名家ビスタバン
レイスが目視出来る距離に2人の人影を捉えた。
「いいか!予言の特級クラスのモンスターを僕が倒して父に力を示す。兄さんではなく、この僕こそが名家ビスタバンの次期当主の器に相応しいとな!」
「坊っちゃん。勇ましいのはいいですが、特級モンスターを相手に勝算はあるんです?」
「安心しろ!予言者の話によるとアンデッドカテゴリーの特級モンスターだということが分かっている」
「はあ、で?」
坊っちゃんと呼ばれた男は懐から何かを取り出した。
「つまり!この絶瘴石を持っているこの僕に負けはないとゆう話だ!ってオイ居たぞ!あれじゃないのか!特級クラスの!」
傭兵風の格好をした男性と貴族風でぽっちゃり体型の坊っちゃんと呼ばれていた男性の2人組はこちらに気付いて歩みを止める。傭兵風の男は剣を構え、坊っちゃんはヘラヘラとした表情でこちら見ている。3人程いると思っていたが違っていたようだ。
「おい!そいつ両腕がないぞ。手負いだ!これは楽勝なんじゃないか」
あ……そういえばそうだった。
いや、そんなことより!彼らはすでにこちらを認識している。こちらも彼らを認識している。つまり、レイスの殺気にあてられているはずなのだが、彼らにそれらしいリアクションは見て取れない。そもそも、不動時のステルスが発動していないことも気になる。
「坊っちゃん!その絶瘴石は何をするものなんです?」
「とくと見るがいい!この絶瘴石はアンデッドの発する呪いや瘴気の類いを吸い取り、場を浄化することによりアンデッド自体も弱体化させるという!そして!更に!僕が持っている絶瘴石は最高純度でしかもデカい!超超ちょぉぉお高級品なのだ!」
坊ちゃんはソフトボール大くらいの大きさで黄色に薄暗く光る絶瘴石を懐から出して傭兵に見せた。
「名家ビスタバンの財力とコネクションをもってすればこの程度造作もない……ってあれ?こんな色してたかな。もっと緑色だったような」
坊っちゃんは絶瘴石をじっと見つめた。そして、見る見るうちに絶瘴石は黄色からオレンジに色が変わっていくのを目の当たりにして坊っちゃんの顔色も変わっていくのが分かった。
「そんな!なんで!どうゆうことだよぉおおおおお!」
「どっ!どうしたんです?坊っちゃん!」
「もうオレンジだなんてありえない!半永久的に使えるほどのキャパがあるはずのサイズなのに!」
坊っちゃんが喚き散らしている間にも絶瘴石はオレンジから赤に色が変わっていく。
そして更に赤黒く色を変える次の瞬間、パキッと音を立てて割れた絶瘴石は坊っちゃんの手から地面へ落ちた。
「そんな……バカ……な」
坊っちゃんは小さく呟いた後に泡を吹いて地面に倒れた。
先程まで絶瘴石のおかげで無効化していたレイスの殺気をモロに浴びた結果だった。
「……坊っ……ちゃん……」
傭兵風の男は坊っちゃんを気にかけながらも地面に剣を突き刺し、それでなんとか身体を支えて倒れまいと踏ん張っている。が、10秒も保たずにパタリと地に伏した。