脱獄囚
村で暴れた大男を馬小屋に繋いでいると村長から聞いたのでそこに向かった。馬小屋に入るなりすぐに目に映った男は数日前に王都を脱獄した囚人だった。
「ガスター・ギルマークね。あなたの脱獄を手引きした人物が誰か答えなさい」
四肢を縛り上げられているガスターは地面に突っ伏しながらもなんとか私を視界に捉える。
「誰だテメェは……なんでもいいけどよぉ、これ解いてくれよ。女ぁ」
「質問に答えなさい」
「知らねぇなぁ、でも解いてくれたらよぉ……もしかしたら思い出すかもなぁ、あとアンタみたいな綺麗なねぇちゃんが色々サービスしてくれたら口も軽くなるかもなぁ、へっ……へへっ……」
ガスターは私の胸やスリットから見える脚を舐めるように見ながら気味悪くヘラヘラと笑みを浮かべる。
不愉快極まりない……。
「はぁ……言わないなら別にいいわ……」
2本持っている剣の内の1本を手を掛ける素振りを見せたその時、ガスターは焦るように口を開いた。
「ーーちょっ!ま、待て!待てよ!!?何する気だ!?」
制止する言葉も聞かず、剣を抜いて一歩近づいた。
「何も話さないなら……生かしておく価値はないわ」
「囚人を勝手に殺していいのかよっ!」
「脱獄した囚人を追跡中に殺してしまうことなんてよくある話でしょう?」
「じ、じゃあ話したら逃してくれんのか!?」
「逃がすわけないでしょ、警ら隊に引き渡すだけよ」
「ーークソッ!」
「そういえば……村長の話によれば3人でこの村に来てたみたいね?あとの2人はどうしたの?その2人が脱獄の手引きをしたの?あなたは脱獄の見返りに何を要求されたの?この村に来た目的は何?」
まくし立てるように質問をした。
この場所はお世辞にも居心地が良いとは言えない、家畜のそれとは別でこの男から出る体臭なのかわからないが特に臭いが酷い……だから早く用事を済ませて馬小屋を出たかったからだ。
「テメェ……一体なんなんだ?」
「王都の騎士よ、さあ答えて」
「…………くっ」
「……わかったわ、死になさい」
抜き身の剣を持ったまま更に一歩近づいた……。
「ーーおい!待っ!わかった!話す!」
「なら早く言うのね」
斬ろうとする動きを止めずに淡々と催促する言葉を口にした。ガスターの焦りはピークに達する形相を見せる。
「ーー灰色のローブの騎士だっ!顔は見えなかったが声は聞いた!お、男だっ!」
「……続けて、知ってることを全部言いなさい」
あと一挙動でガスターを殺せるところで動きを止めて問い詰める。
「そいつに連れられて王都へ出て、その後で別の2人の男と合流したんだ!そいつらと、この村の【ある男】を殺せって灰色のローブの騎士に言われてやってきたんだ!報酬も出すって言っていた!」
「【ある男】ってのは誰?」
「名前もなんも知らねぇ!それをちゃんと知ってるのはオレじゃなくてあとの2人だ!」
「2人はどこに?」
「あいつらどこに行ったかなんてわからねぇ!変なモンスターが出てきて2人はオレを置き去りにして逃げやがったんだ!オレはそいつに邪魔されて失敗したんだ!」
モンスター?……モンスターが【ある男】の殺害を阻止した?そもそもモンスターが人を助けるなんてあり得るの?……もしかして、こいつ嘘をついて……。
ジッと男を観察した。
その疑いの目を察したのか、ガスターは言葉を続けた。
「ーー本当だっ!嘘は言ってねぇ!そうじゃなかったらオレはこんなクソみたいな馬小屋に繋がれてねぇよ!」
この状況で嘘をつくにしては妙な話だなとは思った。
「まあ、いいわ。最後にあんたが殺し損ねた【ある男】の特徴を教えなさい」
「オレらが見つけたときには何故か意識がなくて死にかけの状態で運ばれてて……身体に……葉っぱがたくさん貼ってあった……ような……気が……」
葉っぱ……?
今ひとつ要領を得ないその時の状況をしぼり出すかのように思い出すガスターの歯切れは悪い。
「……わかった、もういいわ」
これ以上は大した話を聞けそうにないので抜き身の剣をしまって馬小屋を出た。
馬小屋の中に充満していた悪臭が自分の服や髪についてやしないかと、胸に乗った毛束を摘んで臭いを気にする素振りをしていると遠くから大声を出してこっちへ走ってくる者を遠目に捉えた。
「おねーーちゃーーん!ーーおねーーちゃーーーーん!」




