感覚共有
その答えは彼女の姿勢を見て分かった。
ただの蹴りだ。
単に蹴りを腹にくらってここまでふっ飛んだのだ……何をされたのか一瞬わからなくなるほどの速さで。
なんらかの言葉を発した直後の彼女のパワーは先程とはまるで違う。身体能力でも向上させる魔法か何かなんだろうか……彼女の身体がうっすら白く光っているように見える。問題はレイスにダメージを与えはしないものの本を取って見ることは疎か、ネイナに近づくことすら容易ではなくなってしまったことだ。
「このままじゃ埒があかない……」
故に……強行手段のやり方を変えることにした。
ーーまず彼女を止めるっーー
幹の抉れた木にもたれ掛かったままレイスの力を行使して、ネイナを背にして立ちはだかる彼女の足元から木を生やしたっーー。だが、いとも簡単に避けられる。諦めずに彼女が避けた先に一本……更にもう一本と木を生やしては避けられを何度か繰り返した。
かすりもない。
まるで、こちらが木を生やす能力を事前に知っていたかのように動揺する様子もない。
木を絡ませて動きを封じる策はあっけなく失敗……さらに繰り出した木を全部避けながら距離を詰める彼女は双剣で私を薙ぎ払った。
「………………ハァッ!!ーー」
「ーーくっあっ!!ーー」
レイスの身体はまた別の木にぶつかり木の葉を散らし尻もちをついた。攻撃されようとも視界が揺れるだけでダメージのない私は木に激突しながらも考えていた……。
木が地面から出て彼女の身体を枝に絡ませるまでが遅すぎる。その上、彼女は僅かな地面の振動を察知して木が地上に出た瞬間にもう移動している。
あくまで自分が……レイスが操っている力である以上、この能力に強弱をつけられるのではないかと考えた。
速く……より速くと……イメージして、尻もちをついたまま無意識にレイスの両手の五指を地面に突き立てて上体は前のめりで俯向く体勢になった。
突き立てたレイスの五指から波紋が広がるように地面に感覚を伸ばしていく。それが彼女の足元まで到達した瞬間に改めて木を生やした。
直後、布が破れる音が聞こえた。
「ーーっ!!な!?速いっーー」
顔を上げて見ると、狼狽する彼女はすんでのところで木を躱した後、レイスから距離を取っていた。生やした木の枝には彼女の破れた服の一部が付いている。彼女の表情を見るに……先程までの木の速度の違いに驚いているようだ。
視覚による座標指定をやめて、レイスの感知能力と感覚共有を駆使して反射で木を生成したことによって速さに意識を向けることが出来た。
感覚共有は以前に生成した木が耳の役割をしていることに気付いたことで分かった能力の応用で森の地面に“触覚”を共有して反射的に彼女の足元の地面を特定した。自分が生やした植物でなくても感覚を共有できる、ということを知っていた訳じゃない。地面そのものにも感覚が共有出来るかも……なんとなくそう思った。そして試してみると……なんとなくで出来てしまった。
もしかして……森のレイスというバケモノは
【森そのものを行使出来る存在】なのかも知れない。
そんなことを考えていると、正面から凄まじい闘気のようなものを感じた。
「……ふぅーーーー……」
長く大きく息を吐く彼女は先程とは打って変わって冷静に見える。それでいて、こちらを見据える目は真っ直ぐでギラついている。……仕掛けてくるつもりだ。
ーー来るっ!ーー
彼女が視界から消え、物凄い速度で森を駆ける。左右に撹乱しながら徐々に迫ってくるのが感覚共有した地面から伝わってくる。もう視覚で動きを捉えられない速さの彼女を感覚共有と感知能力を駆使して全力で探る。
「ーーっっふんっ!!ーー」
気付いた時には得物を振りかぶる彼女がいた。右手武器による真正面からの恐ろしく速い刺突!
だが、彼女の振りかぶった腕は伸びることは無かった。
「ーーっっな!?ーー」
彼女の肘の内側関節に当たるよう細い木を生やして腕の動きを止めたのだ。力の入る前の関節になら細くて強度のない速さ重視の木でも十分に動きを止めることが出来た。
「ーー捕まえたっ!!」
すかさず足元に木を生やして彼女を絡め取ろうとした瞬間、今度は彼女の身体の白い光が赤くなっていった。
【ーーーー霊装騎纏・赤っ!!ーーーー】




