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メガリス14

 石が柱に当たって音を立てる。

 視界は良好。とても数えきれないほどに大量の敵だが、それでも正確な数と位置関係、そしてそれぞれの装備が頭の中に流れ込んでくる。

「目標群設定」

 その無数の敵を、位置関係から頭の中で三つのグループに分ける。

 そして――突入。


「ッ!!」

 踏み込んだ瞬間に正面=目標群Aの一体が反応して一歩前へ。

 だが、遅い――いや、逆だ。奴のスピードは変わっていない。

 イージス=同時に100以上の目標を捕捉し、脅威判定とそれに基づいた行動を瞬時に決定し、常時状況の変化を反映して最善を選択し続けるこの能力は、ジェネレーター内のマナを最大出力で放出し続けることで、その選択を確実に実現できるレベルにまで一時的に身体能力を向上させる。

「ギッ――」

 最初の一体が、その一歩目を床に着けるよりも前に奴の懐に飛び込み、すれ違いざまにがら空きの胴を払う。


「ッ!」

 その勢いのまま正面にいる別の個体を袈裟懸けに切って捨て、すぐさま振り返ってもう一体を同様に始末する。

「ここ!」

 その段階でようやく放たれる反撃=群衆の間を割るようにして伸びてくる槍を半身になって躱し、即座にその柄を斬り飛ばす。

「っと」

 同時に飛んできた矢を屈んで躱し、立ち上がりざまに槍の奴の手前にいた相手の脛を斬り飛ばして転ばせる。


 もう一つの集団=目標群Bがなだれ込んでくるのを脇目に捉える。既に俺は部屋の中。

 周囲の敵が減ったところで連中の頭が状況に追いついたのだろう。数を頼りに押し包んで始末しようという腹のようだ――それがイージスの最も得意とする相手とも知らず。

「ッ!!」

 瞬間、稲妻のように脳内に流れ込んでくる三次元情報=無数の石と矢の速度、高度、未来位置、そしてその中で対応すべきものと、集まって来る敵の対処をしつつ採るべき回避や迎撃の手段、それらを含んだ行動の詳細。

 そして、それら全てが条件反射の如きスピードで実行されていく。

 当然その時には目標群Bの後ろ、弓兵と投石手を多く含む目標群Cが一斉に攻撃を開始したという事実は分かり切っていた――どの個体がどれを発射したのかまで含めて。


「しっ!」

 飛び来る矢に突っ込むように突進。

 突然目の前に現れたように見える敵に慌てて槍を突き出そうとするゴブリンをいなして右にすっ飛び、その横にいた別のゴブリンを斬る。

「よっ……と」

 同時に身を屈め、その死体に変わったばかりのゴブリンを掴んで突き飛ばすと、奴の背中に二本の矢が突き立てられる。

 全ての矢や石に応じる必要はない。接近する敵との戦闘の妨げになるものだけ対処すればいいし、それらだって俺に届く前になんとかできるのならしてしまえば、その間別の事に対応できる。

「ギギィッ!?」

「そこだ!」

 狙いを外した投石が後頭部に命中して怯んだゴブリンの隙をつくだとか、そういう事が。


「ギギッ!!ギギッ!!!」

 連中が叫びながら、尚も前進を続ける。

 既に出入り口付近は斬られたゴブリンの山になりつつあるが、それでもまだ進んでくるのは、ガードに率いられた者達は外にいる普通のゴブリンとは違うという事か。

「そろそろか……」

 それまで相手にしていた目標群Bの、槍を先頭に突っ込んできた奴をいなして再び目標群Aへ。途中一度だけ左に動けば、再度降り注ぐ石は当たらない。


「3、2、1……ここ!」

 刀を左手に任せて右でダガーを抜き、更に一歩跳び込む。群衆を飛び越えたバーゲストが、大きく開いた口でそのダガーを飲み込むように突っ込んできた。

 予想通りのタイミング。予想通りの軌道。

「よし」

「ギャ!!?」

 想定通りにダガーを喉の奥に押し込めて手を放し、下から切り上げる左手の動きに合流、すぐ後に続いたもう一匹のバーゲストの首を下から斬り飛ばし、返す刀で突きだされた槍の穂先を落とすと、その時真横にいたゴブリンを、体の向きを変えつつ後ろ蹴りで距離を開かせ、その反動で前進してまだ穂先の残っている別の槍持ちの両手を落とす。


