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第三日目 4節「カッコいいよ」(アイミネア)(3)

 そして、切りかかってきた。

 ぶうん、と丸太のような腕がうなって、信じられないほど早い一撃が真上から振り下ろされた。アイミネアは慌てて飛び退った。冗談じゃない、と思った。あんな一撃が当たったら、怪我どころの騒ぎじゃないだろう。ドルシェの棍棒は重い音を立てて地面にめり込んだが、即座に手首が翻って、アイミネアが後ろに下がるのを追いかけるように、下から襲い掛かってくる。重いだけじゃなく、ひどく動きが早かった。避けるだけで精一杯だ。

 アイミネアは、悲しいことに、自分の腕前を良く知っていた。彼女には良く効く耳とよく回る頭と軽くすばやい身のこなし、という、『伝令隊』の仕事に不可欠な資質はすべて揃っていたのだが、『強さ』に必要な要素というものはほとんど持ち合わせていなかった。奇襲や暗殺ならまだしも、ドルシェのような男と面と向かって渡り合えることなど考えることもできない。一撃を受け止めることすらできそうもなかった。どんな僥倖も期待できない。昔語りなどでは、不思議な奇跡が起こって主人公側が勝利を収める――ということも良く語られていたものだが、奇跡が起こるにも限度があるというものだ。

 そのときアイミネアが考えたのは、とにかく逃げるということだった。

 この暴走イノシシみたいな男を、とにかくギルファスから遠ざけなければ、と。

 横なぎに振り払われた棍棒を、地面を転がって右に避ける。転がって跳ね起きたすぐ脇に人の足が見えたので、これ幸いとその後ろに飛び込んだ。ドルシェが追いかけてきて振り下ろした棍棒を、盾にされた男が慌てた声を上げて避ける。

「危ない! 周りをよく見ろよ!」

「うるせえ邪魔だ! 怪我したくなきゃそこをどいてろ!」

 ドルシェが落雷のような声を上げている。

 彼らが戦っている場所は、ちょっとした広場のようになっていた。敗走する最中の東軍兵士たちが足を止めて、彼らの戦いを見守っていた――というよりも、参入するタイミングを計りかねていたのである。アイミネアはその人垣の中に逃げ込んだというわけで、いつ鉢巻を奪われるかわからないという点では、事態が良くなったとは決していえなかった。でもアイミネアにとっては、あの暴走イノシシの前に立ちふさがるよりも、大勢の人間の間をすり抜けて逃げるほうが何倍も安心だった。ギルファスやミネルヴァや、他の勇敢な人々のように、踏みとどまって戦えたら、と思わずにはいられないのだが――自分のこのお粗末な腕では、暴走イノシシに簡単に弾き飛ばされるのがオチだろう。情けないけれど、こればかりは仕方がない。

「どこ行った、アイナ! 諦めろ、すぐ楽にしてやる!」

 ドルシェの声が響き渡る。

 身の毛がよだつような声。

 あの台詞も『一度言ってみたかった』んだろうか。『宴』が終わったら聞いてみよう――そんなことを考えたときだった。

 アイミネアの視界の隅に、白いものが飛び込んできたのだ。

 ――ミネルヴァだ。

 ほんのちらりと見ただけなのに、ミネルヴァのその姿は、まるで目の前にいるみたいに良く見えた。ミネルヴァは顔を上げていた。長い髪がほつれてくしゃくしゃになって、猫みたいなかわいらしい顔にかかっていた。ほこりまみれと言うよりは、泥まみれになっていた。頬に微かに赤いものが見える。それでもミネルヴァは顔を上げていた。ここから少し離れた場所で、彼女は必死になって、こっちに来ようとしていた。足を引きずっている、と次の瞬間に悟る。ミネルヴァの動きは普段の彼女を知るものからは信じられないほどに緩慢で、それは次から次へと彼女に伸ばされる青い腕をかいくぐるためだけではなく、足を――それも右足を――引きずっていたためだった。

