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あるいは、堕天使の憂鬱  作者: とんぺり
彷徨う少女と理不尽な悪意
13/84

13-

盛大な、暴走。

 俺は人生の窮地に立たされているかもしれない。


 ジョイは歩きながらしみじみと考える

 事の起こりはこうだ。

 ソラと簡単な打ち合わせがおわったあと、ソラの傍にいるといったリッカちゃんを事務所において、カルラちゃんとユニちゃんを孤児院に送り届けた。

 カルラちゃんは、はやる気持ちもあったのだろう。即座に手紙を書き上げた。

 予想していたよりもだいぶ早いできあがりに、ちょっと戸惑うところがありはしたのだけど。

 正直言って、「やれるなら」とはいったけれど、孤児院にカルラちゃん一人置いていくこと自体はあまりやりたくない。

 ソラがいうには結構安全らしいが、俺はこの孤児院のことも周辺のことも知らない。

 どこまで安全でどこからが危険なのか、その線引きがわかりづらいこともある。

 ソラのいっていることを信じるしかないのだ。

 だけど

「おねがいします」

 と懇願する目でみられたらやらざるをえないよねぇ?

 結局手紙を託されて貴族街に向かうことになった。


 さすがに距離があるため途中で昼をはさむことにはなったが


 道すがらさてどうやって挨拶しようかいろいろなやんだ。

 だいたい、こういった交渉事の必要な依頼自体がほとんどない。

 まあ、学園生だということもあるけど、大体はケモノ狩りの合同依頼であったり、夫婦の浮気調査であったり、迷子探しだったりと時間と手間暇があまりかからないものばかりだ。

 年齢については適当にごまかすとしよう。なにだいぶ年上に見られることもあるんだ別に問題ない。

 決してふけているわけじゃない。

 ふけているといえばソラの年齢は本当にあっているのだろうか。

 親も兄弟も知らず、まだだいぶ小さいころにリッカちゃんと出会って同じぐらいの年だろう。ということでの年齢自称らしい。

 ん? じゃあ、それまでは誰に育ててもらったんだ?

 聞いた事がない。

 3年前までは所長(オヤジ)さんだった。

 今は自活している。

 事務所に入る前はリッカちゃん……というよりはそのアニキが面倒をみていたようだが

 ならその前は?保護者らしき人物がいたと聞かない。

 うーん、わからん。

 そんなことよりもこの後の面会だ。

 やはりお父さんと呼んだほうがいいのか。いやそれはまだ気が早い。

 そもそも相手は伯爵だ。


 そもそも相手は伯爵だ。


 そう、彼女のというかバーズン家のパーソナリティを調べるに当たって知ったことだが、何が中流貴族だよいっていることがなんかちがうじゃねえかよいやむしろあってるのか伯爵って真ん中ぐらいだっけだれか教えてくれ……

 みたいな混乱が無かったわけじゃない。

 ただカルラちゃんの口ぶりから、よくて子爵なんだろうなぁとはおもっていたけれど、ひょっとして伯爵位の真ん中ぐらいにいるから中流とでもいってたのだろうか。

 としばらく彼女の階級意識とぶるじょわじーと身分差について考えることにはなった。

 確かにおなじ学園生ではあるけれどあの学園は国営で、授業料さえ払えれば平民だってはいれるし、後見人さえいればスラム出でもはいれるらしい。さすがに数年に一人ぐらいしかいないようだが。

 機塊持ち(ユーザー)もはいれる。ただし抑制環の着用は義務付けられるし――つけても効果はない――国が戦力、兵器としての価値を求めてるためだが、生徒達の中でも立場は低い。

