1.プロローグ
これは、鳳環大陸に生きるすべての者が知る“はじまりの物語”。
まだ国という概念すらなかった時代。
人は争い、土地は焼け、川は濁り、大地は死にかけていた。
古い記録には、こう残されている。
「空は灰色に閉ざされ、季節は巡らず、生まれるものより、失われるものの方が多かった」
そんな中、ひとりの女が現れる。
それは、この大陸には存在しない色。燃えるような赤髪を持つ女。
どこから来たのか、誰も知らない。だが、ひとつだけ確かなことがあった。
彼女の歩いた場所だけ、草が芽吹いたのだ。朽ち果てた大陸に色がついた瞬間だった。
女はやがて、大陸の中心へと辿り着く。
そこは戦の最果て、無数の屍が積み重なる「終わりの地」。
女は、突然、その中心で自らの血を大地へと捧げた。
大地は震え、空が裂ける。炎とも光ともつかぬ存在が、眩しい光を浴びて天より降り立つ。
鳳凰。
鳳凰が翼を広げた瞬間、死にかけていた世界は息を吹き返した。
焼けた大地に命が戻り、枯れた川は流れを取り戻し、崩れた山は再び形を成した。
そして、ひとつだった大地は、鳳凰の形をなぞるように、「頭」「首」「背」「尾」「顎」 五つの領域へと分かたれた。後にそれは、五国の原型となる。
鳳凰が天へ還るとき、赤髪の女の身体は光に溶けていった。
消えゆくその瞬間、彼女は人々に言葉を遺す。
「赤き髪の双子が生まれし時、再び、あれは地に降りる」
そして女は、風に解けるように消えた。
彼女が鳳凰を召喚したのか、それとも彼女自身が鳳凰そのものだったのか、今となっては誰も知る由もない。
ただ、その場には、金色の盃が残されていた。
——それ以来。大陸の民は待ち望んでいる。
再び、鳳凰が大地に降り立つことを。
赤髪の双子が生まれることを。