 額に巻いた鉢巻は、泥にまみれていてもなお、白い。

「……ミネルヴァ!」

 思わず叫んだアイミネアの目の前に、どすん、と言う音を立てて、立ちふさがったものがいる。

「見つけたぞ」

 嬉しそうな声。

 言うまでもなくドルシェだった。

「まったく逃げ足の速い奴だよ」

 言うドルシェの言葉はひどく嬉しそうだった。言いながらドルシェはことさらにゆっくりと、棍棒を構えた。勝利を確信しているのだ。いくらアイミネアの足が速くても、この位置からでは逃げられないと思い込んでいるようだった。確かに彼女が飛び退っても、ドルシェの足の長さでは彼女が着地する前に追いつけるだろう。脇に飛んだとしても、ドルシェの腕は長いから、すぐに首根っこを引っつかめるに違いない。アイミネアをすっかり手の内に納めたと思い込んだドルシェは、それで落ち着いたのか、普段の温和な彼の姿を垣間見せた。アイミネアの首元に突きつけようと伸びてくる棍棒はとてもゆっくりしていた。この棍棒を彼女の喉元に突きつけて、『戦死』を宣言すれば、アイミネアの鉢巻が手に入るのである。

 しかしアイミネアとて、黙って鉢巻を差し出すわけには行かなかった。先ほどまでなら諦めてしまったかもしれないけれど、ミネルヴァのあんな姿を見た後では、こんなところでぐずぐずしているわけには行かないのだ。

 喉元に向けて伸びてくる棍棒を右手でつかみ、その勢いを利用してドルシェの片足の上に、全身の体重をかけて飛び乗った。ドルシェは不意をつかれたが、しかし特に何の反応も示さなかった。彼の頑丈な足は、アイミネアの些細な体重程度じゃほとんどダメージを与えられなかったに違いない。しかし一瞬だけ動きを止めたことは事実で、彼女にはその一瞬だけあれば十分だった。今飛びついたばかりの、棍棒を握るドルシェの右手をしっかりつかまえて、思いっきり――

「…………いってえー!」

 ドルシェが悲鳴を上げた。そう、それはもちろん痛かったに違いないのだが、ドルシェの鋼鉄のような手の甲に噛み付いたアイミネアの歯も同じように痛んだ。まったくこの皮膚は何でできているというのだろう。泥臭いような、しょっぱいような、不快な味が舌に広がったが、彼女は我慢してさらに歯を立てた。ドルシェが慌てて腕を上に跳ね上げる。彼はアイミネアを振りほどこうとして腕を上げたのだが、アイミネアはその動きにまったく逆らわなかった。逆に腕にしっかりとしがみついたまま、ドルシェの体に足をかけて駆け上がる。腰に一歩、胸に一歩、くるりとドルシェの腕を乗り越えて、肩の上。そして彼女はドルシェの体を飛び越えた。

 彼女が着地すると同時に、周りを囲んでいた東軍兵士たちが、思わず、おお、と声を上げる。

 惜しむらくは、ドルシェの鉢巻を奪ってくる暇がなかったということである。

 呆然とし――ついで怒りの咆哮をあげるドルシェを置き去りに、アイミネアは大急ぎで走り出した。

 東軍兵士の隙間から、ミネルヴァの顔が見える。

 ミネルヴァは疲れ切っているようだったが、アイミネアと目が合うと、顔をくしゃくしゃにして、笑った。

 

 ミネルヴァの所にたどり着いたのは、ギルファスとアイミネアが同時だった。やや遅れてルーディが、そのすぐ後からラムズとマディルスが追いついてくる。お互いに無事だったことに安堵の視線を交し合った後、ミネルヴァを含めた全員が、ギルファスに何か言おうとした。しかしギルファスは誰の発言も待たなかった。ミネルヴァの膨れ上がった右足首を見て一瞬眉をひそめたが、何も言わずに、ミネルヴァに自分の持っていた棍棒を押し付ける。

