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メガリス12

「チィッ!」

 手の中のダガーを構えなおしつつ、より敵との距離が近い右の方へと斜めに動く。

 一歩動いたところで向こうの間合。振り下ろされる棍棒をダガーの鍔元に両手を合わせて受け止める。

「ギィッ!!」

 小癪な――とでも言いたいのだろうか、そのまま棍棒を押し込もうと奴が腰を落とした瞬間、その股間を思い切り爪先で蹴り上げる。

「ッ!!??」

 声は出なかった。

 何かの動物の革だろうか、腰巻だけは纏っているゴブリンの、その下がどうなっているのかは分からないが、少なくともこの攻撃が有効であったことだけは分かる。


「ギッ――」

 何が起きているのか分からない後続に、その悶絶している一匹を蹴り飛ばして押し付け、そのころ同時に視界に収まっていた3時方向からの襲撃に対してこちらから一歩踏み込み、棍棒の根元を籠手で受け止める。

「ぐっ……」

 力の入らない根元の部分を籠手で受けたとはいえ、衝撃自体はしっかりと伝わっている。

 だが勿論、それで止まっている場合ではない。

「おおおっ!」

 衝撃を受け止めたまま腕をスライドさせて二の腕の辺りを下から持ち上げるようにして抑え、空いている右手に持ったダガーを喉元へ。

「ギッ」

 短い悲鳴。すぐに抜き取ってそいつを突き飛ばしながら振り向き、未だ悶絶している最初の奴を躱したもう一体にこちらから仕掛ける。


「シッ」

 下からの順手突き上げ。棍棒を地面と水平にして抑えられるが、その瞬間に手を引いて逆手に持ち替え、アイスピックのように上から首に突き下ろす。

「ギィッ!?」

 ダガーを先頭に体ごとぶつかって突き飛ばしつつ刺さった刃を抜き取ると、こんどこそ悶絶している最初の一体にとどめを刺す。

「そっちは――」

 だが、それで一安心ではない。

 白兵戦能力は未知数の同行者の方に目をやりつつ声をかける。


「はああっ!」

「ギギィッ!」

 だが、どうやら杞憂だったようだ。

 弓から腰の脇差に切り替えた彼女は、それを右手に持ったまま、殴りかかって来たゴブリンの腕を合気道のように極め、がら空きになった脇の下に刀身の半分ぐらいまでしっかり刺している。

 足元には既に倒れ伏して動かないゴブリンが一体。これだけ出来れば対ゴブリンならば十分だろう。


「ッ!」

 その瞬間背後に感じる気配。

 反射的に振り返った瞬間、俺は自分があと少しでも鈍感だったら死んでいたことを悟った。

「ぐぅっ!!」

 大型犬――というか狼に近いのかもしれない、大人の身長位ありそうな四つ足のモンスターが俺にその鋭い牙を突き立てようと飛び掛かる瞬間だった。

 バーゲスト――イングランドの伝承にある犬の魔物から採られたその名で呼ばれているこの犬型のモンスターの、二列に並んだ牙がまさに突き立てられる直前に間に合った形だ。

「ッ!!」

 多少のダメージを覚悟して左の籠手を俺の顔より大きく開かれたその口に叩き込む。

 二列の牙が籠手と硬質の音を立て、しっかりと分かる圧迫感と質量を持って噛み砕かんとする。


「クソ犬がっ!」

 叫びながら左腕を振り上げ、それにぶら下がるようになったバーゲストの腹、続いて首にダガーを何度も突き立てる。

「ギャンッ!!!」

 耳をつんざく叫びと、籠手の表面にくっきり残る歯形を残して奴が離れる。

 着地と同時に頭を低く下げて、未だ飛び掛かる意志こそ示しているものの、穴だらけの体はそうもいかない。

「……ちぃっ」

 こんな化け物でも犬型だと哀れに思うのはおかしな話だ。

 最早牙をむいて唸るだけの存在になったそいつに飛び掛かり、首を後ろから抱え込んでしっかりと刃を差し込んでいく――この映像は後でカットした方がいいかもしれない。モンスターとはいえ、犬猫の姿をしていると同情する奴は俺だけではない。


「さて……」

 そいつが最後の一匹だったようだ。

 改めて舞台上のラッパーの方へと目を向ける。

「Yo、like aバーサーカー、Suckerなキラーか狂犬か?なんでもいい買ってやるぜその喧嘩。イキって振り回すなまくらソード、俺には見えるぜ like a おままごと」

 門外漢故に上手いのか下手なのかもよく分からないラップが、その視線に返って来た。

 だが、やり合うつもりなのだろう。


「ッ!」

 そう思った矢先だった。

「更なるワームホール出現!これは……メガリス本体!?」

 オペレーターの声が、明らかに困惑していると分かる形で耳に響く。

 無理もない。同じものを見て困惑しているのだ。

 奴の背後に現れたワームホールと、そこから伸びる透明の触手。

 そしてその無数の触手たちがソファー型を形作り、奴がその上にリラックスした姿勢で腰を下ろすと同時に、ワームホールの中に消えたのだから。


「逃げるか!」

 ワームホールは奴を回収し、俺たちは反射的にステージに飛び乗る。

 奴の正体は分からない。恐らくガードだと思われるが確証はない。

 しかし、オペレーターの見立てが正しいのならば、奴をワームホールに逃がしたあの触手たちはメガリスのものだ。

 つまり、あれを追っていけばメガリスの元へとたどり着ける。

 そう思っての追跡は、ワームホールが俺たち自身を吸い込む形で加速する。


「……ん?」

 飛び込んだ先に広がっていたのは、奥に伸びる廊下。

 そしてコンクリート打ちっぱなしの壁と、そこに設けられたいくつかの部屋。

 つまり、この建物に飛び込んだ時の世界。

「どういう事……?」

 一緒に飛び込んだ彼女も訝しむ。

 逃げられたか?そう思った矢先、オペレーターから次の推測がもたらされた。

「先程の空間に酷似していますが、恐らく別の空間です。奴は同じような空間に二人を何度も閉じ込め、消耗させるつもりだと思われます」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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