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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
彷徨う少女と理不尽な悪意
14/84

14-

やっぱり用語解説やキャラ紹介や地図みたいなものはほしいのでしょうか?

とりあえず今回は


悩める少女

 私は落ち着かなかった。

 孤児院に『一人』でいるからかもしれない。

 結果がどうなるのか気になっているからかもしれない。

 あのソラはなんでもないような顔をして部屋に行ったけど、本当はかなり深刻な問題が発生していたんじゃないだろうか。

 リッカちゃんがついているということも気になる。ジョイさんはただの惚気だといってたけれど。

 そのジョイさんはいま私の家に向かっている。

 徒歩で、と言っていたし、乗り合いもそばを通っていないようでかなり時間がかかるとのことだった。以前、いちどだけ行ったことがあるとはいうけど、それでも迷うかもしれない。

 落ち着かない。

 一人で、木のブロックを削っていく。

 穴が開く。余分に削れる。砕ける。逸れて地面を穿つ。跳ね飛んで行く。あわてて駆け寄って、腕を復元(ストレージ)するのももどかしく、はしたないと思いながら足で蹴ってもとの位置へ。もういちど最初から。

 何度も何度も繰り返すのに、うまくいかない。

 集中できていない。

 考えてみればこの練習はまだ三日目。

 すぐにできるとは思っていない。けれど、昨日は不恰好でもそれらしい立方体にはなったのに。

 なんとなく慣れだした孤児院の手伝いには身が入らず、他の子達からは休憩してくるように言われてしまって、でも何かしていないと落ち着かなくて。

 気が散っている。

「機塊なんてイメージで動かすもんラヨ」

 と、通りがかったクロエちゃんが言ってくれた。

 そしておもむろに彼女が拾った木材が、溶けるように、砂が崩れるように、瞬く間に立方体へ、球体へとその形を変えたときは本当に魔法みたいだった。

 長い袖に腕を隠して、一見するとただの普通の女の子なのに、このこも機塊持ち(ユーザー)らしい。

 機塊を使った様子もないのに、どうやったのか不思議で尋ねたら

「秘密ラヨ~」

 とくるくる踊りながら言う。そして歌うように

「おねえさんなラそれぐらい()きれば十分ラよ? あラしラちみたいなのとかそラ(・・)を追いかけルじょー(ジョイ)さんラとかはいル(必要)かもラけど~」

 いいながらどこかへいってしまった。あの子はいつもずるずるの袖とぼさぼさの長い髪をふりまわし、ぶらぶらと歌って踊っている。

「イメージ……」

 木材をじっとみつめて、でも浮かんでくるのはお父様とお母様と、学園のことで、どんどんぶれていく。

「本当に、帰れるのかな」

 学園の友達、マリーにサナエ。数学のステファン先生はいつも厳しくて丸眼鏡が特徴で、でも本当は優しい。

 用務員のおじさんが手がけている花はいつもきれいで、食堂のおばちゃんさん(・・)はたまにフルーツをおまけしてくれる。学園の図書館はそれこそ本の山で、以前お父様につれていってもらった大図書館ほどではないけれど、それでもさまざまな分野の本がたくさんある。授業中に窓の外を見れば鍛錬中の騎士科の男の子達が見えて、誰それがいい。あの子はダメ。とひそひそ話しをして先生に怒られた。その隣。といってもグラウンドの隅では猟団(リッター)コースにいる人達が、同じような訓練内容で、でも倍の量をやらされていた。

 私も、あそこの仲間に入ることになるかもしれない……

 そんなことは今までまったく思ってなくて、あの時は犯罪者の卵なんだよねと無責任に囁きあってた。

 寒気を感じて、両腕をかき抱こうとして『腕』を展開したままだったことに気がつく。


「その腕、無くしラい?」


 唐突に、真後ろから声が掛けられる。

 びっくりして、振り向くより先に『腕』が彼女に向けられていた。

 砲口を向けられているというのに、いつのまにやらそこにいたクロエちゃんはニコニコしながらくるくると離れる。

「その腕、根元からえぐっちゃえば、もう再生することもラいよ?」

 そう言って、手袋をとりながら手を伸ばしてくる。

 私の、むき出しの肩に。

 生体金属のプレートで覆われて、中央には小さな魔力結晶の核があるそこに……

 怖くなって、一歩後ずさる。

「冗談ラヨ」

 くるくると、くるくると、両腕を広げて

「おねえさんがそれ(・・)を嫌っている限りそれ(・・)()うこと聞いてくれないよ? 機塊は心の形ラから受け入れるのが一番なんラって」

 眼鏡のお姉さんがいってラよ~。

「おねえさんはなんレ機塊を使うの~?」

 何で?