「え、……ギル」

「ちょっと我慢してろ」

 何か言いかけたミネルヴァを制して、ギルファスはミネルヴァを背中に担ぎ上げた。ここに至ってようやく、ギルファスがこの無謀な突撃を敢行したのは、東軍の中にミネルヴァを見つけたからだということに気づいた。何もかも心得た銀狼隊員たちが、二人を中心にした配置に移動するのを感じながら、アイミネアはギルファスの横顔をまじまじと見つめてしまった。先ほどからのほんのわずかな時間で何度か繰り返した疑問を、再度胸のうちだけで抱く。

 ――いったい、銀狼の自覚があるのかしら!

 全員の準備が出来上がると、誰の号令もないのに、銀狼隊が一斉に退却を開始する。息がぴったり合っている。ミネルヴァがギルファスの背中の上で二本の棍棒を構えていて、なるほどあれなら西軍まで無事にたどり着けそうだ、と思ったとき。

 後ろで、悪夢のような声がした。

「待てええええええ、アイナああああああ!」

 ドルシェの声と地響きは、気づくとすぐ傍にまで迫ってきていた。

 アイミネアは文字通り飛び上がった。それから、一目散に走り出した。一生のうちで、これほど早く走ったことはない、と断言できるほどだった。背中が粟立っていた――ドルシェのあの声! まるで昔語りで聞いた魔物そのものだ! 周りはもう結構開けていて、こうなると足の長さの分ドルシェの方が有利である。いつ追いつかれるか、追いつかれたらつかまってどんな目に遭わされるか――頭から丸かじりにだってしかねないと思うほどの迫力。先を走っていたルーディが振り返って、少し場所を空けて、アイミネアを先に通してくれる。おかげで後ろからの圧迫感は少し薄れはしたものの、あの地響きを立てて迫ってくる足音と、身の毛のよだつような声は、しばらく後ろを追いかけてきていて。

『宴』が終わったあとも、数日の間は、悪夢にうなされそうだ、とアイミネアは思った。


  *   *   *


 午後が始まろうとしていた。

 今日も暑い日だった。けれど乾いた風が適度に吹いて、汗を乾かしていってくれる。アイミネアは明るい日差しを思うさま顔に浴びながら、ギルファスを探して歩いていた。

 思う存分、体を伸ばすことができるって、なんて素敵なことなんだろう。

 誰に見られてももう、気にせずに歩くことができる。

 新たにもらった白い上下の服が、しっくりと体になじんでいる。

 厳しい緊張を強いられ続けたこの三日間を思えば、無事に味方の場所にたどり着けたことは奇跡としか思えなかった。

 

 この三日間ですっかりおなじみになってしまった空腹は、まだアイミネアの中で主張を続けていた。背中に感じる心地よく乾いた風は、食糧補給隊が焚いている焚き火の香りとともに、さまざまな美味しそうな匂いをも運んでいる。あちらに行けばいくらでも、たらふく食べられるということはわかっているのに、その空腹を押してまでギルファスを探しているのは、食事が済めば西軍媛隊はみんな、西軍の本拠地である丸太小屋に向かうことになっていたからだ。西軍媛隊の中で随一の戦闘能力を誇るミネルヴァが負傷してしまったので、媛隊は三日目の午後はずっと、あの小屋の中で身を守ることに専念することになっている。だから今のうちに――とギルファスを探しに出てきたのだが、彼女の幼馴染である銀狼はいったいどこへ行ってしまったのか、姿が全然見えなかった。

 午前中はずっと大活躍だったというから……どこかその辺で、休んでいるのかも。

 ギルファスが行きそうなところといえばどこだろう。推理しながら歩くうちに、彼女はいつしか、広場の南側の森の中に足を踏み入れていた。急に広場の喧騒が遠のいていく。森の木々が作り出す木陰に一歩入っただけで、まったく違った世界に足を踏み入れたような気になるのは不思議なことだ。

