表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンマスクより「僕」  作者: 美憂


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/18

サッカーをする理由

僕は「ボールは友だち」って意味を間違えてた。


僕は、サッカーが好きだ。

だから、サッカーを続ける。だから、ドラゴンマスクを続ける。


ドラゴンマスクは、律から情報をもらって、かあちゃんを助けている。

だから、本当は、正体なんて筒抜けなんだと思う。

律もバカだが、僕も不器用だ。

うまく隠せているかと聞かれれば、全く自信はない。

これで気づかれていないとしたら、かあちゃんも大概だと思う。


でも、かあちゃんは何も言わない。

だから僕も、何も言わない。

ドラゴンマスクのおかげで(自負!)、かあちゃんはサッカーを続けている。


たぶん。

いや、そう思いたい。


最近のかあちゃんは、LINEでもずっとサッカーの話をしている。

筋膜ローラーがどうとか、タンパク質がどうとか、DFラインがどうとか。四十代の会話じゃない。


それから、最近かあちゃんは「りん」と呼ばれているらしい。サッカーは声がけの大事なスポーツなので、サッカー教室では短いサッカーネームをつけて呼び合う。かあちゃんは養生テープにマジックで『鈴』と書いて練習着に貼ってある。律がそう呼ぶのは、なんかムカついた。別に変な意味じゃないのは分かってる。律は昔から、そういう距離感の人だ。


でも、僕の知らないところで、かあちゃんが“プレイヤー”になっていく感じがした。


その姿は楽しそうだった。


いや。

楽しそう、だけじゃない。

苦しそうだった。


律の女子チームに入ってから、かあちゃんは明らかに変わった。

試合に勝った日でも落ち込んでいる。

練習後、立ち上がれないくらい疲れている。

でも、次の日にはまた動画を見ている。回転数でわかる。かあちゃん専用のドラゴンマスクのYouTubeなのだから。


正直、心配だ。

そこまでして、なんでサッカーやるんだろう。


でも、その顔を見ていると、少しだけ分かる。

かあちゃんは今、「遊び」でサッカーしてない。

ちゃんと、勝ちたいんだ。


ある日、こっそり練習を見に行った時だった。


「走れよ!」


キャプテンの瑠の声がグラウンドに響いた。瑠とは、かあちゃんがサッカーを始める前にサッカー教室で会ったことがある。スピードがあって上手い。そして、めちゃめちゃ気が強い選手だ。


「そこ止まるな!」

「ちゃんと寄せろ!」


かあちゃんが、膝に手をついていた。息を切らしているかあちゃんに向けられている言葉だ。ノロノロと走り出す。


でも、瑠は止めない。


正直、ムカついた。命令口調かよ。

そんな言い方しなくてもいいだろと思った。

かあちゃんは初心者だ。

四十代だ。

仕事もしてる。


その上で、あんなにボロボロになるまでやってるんだ。一生懸命、やってるんだよ。


次の瞬間、瑠が吐き捨てるみたいに言った。


「そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ」


その言葉が、なぜか僕に刺さった。

胸の奥が、少し痛かった。


僕は今、J3のクラブにいる。


プロだ。一応。

でも、降格した。


試合にも出られない。

ベンチに座って、終わる試合もある。


それでも、僕は“プロ”だ。

男子サッカーは、下のカテゴリーでも続けられる。

環境がある。

リーグがある。


仕事とサッカー両立できる。

でも、女子は違う。


瑠は、サッカーする場所そのものを守っているんだ。8人しかいなくても、試合を成立させようとしている。いや、勝つためのサッカーをしようとしてる。


僕は、そんな場所に立ったことがない。


どこかで安心していた。プロだから。

若いから。体格に恵まれてるから。

カテゴリーがあるから。

いつか試合に出られるかもしれないから。


でも、本当にそれだけでいいんだろうか。


『そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ』


僕には、足りないものがある。ずっと、そう思っていた。とうちゃんが持っていた“エゴ”。ゴールを奪いに行く熱。


今、少しだけ分かった気がした。

足りないのは、それだけじゃない。


その夜、僕はドラゴンマスクとして、かあちゃんに送った


『サッカーの神様がいる国』を買った。

自分でももう1度読み返し、付箋を貼る。


『本気でサッカーをする人間に、年齢は関係ない』


その言葉を声に出して読んだ。

僕の中で何かが動くのを感じた。


僕は、サッカーを続けられることに、甘えていたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