「なんレ使う練習するの~?」

「なぜって、それは……」

「おねえさん、さっきちゃんと踏みとどまレたから、もう十分なはずなのに?」

 ひまつぶし?

「それは、することが……」

 ないわけじゃない

「やっぱりちゃんと……」

 扱いたい?違う

 まだ、怖いから……?

 黙り込んだ私を気にすることなく、くるくる、くるくると廻っていたクロエちゃんが、ふと思い出したようにぴたととまり

「あ、そういえばお昼ラって」

 ついでという感じで付け足した。




 昼が終わっても私の意識は宙ぶらりんのままだった。食事をした感じもしない。

 洗濯物をみんなと一緒に取り込みながらぼーっと取り留めのない話に耳を傾ける。

 この孤児院は20人近くの子供がいて、その半数が機塊持ちで、一番上はエリーの16、下はディヴの5つ。ふらりと入ってくることもあれば、捨てられていたり誰かが拾ってきたりするらしい。

 出て行くのは大体15~16ぐらいで、早いと12だとか。その後の様子が知れない人がいれば、定期的に顔を出す人もいる。

 話を聞いていて驚いたのは、もともとここは孤児院ですらなかったということ。セーナさんが何の気なしに、子供の面倒と治療をしていたらいつしか……ということらしい。

 だからなのか、ときおり治療に来る人もいて、その中のだれそれがきになる云々……

 ソラはリッカちゃん専用というわけでないらしく、

 はなれたところでは機塊を振り回している子達がいて、ハンターになるんだと躍起になってる。

 このスラムを出て行くには、ハンターになるのが一番早い、らしい。ただしそのぶん危険も高い。

 ただ、学園で見る機塊持ちの人達と違って顔は輝いていて、夢にあふれているといえばいいのだろうか。

「なんで」

「うん?」

 知らず知らずのうちに、声が出ていたらしい。

「なんで、笑っていられるの?」

「うーん、別に今より悪くなることないし? 死んでいるよりいいじゃん」

 一人の子が言う。

「ここには屋根も壁もあるし、犯される心配もない。食事も出してもらえて、安心して眠れる。セーナママは怒るとちょっと怖いけどさ、そういうの家族みたいでいいじゃん」

 笑って、言う。

 死んでいるよりいい、と。

 たしかに、あの時、あの場所で死んでいたかもしれないことを考えると、今はまだいいかもしれない。

 それでも、お風呂は小さい子から順番に。食事は満足いく量があるわけじゃない。部屋は一人部屋を使わせてもらってはいるけれど、鍵はない。服は固くて肌に引っかかる。髪は前よりもぱさつくようになった。窓にはガラスが無くて、木の板が張られているだけ。防音防寒なんて期待することすらできない。そして囮までやらされて、目の前で人が死んだ。どこかからか変なにおいがするときがある。夜中に男が怒鳴る声が聞こえる。慣れたかといわれればわからないとしか答えられない。

 どうしようもないのはわかるけれど、これでも優遇してもらえてるだろうというのはなんとなくわかるのだけど


「限界?」


 顔をあげると、ソラとリッカがいた。いつしか、いっしょにいた子達はいなくなってて、あたりが暗くなり始めていた。

「何を……」

「そういう顔をしている。人がいたほうがまだ気がまぎれていいとおもってコッチにしたんだけど……」

 外にだって出られる。事務所で一人缶詰よりはよかったはずだ。

 そう言う。

「ま、一週間とはいえ生活環境がいきなり底辺まで落ちたんだから、仕方がないっちゃ仕方がないか」

「もう二つぐらい下があるけどねー」

 付け足すようにいったリッカを見る

「ふた……つ?」

「ん?だってここはスラムでもいいほうだもの」

「ここより下って」

「どっちもたぶん、知られていないか見てみぬふりされているか」

 私が知らなくていことだと、ソラの目が伝えてきている。

「ま、それも早ければ明日にでも迎えが来る。運が悪ければずっとここということにもなるけど……ジョイが帰ってきて結果報告まちだ」

「つまり、今悩んだって仕方がないことだよ?」

 それはそうかもしれないけれど、今考えておいてこそできることがあるかもしれないのに。

「考えるのと、悩むのとはちがう」

「それはっ……」

「考えるっていうのは、あんたを拾った結果どういう利益がでるか、どういう厄介ごとに巻き込まれるか、その先になにがあるかを計算することだ。過去のことを思い出してよかったこうだったと思うのとは違う。」

 それに

「あんたはまだ帰りをまっている人間がいるんだろ?」

 ソラがふと、言葉を切り上げ、上を見上げる。

 何かを探るように、耳を済ませている?