 ギルファスは森が好きだ。

 いや――アイミネアは子供の頃、いつも感じていたことを思い返して、口元に微笑を刻んだ。ギルファスが森を好きな以上に、森がギルファスを好いているみたいだ、と、いつも思っていた。ギルファスはたまに一人でぶらっとどこかへ行ってしまうことがある。そして、そういう時は、いつも森の中にいるのだ――

「どうしたんだ、アイナ」

 頭上からいきなり声が降って来たときも、だから、アイミネアはまったく驚かなかった。顔を仰向かせると、木の枝に寝そべるようにして、ギルファスが見下ろしている。アイミネアは一瞬だけ、ギルファスの傍にルーディがいないことにホッとした。

 それを悟られぬように微笑して、呟く。

「探してたの」

「俺を? 何で」

 その問いには答えず、彼女は数歩歩いて、大きな木の根本に腰を下ろした。木の幹に背を預けて地面に座り込むと、見下ろしているギルファスと斜めに向かい合うような形になる。ギルファスは降りるそぶりを見せたが、アイミネアはそれを押しとどめた。

「そんな大した用じゃないの。すぐ行くから気にしないで」

 ギルファスはいぶかしげな顔をしたが、ややあって、笑みを見せた。

「アイナ大活躍だったな。よく無事だったよなあ」

 彼の素直な賞賛の言葉に、アイミネアは微笑んだ。ギルファスは兄弟みたいなものだから、余計な謙遜など不要だった。そして余計な遠慮も無用だ。アイミネアは単刀直入に、口を開いた。

「あのね、とても不思議だったの」

 ギルファスは、うん、と頷いた。肯定ではなく相槌である。ギルファスは昔から、相槌を打つのが上手だった。おかげで言葉がするすると、喉から滑り出してくる。

「……不思議で、すごく、聞きたかったの」

「うん」

「ギルファスは――」アイミネアは息を吸った。「……自分が『戦死』したらどうしよう――とか、考えないの、いつも?」

 ギルファスは沈黙した。何か一瞬だけ考えたようだが、言葉は発さずに体を起こした。あ、と思う間もなく、彼は身軽に地面に飛び降りた。彼女がびっくりして腰を浮かせかけたときには、何事もなかったかのように立っていた。

 そして、ギルファスは微笑んだ。

「みんなにも怒られた」

 照れくさそうな笑みだった。そしてギルファスは歩いてきて、アイミネアの目の前に、無造作に座りこんだ。

「一日目はいろいろ考えた」

 座り込んでから、ギルファスは言った。

「俺が『戦死』したら『宴』は終わっちまう、とか。まだ銀狼として何もしていないのに、二度と銀狼になれないのに、今年しかないのに――こんな簡単に『戦死』するわけにいかない、とか。考えたよ、いろいろ。でも……なんか、時間が経つうちに、どうでも良くなったんだ」

「どうでも……?」

「ゴードが、言ってた。五十年前の戦争に負けたのは、銀狼と媛が死んだからじゃないって。どうして銀狼と媛が『戦死』した時点で『宴』が終了するのか不思議だ、って、言ってたんだ。言われてみればそうだよなって思った。銀狼って本来、そういう生き物じゃなかったよな、って。

『設定』に縛られて、臆病な銀狼で終わるよりは……自分にできることを何でもやって、それで『戦死』したほうが、何倍も銀狼らしいんじゃないかって、……思った、んだ」

 つっかえつっかえ、自分の脳裏を探るように、ギルファスが話している。それを聞いているうちに、少しずつ――自分でも意識しない間に、アイミネアの頬に微笑が浮かんできていた。なんてギルファスらしいんだろう、とアイミネアは思った。そう、ギルファスには、『設定』とか……『制約』とか……そういう単語はまったく似合わないのだ。自分が『戦死』したら『宴』が終わってしまうだとか、西軍に不利になるだとか。そういうことを、頭ではわかっていても、東軍の真ん中に一人取り残されているミネルヴァを見てしまったら――助けに行かずにはいられない、それがギルファスなのだった。