 その時、連中の包囲網が一瞬崩れた。


「ッ!!」

 即座に行動を変更する。獣道ほどの細道だが、正面に出来た突破口へ突入。

「ギィッ!」

 待っていたとばかりに弓に矢をつがえるゴブリンの弓兵。

 だがその動きの中で早かったのは攻撃を諦める判断だけだった。

「ギギャッ!!!」

 既に目の前に迫っている相手に碌に狙えてもいない矢を急いで放つが、今の俺には相対速度でさえ止まっているようなもの。

 奴が二の矢をつがえるより、或いは自分が放った矢が外れたと確認するよりも前に奴を斬り、すぐ横にいた投石手もまた、スリングを手に取るより前に後を追わせる。


「おおっ!!」

 そのまま、ようやく敵が背後に回ったことに気付いた残りの目標群Aにすぐさま反転して突入。サイズ故に取り回しに劣る槍持ちは後回しにして棍棒持ちを片付ける。

「来たか」

 一体の棍棒持ちを始末し、その死体をもう一体に向けて蹴り飛ばし、ようやくこちらを捕捉した槍持ちに突撃すると、慌てて突き出して来た槍を払い落として逆袈裟に斬り、背後に追いついた死体を押し付けられた棍棒持ちの攻撃を刀身で受け止めながら振り向いて持っている右手に刃を押し付ける。

「ギュギィッ!!!」

 叫び声を上げながら棍棒を取り落したそいつを掴んで足を払うと、体勢の崩れたそいつを人質にとるようにして拘束しつつ振り向くのは目標群Cの方向。


「2、1……」

 放たれた矢のうち、命中しそうなもの全てを拘束したそいつに任せる。

「矢3本石1個」

 カウントを終えた直後にゴブリン越しに伝わってくる四度の衝撃。フレンドリーファイアに倒れたそいつ=目標群A最後の敵を突っ込んでくる目標群Bの槍に突き刺して捨て、即座に向きを変えてもう一体の槍から距離を取る。


「3秒後……、ここ」

 カウントと同時に一歩横にすっ飛び、背中のあった場所を通り抜ける矢を見送ってから、追いかけてくる槍持ちに背を向け、目の前の柱で三角飛びして振り向く。

「ギッ――」

 追ってきたそいつが、最後に何を見たのかは分からない。

 少なくとも自分の槍よりも上から落ちてきた相手の刃で首が飛ぶなどとは、思ってもいなかっただろう。


 そのジャンプ中を狙っていただろう目標群B最後の矢を躱し、目標群Cの追撃を避けるために連中の中へ。突き出された槍を踏みつけ、バランスを崩したそいつの背後にいる棍棒持ちを斬ってから槍持ちの背中に一撃喰らわせ、その背後から飛び掛かって来たバーゲストを振り向きざまに刃で迎撃。

 口の上下で分けられたそいつに一度刀を預け、振り下ろさんとする棍棒の懐に飛び込んでその腕を極め、後方からの振り下ろしの盾にして頭をカチ割らせると、味方をやってしまったそいつにバーゲストから引き抜いた勢いのまま居合の様に切り捨てる。


 直後、そんな俺の頭上を一本の矢が通過――それまでとは反対方向に。


「ナイス」

 それが何なのか、目で追わなくても分かっている。

 それよりも、背後からタックルして拘束し、仲間の棍棒で仕留めようとした二体一組への対処が先だ。

「ふん……」

 掴まれて、その相手に一度体を預けて棍棒を持って突進する正面の相手に蹴りを入れ、動きが止まったところで体格差と突然体重を預けられたことによる体勢の崩れを利用して投げる。

 同時にステージ付近で爆発。目標群Cの壊滅が脳に伝えられ、同時に蹴り倒した相手と投げ飛ばした相手とにそれぞれ止めを刺す。


「ヤベ……やべぇぞ」

 ぼそりと漏らしたのはステージ上の男。

 再度出現したワームホールが無数の触手を吐き出して再び男を避難させようとする。

 それを流れてくる情報で確認しつつ、残った目標群Bを始末。

 同時に入り口から叫び声ともう一本矢が飛んだ。

「逃がすか!」

 その一撃は過たず男を抱えたソファー型の、その根元を吹き飛ばした。

「おわっ!?」

 尻もちをついた男。

 それを目視した時には既に、俺はステージに駆けあがっていた。


「終わりだ!」

 奴が立ち上がる。

 立ち上がって――そこで時間切れだ。

「ま、待て――」

 言いかけたその言葉を、袈裟懸けの斬撃で塞いだ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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