 バカ正直に猟団(リッター)コースにいくのは、軍というものにあこがれている平民か、貴族としてごまかしようのない立場にいるやつぐらいだ。

 俺みたいに復元(ストレージ)能力があるやつは申請すらせず、だまって一般クラスに入り込んでいる。ということもある。

 リッカちゃんほどではないけれど、結構コイツはひょっとして? とみればなんとなくわかるやつもいるものだ。

 そもそも、剣だの銃だのもってるやつはごろごろいるんだし、他大陸には魔法使いだっている。程度の差はあれおなじ凶器となりうるものをもっているのに、機塊持ちだけなぜそこまで差別するのか。というのが大体俺みたいな平民の意見だ。

 うん、でも、まあ、そうなるとおなじ学園の生徒をやってますといったほうが話題は運びやすいのかもしれない。

 でもそうなるとカルラちゃんの評判について聞かれるかも知れないしそうなると別クラスだしだったら黙っていたほうがいいのかな?

 素直に平民でクラスが違うことを伝えてもいいがじゃあどうして知り合いになったんだと聞かれた時に困る。

 いや単純に仕事でですけど。

 機塊持ちだということを伝えた時のことも心配だ。

「機塊持ちでも私の娘だ」といって面会を求められるのか、それとも「処理はそちらに任せる。むしろ見捨ててもらっても構わない」とでもいわれるのか、まあそうでもなったらちょっと本気で親父と母さんのご機嫌取りをしないといけない。いや親父なら機塊持ちってだけで十分か……

 なんか本格的にまいってるよなぁ

 昨晩、なんとか事務所にかえってカルラちゃんに無理やりベットをつかわせて俺は床の上だったけれど、ほとんど彼女も寝れていなかったらしい。

 多少距離はあったとはいえ目の前で人が死んだんだ。そうでなくてもこの一週間近く、普通じゃ体験しないような目にあっている。

 ベットに背を預けて座って、震える彼女の気配を感じながら俺は思ったのだ。

 俺だって最初は親父に連れられて角ウサギを狩った。人の死を、いや死体をみたのはだいぶ小さい時に隣の街まで旅行にでたときで、人が死ぬのを見たのはもっとあと。この手をはじめて血に染めたのはソラとであってしばらくたったぐらい。

 それを考えると

 かなり濃密すぎる一週間だよねぇ

 震える彼女を抱きしめて慰めてやれればどれだけいいことかと思いながら、いやそれはやっぱりまずいだろと悶々としているうちに、朝が来てしまっていた。

 うーん、やっぱり惜しいことをしたかねぇ?

 ああでも、「娘とどういう関係なんだ」ときかれたら「一晩をともにしました」というのもいいかもしれない嘘じゃないし……いえるか!

 などと考えていると、街並みがガラッと変わってきた。

 下町(アンダータウン)とはちがう、ひとの流れがあっても、活気があっても、物静かで、どこか絵画的な。

 それがたとえ小さな民家であっても庭を持ち、柵で囲われている。アパートにおいても清潔で整っており、壁にひびなんて見られない。

 道端で開かれるような露店すらなく、例え雑貨店であっても小さな店舗にはいっていた。

 ペットの散歩をしている夫人、両親とともに歩く子供。皆仕立てのいい服を着て歩いている。

 見慣れた服は学園の制服。自分のようにサボっているのか、友達同士で喋りながら歩いていく。

 時折、他の人よりみすぼらしい服を着て走っている子供は下町からでてきた様子で、運よく小間使いの仕事をてにいれたのだろう。そんな子供ですら、孤児院の子供達よりいい服を着ていた。