 ものを考えない奴だと言ってしまうのは簡単だけれど。

 でも本当は、ギルファスのようにできる人間は少ないだろう。

 ギルファスは自分の手柄を考えない。本当に自然に、いろんなことをやってのける。気負わずに、無造作に、危険なことに踏み込んでいけるのだ。

「うん、わかった」

 アイミネアはにっこりと、笑って見せた。

「え……何が?」

 ギルファスが不思議そうな顔をしている。アイミネアは笑って、立ち上がった。

 そう、よく、わかった。

 ギルファスを銀狼に選んだゴードの気持ちが。

 そして……あの東軍の館の中で、アイミネアがグスタフに飛び掛ったときに。グスタフはアイミネアに気がつかなかった。あれはアイミネアの攻撃がつたなかったとか、どうでもいいと思っていたとか、そういうことじゃなくて。ただ単に、ギルファスを見つけたから、だったんだ。

 理屈ではなく、すべてが腑に落ちてしまった。

 アイミネアという存在が、グスタフの中で、他の人に比べてものすごく小さいというわけじゃなかったのだ。

 ギルファスだけが、別格だったのだ。

『わかったぞ。お前、ギルファスに勝ちたいんだな?』

 昨日息を潜めて聞いた、ガスタールの言葉が耳によみがえる。

 グスタフは黙っていた。図星だったのだろうか、とあの時彼女は思った。そう、図星だったに違いない。『東へ来るな』と言ったのも。全て、ギルファスに勝ちたかったからなんだ。『ハンデにちょうどいいくらいだ』って言われたのが嬉しかったのも。ギルファスが本気になっていることを、知ったからだったんだ。

 ――よく、わかったよ、グスタフ。

「なんだよ、変な奴だな……」

 ギルファスが苦笑している。アイミネアはにっこりして歩きかけたが、最後に振り返った。

 つい、からかうような口調になってしまう。

「にしてもさ、東軍の真ん中にいるミネルヴァを助けに行っちゃうなんて、ちょっとがんばりすぎじゃない? 体が勝手に動いちゃったっていうのはわかるけど。……カッコよかったけど」

 すると。

 ギルファスの頬が、劇的なまでに、一瞬で朱に染まったので――アイミネアは目を見開いた。ギルファスが赤面するところなんて、それもこんなに一瞬で真っ赤になるなんて、生まれて初めて見た気がする。目を丸くするアイミネアの前で、ギルファスは、呟いた。

「そんなカッコいいもんじゃないよ」

 何を言ってるんだろう――耳を済ませるアイミネアの鋭敏な耳に、ようやく届くくらいの小さな声で、ギルファスは呟いた。

「シャティがいるのかと思ったんだ」

 アイミネアはぽかんとした。

 

 ――ミネルヴァじゃなくて、シャティアーナが。

 

 一番初めに、ゆっくりと、脳裏に浮かんできたのは――「うっそお」という単語だった。次の瞬間、彼女は、自分がずっと誤解してきたことに気づいた。ギルファスったら、ずっと、ずーっと、シャティのことが好きだったんだ!

 シャティアーナの前ではあまりにもぶっきらぼうだから、てっきりそれほど好きじゃないのかと――許婚であるということを疎ましく思っているのだと、考えていたのに。

 アイミネアはぽかんと開いていた口を閉じた。

 じんわりと、嬉しさがこみ上げてくる。

 笑い出したいような、踊りだしたいような、泣き出したいような、不思議な衝動に駆られる。

 目の前で真っ赤になっているこの幼馴染を、どつきまわしてやりたい気分。

 でもそのどれもせずに、アイミネアは、ただゆっくりと、笑みを浮かべた。

「――もっとカッコいいよ、それ」

 なんだかひどく、幸せな気分だった。

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