ありがとう
「わ……我々が……やらねば……一体……誰が貴様を……倒せるというのか……グ……ガ……ガハッ!……」
使命感のようにも聞こえるその言葉を吐きながら更に激しくもがくビクター。
その後ろに見えるザビティ・グレンは膝をついて杖を胸に抱えるような姿勢で下を向いている。肩で息をするザビティ・グレンは結界無しで殺気に当てられ苦しんでいるようにも見えるが……杖の先端が僅かながらに光っている。
(何か……するつもりだな)
そう思った瞬間にザビティ・グレンは呟いた。
「はぁ……はぁ……やむを得ませんね…………【略式代償魔法・スリンクゲート】」
直後ザビティ・グレンから強烈な光が差し、辺りが一瞬見えなくなる程に照らした。すると……
(……左手に重さを感じない……)
「…………逃げ……られ……た?」
正面にはビクターもザビティ・グレンもおらず私はただ空に左手を突き出していた。
「ふぅ……終わった…………」
ひとまず目先の危機が去った安堵が口からこぼれた。
後ろにいる姉妹を包んでいる木の根で編み込んだ球体を解除して2人の安否を確認した。
「……良かった……2人とも無事で……」
ただ眠っているだけのネイナとは違ってかなり負傷していたシーザもとりあえずは命に関わる様子ではないことにホッと胸を撫で下ろした。とはいえ、出血や骨折をしているシーザを簡易的に止血だけして、後は眠っているネイナの腰元からまた本を拝借し治療に必要そうな植物を片っ端から生成し、彼女達の周りを薬草だらけにした。
「こんなもんかな……じゃあ、後は頼んだわね……ネイナちゃん」
私はネイナの胸元に本を両手で抱かせる様に返して、スクッと立ち上がった。
『ありがとう……来てくれて……助けてくれて……本当に嬉しかった……シーザさん、ネイナちゃん……』
2人の顔を数秒ジッと見つめた後は、森の奥へと歩みだした。
『……元気でね』
本当は一緒にいたかった……。
本当はおしゃべりしたかった……。
本当は直接感謝を伝えたかった……。
でも、気づいてしまった……このレイスの放つ殺気は……もう人の身で受けるにはあまりにも強大過ぎて命を奪い兼ねないレベルまでに達しているということを。
また【弱】にしようがその効果は恐らく変わらないだろう。自身がバケモノと呼ばれる別次元の強さを持つ存在だと……今しがた嫌という程実感したところだ。
一瞬考えた……まだ現在も欠損した右腕を修復する間なら束の間、彼女達と話が出来るのでは……と。そして更に考えた……今分かっているレイスの仕様はすべて自身で手探りし尚且つ予測を交えて断定的に当てはめた……あくまでも仮説に過ぎないのだ。もし以前より強くなったレイスが修復中でも殺気が出るようになったいたらどうする?そもそも、修復に消耗するレイスの樹力に余力がなかったが故に殺気が止まっていただけだとしたら?
【修復中はレイスの能力を行使出来ない】という仮説が間違っていた場合、その代償は【姉妹の死】だ。
そんなリスクは負えない。
それが自分が出した答えだった。
不意に姉妹のどちらかが起きてしまう前にその場を退散した。
道中……ビクター達と戦っていた場所から少し離れたところに『別に植物』を生成していたのを思い出したので頃合いをみて解除した。
『あなたも……ありがとうね』