 年頃の娘がのんびり一人で出歩くなど、下町(アンダータウン)はともかくスラムでは決してみたことがない。

 憲兵達が哨戒してあるき、治安が保たれているがゆえであった。

 それともう一つ。

 機塊持ち(ユーザー)がいない。

「貴族のほとんどは排除派だからねぇ……」

 つぶやきながらいちどきただけの道をたどる。

「えっとたしかコッチを右にいって次を左にいって……」

 行き過ぎて一本前の道に戻る。

「整頓されすぎててこう、ワクワクがたりないというか……」

 下町であれば穴場の店やちょっとした広場を見つける楽しみがあるというのに。

「まあ、こういうのが『文明的』っていうのかねぇ」



 などと考えているうちに、バーズン家の屋敷についてしまった。

「コレ、やっぱり孤児院よりでかいんじゃね?」



「ハルフォード事務所のものです」

 ドアのノッカーを叩くと、身なりのいい執事が出てきた。

 年配で、えも知れない気配を感じる。なんかこう、ザ・セバスチャンな人だ。

 まずい。もっといい服を着てくるんだったと思いながら

「こちらを、お嬢様からあずかってきたものです」

 執事に手紙を渡す。執事さんは手紙をもって家の奥へ。かわりにメイドさんに案内をされる。

「こちらへ」

 廊下におかれている花瓶や壷を見ながら進むと、ある部屋の前につく。どうも客間らしい。

「こちらで少々お待ちください」

 部屋の中には暖炉、絵画、いくつかの工芸品。

 決して華美ではない。ここにきた客を落ち着かせようという配慮がどことなくうかがえた。

 それでもおいてあるものはやっぱり値打ち物、だよねぇ?……皿を飾るだなんて聞いたことがない。

 どこかで眠りこけてるやつ(ソラ)は、その無表情を変えることなく眺めてるだけだろうが、俺ってば親父から「いいものは穴が開くほど見ておけ」といわれてることもあってついしげしげと見つめてしまう。

 部屋の中を一通り見て回ったあたりにノックがされた。

「は、はひっ!」

 開けられたドアから入ってきた人物達をみて彼らがバーズン夫妻だとすぐわかった。

 似ている。

 髪の色は父親似。目の色は母親似。二人のいいところをあわせればカルラちゃんが簡単に出来上がる。

 着ているものはそれでも普段着なのだろう。下町(アンダータウン)では見ないような上等な生地が使われている。

「どうもはじめまして。ジョイ・ブローバックともうします。なんの連絡もなしに突然すみません」

「私がダニエル・バーズンだ。それと妻の……」

「アデーレです。娘はいまどこに」

 まあ、そうなるよねぇ。特に夫人は心配で夜も眠れない。という状況だったのだろう。本来はもっと健康そうな肌が、いまはやつれている。

 伯爵が夫人を制止しつつ、俺にソファ座るように促す。

 遅れてメイドがはいってきて、紅茶を入れていった。

「手紙を読んだよ。それで、娘はどこにいるのかな?」

「まず最初に、おれ……私が本当にお嬢さんの使いであることを信じていいのですか?」

 持ってきたものは手紙一つ。ほかに彼女を示すものが何もない。

 腕輪をつけていたとはいうが、機塊化したときに壊れてしまったのだろう。手荷物も、何もない。

「キミが騙りだという可能性かね? まあそんな輩がまったくいなかったというわけではないが、娘の筆跡をわからないほどダメな親をやっていないさ。それに……」

「……それに?」

「キミによくしてもらったとも書いてあったからな」

 なにやら値踏みするような目で見られる。

 な、なにがかいてあったのかねぇ。あのおてがみには。

 冷や汗を感じながら、と、とりあえずと言葉を続ける。

「お嬢さんは無事です。わけあって、とあるところで保護していますが」

「それは、どのような理由かね?」

「お嬢さんは真昼間に暴漢に襲撃されまして……」

 ことの顛末を、反応を見ながら告げていく。

 犯人らしき情報の話になった時点で

「やはり、フロトスが原因か」

 なにやらうなずくようにして言われた。すでに気付いていたらしい。

「あいつがなにやら怪しい動きをしていたのは知っている。まさかあそこまでやっているとは思っていなかったが」

「ただし、証拠がありません。襲撃者は全員殺されて、つながりを示すものもなにもないのです」

 仮に襲撃者が生き残っていて、やつらの口から関係性が聞けたとしてもしらを切りとおされたら無意味であったが。

「そこはこちらで何とかする。娘一人を犯罪者に仕立て上げたのだ。相応の報いを受けてもらうさ。すでに打てる手は打って、手配書自体も取り下げの申請を出しているところだしな。軍の人間が関わってるということまでは判らなかったが、そっちもまあ何とかなるだろう」