「リッカ、みんなを中に」

「うん……?」

 最初はわからなかったリッカも、あたりを『視まわし』て納得したようで、まだ外に残って駆けずり回っていた子達を孤児院の中に追い立てていた。

「それに、なによ?」

 何事なのか、理解できないでいるとどこかからか聞いたことのあるような音が響いてくる。

「思いのほか、お早いお出迎えで」



 やがてカタカタ、キンキン、ぷしゅー という機械音を立てながら3台の魔動車がやってきた。

「おい、みろよこれ。ぴかぴかだ!」「すっげー。かんおけがうごいてる!」「でっけえええ!」

 子供達が窓から顔をだして騒ぎ出していた。

 セーナが注意をする声も聞いていない。

「まさか……」

 魔動車は孤児院の入り口でその動きを止める。前後の2台からは屈強な男達が現れて周囲の警戒を始め、その後中央の運転席のドアが開き、出てきた執事が後部座席のドアを開けた。

「お父様……」

 出てきた男性をみて、カルラが駆け寄っていく。

「……カルラ!!」

 しっかり抱きしめあう親子をみながら、遅れて魔動車からでてきたジョイが

「感動の対面だねぇ」

 とつぶやきつつソラへ寄っていく。

「……状況は?」

「機塊化のことは伝えてあるよ。それと、事件のことは全面的に対応してもらえることになった。細かい内容についてはソラを交えて、ってねぇ。なんせ俺は雇われ人(アルバイト)だしぃ」

 自虐気味に答えるジョイ。

「伯爵夫人は時間が時間だからとおうちでまってるってさ」

 そこでやっと再会の抱擁をおえたダニエル伯爵がソラに向き直った。

「君がソラちゃん……だね?娘を最初に保護してくれたとか。本当にありがとう」

「……いえ」

「まさかこんなに若くてかわいい娘とはおもわなかったよ」

「あー……伯爵、そいつ、男です」

「え、いや……」

 口をつぐみ、しばらくとまるダニエル伯爵。

「そうか、それはすまなかった」

「いえ。よくあることですので」

 話のころあいを見て、セーナが声を掛けてくる。

「立ち話でもなんですし、中へどうぞ」

 リビング……といっても机とソファがおかれただけの殺風景な部屋に場所を移し、改めて事のあらましを話すことになったが「一市民として」だとか「環境は悪くても心のケアを最優先に」などと、なにやら考えてもいなさそうな言葉がソラの口から語られている。

 話はやがて、そばにいるセーナに移り、なにやら小難しいことを話しはじめている。

「孤児院といっても名ばかりで、ただ寄り集まって生活しているだけですけどね」

「それでもその年でこれだけの子供達を。立派なことです」

 二人で話し合う姿を、部屋の外から子供達が眺めて勝手に言葉をつむいでいる。

「なにー?カルラの姉ちゃん帰っちゃうのー?」

「お父さん見つかったんだねー」

「また遊びにくるかな?」

「あの『腕』に今度こそのせてほしい!」

「あんたたちあんまり無茶言わないの」

 リッカが子供達を注意しながら、部屋に飛び込もうとしている子供を押さえつけていた。

「なかなかにぎやかな子供達ですね。元気なのが一番だ」

「いうこと聞かないやんちゃとお転婆ばかりですけどね」

「もしよろしければこちらの施設に引き取りたいのですが」

「育ってきた環境が違いすぎてそちらに迷惑を掛けるかもしれませんし」

 セーナの目が子供達を向く。

「それに、あの子達のほとんどは機塊持ちですよ? まあ最後に決めるのはあの子達ですけどね」

 その目は実の子供に向けるような、自愛に満ちていながらも、見守るものの強さがあった。

 そして一言付け加える。

「気付いていらっしゃらないようですけど、ソラ君もこう見えてそう(・・)ですよ……?」

「そうだったのか!?」

「あ、書いていなかったかも……」

「……ジョイもそう(・・)だ」

「なにぃ!?」

「あ……」



 日も完全に落ち切ってランプをつけるころあいになったあたりに

「さて、そろそろ……」

 お暇しようかとダニエル伯爵が腰をあげようとしたときである。

「ちょっとまって」

 カルラが呼び止めた。

「ユニちゃんにもお別れを……」

 部屋を見渡すと、確かに彼女の姿がない。

「あれ、そういえば……」

 皆が皆、周囲を見渡すものの見つからず、はて、いつからとざわつき始めた。

 隠れていないかとその『眼』を周囲に向け『視わたし』た、リッカがつぶやく。


 ユニが、いない。


なんかキャラがどんどん増えていきます(オカシイナー

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