたらあの軍人さんが襲ってきてそのあとは……えっと……
「君のお友達は、君をおいて逃げ出しましたよ」
いいづらそうに、顔を伏せながら黒い人はいう。
「置いて、いかれた……?」
「ええ。私がたまたま通りかからなかったらどうなっていたことか……」
置いていかれたのか。
結局、俺なんてそんな扱いだったのか。
なんだかんだいって、結局は邪魔者でしかなかったというのか。
口ではいいこといっておいて、そんなことするだなんて。
「一応応急処置はしておきました。何でもかんでもすぐに直せるというわけではないので、若干痛みはあるとおもいますが」
「いや、直してもらえただけでも嬉しい。助かる」
ゆっくりと、体を起こして壁にもたれる。やっぱり背中がちょっと痛い。胸の痛みも、ちょっと気を抜くとすぐにずきずきと染み渡ってくる。
「帰りたい、ですか?」
「いやいい、もうあんなところ戻るぐらいなら、俺はここから……」
「そうじゃなくて、あなたの世界ヘ」
いま、なんていった?
顔をあげると、黒い人はにこやかな笑顔をしながら俺にもう一度言った。
「あなたのもといた世界に、帰りたくないですか?」
聞き間違いじゃないらしい。
「か、かえれるのか!?」
帰れないと言ってたじゃないか。それもレベルの高い魔女に聞いてまで帰れないと言っていたんだ。
ひょっとしたら、俺を苦しめるための嘘だったのか?
悩む俺をみて、喜んでいたのか?
ああ、俺をおいて逃げ出したというのなら、そうなのかもしれない。
薄情もの。人でなし。冷血漢。
「ええ。若干時間はかかりますが方法はないわけではないのですよ」
「そ、それはどんな……」
なんでもったいぶるようにいうのか。わざわざじらさなくてもいいのに。
「世界を隔てている壁を支える、『柱』があるのです。それさえ壊せば……」
「よし、すぐいこう」
何をまごついている必要があるんだ。
即断即決即実行。時は金なりいますぐに……
「あわてないでください。行ってすぐに壊せるようなものでもないのです」
「うん?」
「あなたにも当然手伝ってもらいますが、その前にあなたは力をちゃんと使えるようにしないといけませんからね」
そういって、黒い人はあの銀色のキューブを取り出した。
「あ、それは……」
あわてて服のポケットを探るけれど、ない。
「この間渡したアレは壊れました。コレは新しくバージョンアップさせたヤツです。まさか壊せるようなヒトがいるとは思わなかったので……驚きですよ」
そして、俺の左手にしっかりと握らせてくれる。
「にしても、コレって結局、一体どんなアイテムなんだ? 最初使おうと思っても全然反応しなかったんだけど……」
「コレは君自身の危機感と、周囲の仲間に対する思いやりで発動するマジックアイテムです」
それは、まさしくヒーローのアイテムじゃないか。
「使い方を覚えるのも必要ですが、使い手の君が強くなればもっと効果は上がりますからね。頑張ってください」
「おう!」
やる気が出てきた。
俺が強くなればいいということは、まずは素振りと走りこみだな。筋トレも毎日のメニューに入れよう。それよりさきに新しい生活にもなれないといけないし、キューブの使い方も覚えないといけない。やることが増えてきた。明日が見えるようになってきた。
つまりあれだろ。バッドエンド直前で別ルートに入ったか別ゲームのシナリオに入ったのか。今度こそ異世界転生チート俺つええええのストーリーが始まるんだな。タイトルはどうしよう……『鈴木敦也の異世界転生最強成長碌』でいいか。わかりやすいし。
おっと、その前に
「サンキューな。えっと……」
「かずきです。かずきと呼んで頂ければ」
「サンキューかずき」
「いえいえ」
それにしても、この人いったいいくつなんだろう。
ぱっと見は二十か? 三十か? でももっと若くも見えるし思いっきり年を取っていそうだし。
黒いコートと以前は思っていたけど、黒いローブで全身包まれていて、黒くて長い髪が引きずるように地面に落ちている。おんなじように黒い眼は、何でも吸い込んでしまいそうだ。それなのに、肌は白い。とてつもなく白い。
声も、ともすれば女と聞き間違えてしまいそうなんだ。それでもちゃんと男と分かるのはなんでだろう。
そしてなんかこう、雰囲気がソラのあの蒼い羽に似ているような気もする。なんというか、淡いというか、儚いんだ。まるで気を抜いたら消えてしまいそうで。
いや、あいつらのことはもう考えなくていい。
結局人のことを見捨てて逃げ出すようなやつらなんだ。さんざん人のことを酷くいいやがって。今度あったらしっかり泣かせて謝らせよう。よし。
「にしても、どうして帰り方なんてしってたんだ?」
なんとなく気になったんだ。
何のメリットも無く、いきなり方法を教えてもらえるだなんて少しむしがよすぎる気もするから。
「私も、君のいたところに大事なものがありましてね。取り戻したいのですよ」
「大事なもの?」
「恋人、とでもいえばいいですかね? 彼女を探しているうちに行き着いて、方法を見つけたというわけです」
片眉をあげて、ちょっと付け足すようにいう。
ああ、それは大事だ。恋人は大事だ。大切にしないといけない。うん。
「世界に寸断されたカップルか。それはまた悲劇的だなー」
このヒトの恋人か。一体どんな人なんだろうか。
うん?
俺のもといたところにいるってことは
「その人の名前ってなんていうんだ?」
「はい?」
「いやさ、俺の住んでたところにいるってことは、会ってるかもしれないだろ?」
可能性は低いかもしれないけれど、まったくないというわけでもないし。
「そうですね……そっちではなんと名乗ってるかは知りませんが、私たちはリカとよんでました。フルネームはリカディラ・ディエゴ」
うーん……
「ごめん、わかんねえや」
「そうでしょうね」
その顔はあらかじめ分かっていたというようで、どこか悲しそうだった。
「それではちょっと、場所を移しましょうか」
「おう?」
「あなた以外にも、協力者がいるのですよ。一度、彼らの元にいって紹介します。それに修行はべつにここじゃなくてもできますしね」
そういって、かずきはどこからとも無く杖を取り出した。おお、魔法使いっぽい。
「ちょっと『酔う』かもしれませんので、注意してくださいね」
笑顔でそんなこといわれても……え? どうすればいいわけ? ちょっと!?
そして、とん。と床を突くと、かずきを中心にして光で描かれた魔法陣が部屋いっぱいに広がる。
目の前が光で真っ白になった。
光が収まった部屋には、二人の姿どころか魔方陣の跡すらなく。
ただ誰か人が寝ていた跡の残るベッドだけが、人がいたことを指し示しているだけだった。
詐欺師は99%の嘘に1%の真実を混ぜるものさ
強さの基準
物理回路<魔法回路<<越えられない壁<<不可解回路
本人の訓練次第で物理回路は魔法回路に対抗可能ではあるが魔法回路が不可解回路を凌駕することはほぼ不可能。
とはいっても、機塊のこのクラス分けは総合的にみた『機塊のみの能力』(必ずしも破壊力のみで決められるものではない)であるため、相性、体調、その他条件によっては定かではない。