 そこまでしているのなら、もう安全だろう。

「ところで、君はどうおもうかね?」

 唐突に、質問された。

「どう、というのは?」

「今回の件だ。街中での突然の暴行、早すぎる手配書。犯人の暗殺。昨日コロプナ区であった事件すらすでに娘によるものとされている」

「それは……」

 なんといえばいいのだろうか。

「かまわない。君のおもうようにいってくれ」

「……それでは、はっきりいうと『わからない』としか言いようがありません」

 うなづき、先を促す伯爵の目をみながら、ソラと相談していたときのことを思い出し言葉を捜しつつ伝える。

「ソラ……パートナーとも話していたのですが、どれも手際がよすぎて作為的すぎます。だというのに、首謀者とおもわれるフトロス伯は犯人として都合がよすぎます。私達のようなものですら簡単にかぎつけられるだなんて、軍の人間を抱きこめるような知恵者じゃないというイメージを受けました。これではむしろ利用されているような……でも、だとすると軍に対するメリットがない(・・)。」

 いちど言葉を切る。

「計画が成功したときの利権や癒着があるのかもしれません。でもそうなるとフロトス伯の家でみられたというデトス中将本人が動く必要性がわからない。こうなるとデトス中将本人の人柄を知る必要性がありますが……」

 そこでふと、我に返った。確実な証拠もないのに、憶測で貴族を犯人扱いするのもまずい。

「あ、すみません。あくまで憶測に過ぎないのに……」

「いや、私も大体おなじ意見だよ。中将に対しては内々に調べておこう。娘を保護してくれて感謝する」

 立ち上がり、手を伸ばしてくる伯爵にではあるが、素直にその手を取れなかった。

 どうしても伝えないといけないことがある。

 むしろ、こちらのほうが大事なことかもしれない。

「もう一つ、重要な用件があります」

「なにかね」

 伯爵の目を見る。

 こちらの様子を伺うように、その茶色い目が見つめ返してきた。

「お嬢さん、カルラさんは機塊持ち(ユーザー)として覚醒しています」

「カルラが……」

 二人とも息を呑む。

 伯爵は顔をふせ、夫人は両手を口に当てて、二人ともしばらく言葉がないようだった。

 先に口を開いたのはアデーレさん。

「それでもあの子はわたし達の娘です」

「ああ、かまわない。無事……とまではいわないがそれでも、なによりだ」

 そうはいうものの、それなりにショックがあったのだろう。

 二人とも再び口をつむぐ。

「そもそも偽塊の開発には機塊持ちの協力が不可欠でな。君は知らないだろうが大体が誰かの物まね(コピー)なのだよ」

 協力……その割には学校でも偽塊開発の手伝いのような話を聞いたことがない。

 そのような俺の疑問には気づかなかったようで

「彼らと接することもあってな。世間一般でいうような悪人ではないとわかっているよ」

 言葉を重ねる。

「幸い、といいますか。お嬢さんは復元(ストレージ)……生身の腕と機塊とを使い分けれるようになっています。もし望むなら、機塊持ちであることを隠したまますごしていくこともできます」

「そうか……それはそれでよかったといえるかもしれないな。よし、すぐさま護衛をつれて迎えにいこう。君たちにも御礼をしたい。後日、正式にするつもりだがね」

 結局、俺も一緒に魔動車で孤児院へもどることになった。

 準備している間ここで待っててくれ。と言い残し、夫妻は部屋を出て行く。

 どさりと、ソファに倒れこむように座って俺は大きなため息をついた。



「……はて、ハルフォード……どこかで聞いたことがあるような気がするが」


もっと面白い状況を期待したのにジョイの奴め・・・・・・

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