最強
木漏れ日と風にざわめく森をアラームに目が覚める。
「……行くか」
再び森を進んだ。
しばらくすると妙な違和感を感じる。見られているような。……更に森を進むとその感覚は少し増した。不愉快な感覚だ。
「一体どこにいるってんだぁぁあ!?レイスとかゆう、おとぎ話のバケモノはよぉお!!」
違和感を振り払うように思わず声を張り上げた。
前方に木々のない開けた空間があり、真ん中に建物が見える。歪な形をした木でできた、かろうじて家とも言えなくもないそれの前に "ヤツ" がいた。
「おっ!マジでいやがったなぁオイ……そこが棲家か……」
急に身体中に纏わりつくような強い殺気を感じて吐きそうになる。道中で会った親子が森のレイスと称したこの化け物の放つ殺気を浴びて全身が警鐘を鳴らしている。
これまで自分の力でどんなモンスターでも倒してきた。大陸で名の知れた狩人でも手に余る程の災害とも謳われる数々の特級モンスターだろうと単騎で屠ってきた。己こそが最強と自負してきた。その自信が根底から揺らぐほどの恐怖を感じる。
……こいつは……正真正銘のバケモノだ。
武器を構え、真っ直ぐに敵を見据えた。奢りは……一切なしだ。
「……ョ、……ッテ……ツイ……ダ……イ……」
ーー何か唱えている!呪文か!?させるか!
「ーーア・ヴォルグ!」
レイスの目の前で爆破を起こして、その瞬間に間合いを詰めて胴を切り落とすつもりで武器を振りかぶった。
避けられることもなく驚くほど簡単に直撃させた胴への一撃はレイスの身体を切断することなく棲家の方向へぶっ飛ばした。
それにしても……手応えがなさ過ぎる。
「キレイに一撃入ったはずなんだがな……切断出来ねぇのは一体どうゆう訳だぁ?」
頭で考えていることがつい口に出る。この異質なモンスターを眼前にして虚勢を張っていないと冷静でいられないことに自分でも気付いていた。
「……いつまで寝ているつもりだ、あんなもんで終わるわけねぇよな?森のレイスさんよぉ」
呼びかけに反応するように起き上がるレイスを見て更に濃い殺気を全身に感じた。
怖い。冷や汗が止まらない。逃げてしまいたい。1秒後に自分が死んでいるイメージがずっと頭から離れない。
「ア……」
ーー動く!レイス何か唱えて動く動作を瞬時に察して後ろに飛び退いて、さっき目眩しで使った爆破魔法のヴォルグを今度は直接当てる。威力も10数倍に上げる。
「ーーデア・ヴォルグ!ーー」
爆発の轟音が鳴り響き、粉塵が立ち昇る。
デア・ヴォルグを使える術師は大陸に自分の他に師匠以外に知らないほど稀有な術式だ。対象の撃滅に特化したこの術式を喰らって無事で済むものなど存在しない。
……存在しないはずだった。
「おいおいおい……マジかよ……」
少しずつ晴れる粉塵の中にレイスの姿が見える。まるで何をされたのか分からなかったかのようにレイスは自身の身体や四肢に視線をなぞらせている。レイスはほぼ無傷だった。
その仕草を見た瞬間、冷静さを失った。
「おおぉおおおおおーーーーっ!」
叫びながらレイスに何度も切りかかる。レイスは自らの爪で渾身の連撃を弾いて少しずつ後退していく。空きだらけの斬撃の合間にレイスは反撃すらしてこない。
「何なんだぁあ!!お前はぁっ!」
クソッ!ーークソッ!ーークソッ!!殺される!俺はこいつに殺される!!こいつは強すぎる!!俺以外に一体だれがこんな奴を倒せるんだ!!俺が!俺が最強なのに!!
「あの、一回戦うのやめませんか?」
何か聞こえた気がしたが、今はそれどころではなかった。
「俺が!この俺が!!こんなところで負けるわけにはいかねぇんだよーーっ!!」
こいつはここで俺が差し違えてでも倒す!自身の命を投げ打つ覚悟決めた瞬間に冷静さを取り戻した。
「あーーの!!一回……」
また何か聞こえたような気がするが……今はどうでもいい。やるべきことやるだけだ。
「この至近距離ならタダじゃ済まないぜぇええ!?喰らえ!!」
「え?」
弾かれた斬撃の瞬間に武器を捨て、両手をレイスの顔面にかざした。
「ーーイデア・ヴォルグーー」
デア・ヴォルグより更に強い術式をゼロ距離で叩きこむ。自身をも巻き込む爆発は白く強烈な光を放ち直後に凄まじい轟音を響かせた……。




