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婚約破棄されたはずなのに、全然自由ではありませんでした!  作者: あけはる


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第1話

新しく短めの連載を始めました。

楽しく読んでもらえたら嬉しいです!


「――よって、エルフェルト公爵家令嬢リリアナ・エルフェルトとの婚約は、ここに破棄とする」


 静まり返った謁見の間に、その声はよく響いた。


 告げたのは、この国の第一王子にして王太子――

 アルベルト・ヴァルツェンリード殿下。


 私は一瞬だけ目を閉じ、それから顔を上げる。


「……承知いたしました、殿下」


 謁見の間に集まった貴族たちのどよめきが聞こえる。


 公衆の面前での婚約破棄、公爵令嬢としてのプライドがズタズタになってもおかしくない。

 リリアナが涙ひとつ見せないことが意外だったのだろうか。


 けれど。

 リリアナに迷いはなかった。


 優雅な所作で退室する”帝国一の令嬢”。


 独り去っていくリリアナの美しい背中を、

 あっけにとられた貴族たちの目があてもなげに追っていく。


 ――ああ、ようやく、終わる。


 胸の奥にあった重苦しさが、ゆっくりとほどけていった。





「異論はないな、エルフェルト公爵」


 王太子アルベルト・ヴァルツェンリードは淡々と告げる。


「……ございません」


 リリアナの父――フリードリヒ・エルフェルト公爵は

 わずかに目を伏せただけだった。


 それで十分だ。

 この婚約が“家”のためのものだったことなど、皆最初から分かっていたのだから。


---


 謁見の間を辞したあと。


「お嬢様……本当に、よろしいのですか」


 控えていた侍女、マリア・ベルンシュタインが不安げに尋ねる。


「ええ」


 私は微笑んだ。


「むしろ、少しだけ――息がしやすくなった気がするの」


 マリアが驚いた顔をする。


 無理もない。

 王太子との婚約破棄など、本来なら“破滅”に等しい。


 けれどそれは私にとっては


 ――解放だった。


---


 アルベルト殿下は、完璧な方だった。


 王太子としても、人としても、何一つ誤りがない。


「外出の予定は事前に提出を」

「交友関係は選別するべきだ」

「その判断は合理的ではない」


 すべて正しい。

 すべて私に必要だから。


 だから誰も、それを疑わなかった。


 けれど。

 全て私に必要なことだとわかってはいるのだけれど。


 息ができなかった。

 まるで真綿で首を絞められるような日々。

 

 じわじわと手足をもがれていく思いだった。



---


 その日。


 私は初めて、誰の許可もなく街を歩いた。


 エルフェルト公爵家の令嬢としてではなく、ただの“私”として。


「……こんなに、自由なものなのね」


 小さく笑みがこぼれる。


 ふと目に入った雑貨店に足を向ける。


 今までなら、「不要」と判断されていただろう。


 けれど今日は違う。

 

「あのお店、入ってみようかしら」

 

 重荷をおろしたリリアナの足取りは軽かった。


---


「お気に召したようで良かったですね、お嬢様」

「ええ、とっても。付き合ってくれてありがとう、マリア」


 と、笑みをかわしながら二人が雑貨店を出た、その瞬間。


 ――轟音。


 顔を上げると

 大きな音を立てて走っている馬車。

 

 猛スピードでこちらへ向かってきている。


「お嬢様……!」


 身体が動かない。


 ―――そのとき


 強い力で腕を引かれた。


「危ない!」


 次の瞬間、馬車は目の前を通り過ぎていった。


 あと一歩遅れていたら、確実に轢かれていた。


---


「大丈夫ですか」


 落ち着いた声。


 振り返ると、騎士服の男が立っていた。


「……ありがとうございます」


「王都警備隊、隊長補佐のルーカス・グラーフです」


 軽く一礼される。


 名を返そうとして、少しだけ迷った。


 もう“王太子の婚約者”ではない。


「……リリアナ、と申します」


 そう言うと、彼はわずかに目を細めた。


---


 屋敷に戻ったが

 胸のざわめきは消えていなかった。


 あまりにも、出来すぎている、気がする。



 机の上に、一通の手紙が置かれていることに気づく。


「……?」


 こんなもの、さっきまではなかったはずなのに。


 封を切ると、見慣れた筆跡。



『本日の外出、危険を伴うと判断した』


 心臓が強く跳ねた。


『予定外の単独行動は推奨しない』


 手が震える。


『安心してほしい』


『君の安全は、すべてこちらで管理している』



 息が止まる。


 これは。

 これは、間違いなく


「アルベルト殿下の筆跡だわ・・・」


 

 窓の外に気配を感じ顔を上げる。


 夜の闇の中、街灯の影に一人の男が立っている。


 整った立ち姿。


 見間違えるはずがない。


---


「……アルベルト殿下」


---


 彼は、ゆっくりと微笑んだ。


 あの、変わらない、穏やかな笑みで。


”安心して、リリアナ”


 声は届かないはずなのに。


 なぜか、はっきりと聞こえた気がした。



”君の人生は、これからも僕が守る”


 その言葉は。


 かつては、何よりも安心できるものだった。


 けれど今は

 ただ、恐ろしい。


 私はようやく理解した。


 婚約は、確かに破棄された。


 けれど―――


 **王太子アルベルト・ヴァルツェンリードの“愛”は、終わっていないのだと。


最後までお読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけましたら幸いです。

もしよろしければご評価やブクマなど応援いただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします!

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